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【書評】「楽しまなけりゃ損」ばかり言うバカにつける薬

自分を棚に上げ、他人に厳しい「勢古節」が大人気の勢古浩爾氏。そんな作家が古希を迎えて思ったことを綴った一冊を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げています。勢古氏の痛快なツッコミとダメ出しはいまだ現役のようですよ。


古希のリアル
勢古浩爾・著 草思社

勢古浩爾『古希のリアル』を読んだ。『まれに見るバカ』『ぶざまな人生』以来、何冊か読んできたが、もう著作が40冊を超えたようだ。自分のことは棚に上げて他人には厳しい、勢古節というべき特徴ある悪口が素敵だ。この人も古希を迎え、「老後なんてものはない、「老後などどうでもいい、「老後老後というかけ声がやかましい、と宣う。

わたしも気になっていた(正しくは気に障っていた)弘兼憲史の『古希に乾杯!ヨレヨレ人生も、また楽し』(海竜社)をこき下ろしていて痛快だ。この本、書店でちょっと立ち読みしたら、あまりのテキトーぶり、お気楽ぶり、無責任ぶりに腹が立った。もちろん買わないし、無料でも読む気はまったくない。

勢古さんのツッコミとダメ出しが痛快だ。弘兼の本は、ただの思いつきか、どこかで聞いたようなことを、そのまま書いているだけである、と身も蓋もない。弘兼は「究極のプラス思考人間」だそうで、「根本原理」は「たったひとつ」で「同じ時間を過ごすなら、楽しまなければ損」だという。「楽しく生きるのは人間の特権である」ともいう。うわー、出ました。いるいるそう言う馬鹿

「楽しまなければ損」という考え方が薄汚い。「楽しまなければ損病患者である。弘兼の「私は『豊かな老後』の豊かさを計る尺度は、どれだけ楽しく生きているかということだと思うのです」なんてセリフは聞き飽きた。恐ろしく平凡なことをいう作家だ。「楽しく生きるには『好かれる人(老人)』になることです」って、オリジナリティはまったくない。手抜きもいいとこである。

そして自慢げで得意気。本当に自分で書いているのか。こんなアホなタイトルをつけた編集者が書いてるんじゃないのか。結局、だれの人生が「ヨレヨレ」だったんだ。断じて弘兼自身ではない。誰の人生を指してヨレヨレ呼ばわりしているのか。「人間交差点」はよかった。あ、矢島正雄の原作がよかったんだ

勢古さんは言う。「もう老後だとか、豊かだとか、健康とか、楽しむとか、もったいないとか、損とか、後悔は嫌とか、が気持ち悪い」「実際、『いい歳したおとな』が『楽しむ』だの『楽しみたい』だのといいすぎる。(略)『楽しまなきゃ損だ』ってなにかね? 自分でなんの元手も払っていないのである。それで『楽しさ』だけはタダ取りしようというのである」。異議なし!

定年や老後に関する本や資料を読んでいると、不安材料がこれでもかというほど集められていることにうんざりしたという。定年前や老年前の人は、定年本や老後本でたっぷりと煽られ、自分の人生のこれからに不安を覚えている。わたしは実用ではなく、趣味でその類いを読んできたから殆ど他人事であるが。

「不安なのは、不安のなかに入る前が頂点で、いったんその中に入ってしまえば、案外大丈夫なものですよ、と。なんとかなりますって。現に、大抵の人はなんとかなっているし、なんとかしているのである。結局、自分は自分と思うしかない」という結論は全然面白くない。意地悪度が不足である。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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