2017年に育児介護休業法が法改正となり、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)についても就業規則に正式記載せよ、とのお達しが出ました。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、その「マタハラ」とは具体的にどんな態度や待遇が該当するのか、今どのようなことが起きているのかについて分かりやすく解説しています。
マタニティハラスメント
ハラスメントというと、セクハラにパワハラ。マタニティ・ハラスメントまでが、昨年から就業規則への絶対的記載事項になっている。ハラスメントに関する記載ウェイトがますます広がっているこの頃だ。
大塚 「昨年は、育児介護休業法が2回も法改正になって大変でしたね」
深田GL 「マタニティ・ハラスメントまでが就業規則に正式に記載せよってなったのには、ちょっと驚いたな」
新米 「そうなんですかぁ~」
所長 「マタハラ自体は、昔からあったけどね…」
新米 「昔っていつ頃の話ですか?」
所長 「私が開業した頃はすでにあったよ。20年、もっと前だなぁ…」
E子 「その頃は、妊娠や結婚したことで解雇してはいけない、とかそういったことですか?」
所長 「妊娠がわかったら、辞めてほしいっていうケースだね。派遣社員は特に多かったよ」
新米 「辞めてほしいって、ズバリ、ストレートな事例ですね」
所長 「日本は今でも妊娠で、約6割の女性が仕事を辞めているんだよ」
E子 「育児休業後、職場復帰するのは、正社員で43.1%、派遣・パートなどの非正規社員はわずか4%…」
大塚 「日本は、M字カーブですもんねぇ。経済先進国では女性の就業率が高いほど出生率が高くなるっていう比例関係にあるそうですよ」
新米 「え? M字カーブのことは社労士試験にありましたけど、外国は逆なんですか? スゴイですね…!」
深田GL 「マタハラを分類すると、4つに分かれるそうだね」
大塚 「あぁ、『価値観押し付け型』とか『いじめ型』とか、あの分類ですね」
深田GL 「『子どものことを第一に考えないとダメだろう』とか女性は妊娠・出産を機に家庭に入るべき、家庭を優先すべき、それが幸せの形だと思い込む人が引き起こすマタハラが『価値観押し付け型』だね」
E子 「女性が夜遅くまで残業するのは気の毒だろうとか相手のことを思いやるんだけど、女性側の意思は無視してるんだよね。悪意はないからこそ、やっかいな存在って感じ」
深田GL 「『いじめ型』っていうのは、妊娠・出産で休んだ分の業務をカバーさせられる同僚の怒りの矛先が、妊娠や育児中の女性に向かってしまうケース。本来なら業務や人員の管理をする会社側に向かえば良いのに本人に向けて発してしまうんだろうね」
E子 「『迷惑なんだけど…』『いいよね、休めて』とか言われるパターンね」
大塚 「長時間働けなくなった社員を労働環境から排除するのが『追い出し型』のマタハラですね。『残業出来ないなら困るんだけど』とか『子どもが出来たら辞めてもらう』とか」
深田GL 「所長、昔だったら、『うちには、産休・育休はない』ってはっきり宣言する会社も珍しくなかったのでは?」
所長 「そうだね。友人が勤務していた社労士事務所でも、昔は代わりの人を入れられないから辞めてほしいって言われたっていってたもんなぁ…。さすがに今は無いけど、一般的な会社では、いまだに妊娠したら原則辞めさせられるという会社もまだあるみたいだねぇ…」
新米 「社労士事務所がですか…」
所長 「20年も前から、ネットで無料相談をしてきたけど、これは明らかに違法行為。いかに企業の法律に対する認識が低いかということが分かるけど、法律よりも『会社の慣例』が優先されてしまっていることもあるんだ」
E子 「マタハラ被害の多くは、この『追い出し型』みたいですね。日本の風土と言われると、ちょっとつらいです」
所長 「『パワハラ型』といわれるのもある。長時間働くことが美徳という会社が、日本にはまだあるだろ。長時間働けない育児を抱える女性は半人前という労働文化が。『時短勤務なんて許さない』『定時で帰る正社員はいらない』『妊婦でも特別扱いはしない』などね」
深田GL 「世の中に産休や育休、短時間勤務といった制度はあっても、それは特別なんだ、利用することは良しとしない、という職場の風土がある会社もまだあるってことですね」
所長 「女性は3つの関所を通過しなければ、妊娠・出産・育児をしながら働き続けることができないとも言われているわね」
新米 「3つの関所?」
所長 「そう。1つ目の関所は、妊娠を報告するとき」
大塚 「『妊娠解雇』ですね。被害相談件数では、この時点でマタハラされてしまうケースが圧倒的に多いです」
所長 「2つ目の関所は、産休・育休を取得するとき」
E子 「『育休切り』ですね」
所長 「3つ目の関所は、産休・育休を取得し復帰するとき」
E子 「短時間勤務制度を使いたいと申請しても利用させてもらえなかったり、降格(キャリアリセット)されたりするケースがありますね。この段階での相談が2番目に多いです」
大塚 「この3つの関所を無事に乗り越えたとしても、その後にはマタハラの親戚とも言われている『マミートラック』が待ち構えていることもありますよ」
新米 「マミートラックって何ですか?」
E子 「マミートラックっていうのは、仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのことをいうの。ワーキングマザーは、短時間勤務制度を利用して働くようなキャリアを選ばざるをえなくなることが多いでしょ。そうすると、不本意ながら出世コースから外された『マミートラック』に乗せられてしまうってわけ」
新米 「そういう乗り物に乗せられるってたとえですね」
大塚 「マミートラックが原因で仕事にやりがいを持てなくなったという女性も多いようですね」
深田GL 「うーん、『解雇される』等の明白なマタハラが企業側で解決されてもまた別の問題もあるってことだなぁ」
E子 「このマミートラックは根深い問題ですね。これは子育ての負担を母親が担うという男女の役割分担の意識が大きく変わらない限り解決できないでしょうね。難し~い…!」
● マタニティー ハラスメントとM字カーブ(厚生労働省HP)
厚生労働省がマタハラと定めるものには、大きく2つのものがあります。従業員が妊娠・出産したこと、育児や介護のための制度を利用したこと等を理由として、事業主が行う解雇、減給、降格、不利益な配置転換、契約を更新しない(契約社員の場合)といった行為、その他の不利益な取扱いをすること。また、職場におけて行われる上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児や介護のための制度を利用した等に関して、上司・同僚が「男女労働者」の就業環境を害する言動を行うこと。
女性の年齢階級別の労働力率(15歳以上の人口に占める働く人の割合)をグラフで表すと、学校卒業後20歳代でピークに達し、その後、30歳代の出産・育児期に落ち込み、子育てが一段落した40歳代で再上昇する。これをグラフに表すと、アルファベットの「M」に似た曲線を描く傾向が見られる。「M字カーブ」とはこのグラフの形態を指し、女性の就業状況の特徴を表している。このM字カーブと呼ばれる現象は、日本のほか、韓国においてもよりM字の底が深い特徴的な現象を示しているが、欧米諸国では見られない。しかし、近年では働く意欲のある女性が増え、子育て支援策が充実してきたこと、人手不足下の景気回復で、企業が女性の採用を増やしている面もあり、「M字カーブ現象」が浅くなって来ている。
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