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【書評】「ピタゴラスイッチ」の人が行動経済学を漫画にしたら?

昨年のノーベル経済学賞の受賞でも話題となった、身近な経済行動について心理学を交えて分析する「行動経済学」。今回、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しているのは、そんな新しい学問を楽しく学べる一冊です。あのNHK「ピタゴラスイッチ」の佐藤雅彦さんらがまとめた、まんがによる「行動経済学」を読んだ感想は?

行動経済まんが ヘンテコノミクス
佐藤雅彦、菅俊一、高橋秀明・著 マガジンハウス

佐藤雅彦・菅俊一・高橋秀明『行動経済まんが ヘンテコノミクス』を読んだ。ものすごく下手くそな漫画である。ものすごく古いセンスである。とうてい商業漫画とは呼べない出来である。身悶えしたくなるくらい陳腐なビジュアルである。我慢して読んだら、……面白かった

佐藤(64:推定年齢、以下同)は「ピタゴラスイッチ」の人、高橋(54)は電通のアドマン、何10年か前に有名だった。菅(38)は慶應SFCの佐藤の教え子らしい。行動経済学って難しそうだが、日常生活にあふれている漫画でやれば、うまく入り込めるだろうという狙いだ。「BRUTUS」連載改稿を中心に、新作を加えた全23話。

はじめは「サザエさん」でやりたかったが(確かに絶妙である)、伝手がない。佐藤の閃きで「ぼくらがサザエさんをやればいいんだ!」ということになり、漫画など描いたこともない高橋に依頼し快諾を得る(無謀な人たちだ)。漫画制作初心者の3人を引っ張ったのが、「ブルータス」編集部の矢作(これまた漫画初心者)。

全員がアマチュアだったのだ。いま最も注目されている学問(って本当なんですか)「行動経済学」の理論がサザエさん並みに、楽しく学べる唯一無二の一冊(誰もこんなこと考えないし)。たとえば「フレーミング効果」とは、同じ情報でも枠組みを変える、提示の仕方を変えると、価値が変わるということだ。

医師に告げられた「死亡率20%の手術成功率80%と言い換えることで、ネガティブ情報をポジティブに父親に伝えられた、という話。今から30年前、ホームベーカリーが発売され、マーケティングは好調だったが全然売れない。パンを自宅で作るという全く新しいカテゴリーに、市民権がなかったからだ。

そこで、自分で競争相手を作った。上位機種を発売し、一種類だった商品を群にすることで、人々に「世の中で一定の評価を得ているカテゴリーである」と思わせることができた。「買うか買わないかから、「どちらを買おうか」へ変化したためみごと大ヒット。これが「おとり効果」だ。それでも当時、相当に高価だったけど。

ついつい真ん中を選んでしまう「極端回避性」、顕著な特徴だけで物事を見極める「ハロー効果」、目先の損を嫌う心理「損失回避の法則」、「タダ」が判断を狂わせる「選好の逆転」など、ワカルワカルのお話が次々に。確かにそうだな、面白いなと思わせるが、だからどうした? という気がしないでもない。

簡単なクイズが出題されている。

(問)ある教授のお父さんのひとり息子が、その教授の息子のお父さんと話をしていますが、その教授はこの会話には加わっていません。そんなことは可能でしょうか。

答えは、この文末に(すぐに見ないで考えましょう)。この内容で、この漫画で(そこそこ面白かったけど)わざわざハードカバーで、1,620円とは高過ぎる。この値付けを「行動経済学」的に何とする?

クイズの答え:可能。教授は女性だった。わたしは煩悶、妻は即答…。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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