毎年恒例のようになりつつありますが、今年もとある大学入試問題のミスが発覚し、学校側が追加合格や補償を実施することが発表され話題になりました。無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では、このような入試ミスの責任の所在はどこにあるのかを解説。その事例として、以前行われた実際の裁判の結果を紹介しています。
入試ミスは懲戒理由になるのか
「〇〇大学、入試ミスで〇名を追加合格」
最近、いくつかの学校で発覚し大きなニュースにもなりましたのでご存知の人も多いでしょう。すべての内容を細かく確認しているわけではありませんが、中には発覚までに時間がかかり、すでに別の進路を選択してしまっている人も多いようですね(別の大学や学部に入学、もしくは予備校で受験勉強中など)。
社労士試験で何回か(回数はヒミツです・汗)落ちている私としては全くの他人事とは思えず、追加合格した人たちの気持ちを考えるととても切なくなります。
では、このようなミスがあった場合そのミスをした本人は懲戒の対象になるのでしょうか。それについて裁判があります。
注:以下の裁判例は平成27年のものであり、冒頭でお話した最近の例ではありません。
ある大学で入試ミスが発覚しました。本当は合格だった受験者を誤って不合格にしてしまったのです。そこで、その大学は入試委員会の委員長の教授をその懲戒処分として給料を減給しました。その処分に対して納得いかなかった教授が裁判を起こしたのです。
ではこの裁判はどうなったか。
もし、この入試ミスを教授が「意図してやった」のであれば間違いなく懲戒理由になるでしょう。ただ、普通に考えてこのようなミスをしたい人がいるとはとても思えません(むしろなんとしてでもこのようなミスを無くしたいと考えるのが通常でしょう)。実際にこの裁判でも「意図してやった」とは認められませんでした。
また「人間は誰でもミスをする」と、よく言われるように「ミスをした=悪い」とも、一概には言えないでしょう。
では、裁判の結果はどうなったか。
学校が勝ちました。その入試ミスは「懲戒理由になる」と認められたのです。なぜか。その具体的な理由は下記の通りです。
- この教授は入試委員会の総責任者という立場にあり、入試試験開始後の試験問題の点検を入試ミス防止のためのガイドライン(この大学が作成したもの)にそって確認をすることが容易であったのに、やらなかった
- 問題の作成段階でも問題のチェック表の点検などを容易に実施できる(もしくは他の職員に命じて行わせることもできる)にもかかわらず、やらなかった
- 以上のように職務を怠ったのは懲戒理由になりうる
つまり簡単にお話すると
「入試ミスがあったことを責めているわけではないよ。でも、やるべきことをやらなくてミスが発生したのはダメだよね、責任者なわけだし」
ということです。
いかがでしょうか。これは実務上も非常に大切なポイントです。
「仕事でよくミスをする社員を解雇(もしくは懲戒処分)したい」というご相談は私もよくいただきます。ただ、「ミスをする」だけで、懲戒処分を行うのは通常は難しいと考えたほうが良いでしょう(もちろん、状況や頻度にもよりますが)。
ではどうするか。ミスがおこらないような「仕組み」を作ることです。例えば
- 担当者を複数にしてお互いにチェックしてもらう
- 担当者が一人の場合はチェックリストを作成して一人でもダブルチェックできるようにする
などです。このような仕組みを作った上で、それを行わずにミスが発生したのであればそれは、その社員の「職務怠慢」となります(場合によっては懲戒理由になりえます)。
ただ、もちろんこれは「ミスが起きたときに懲戒理由にするための仕組み」ではもちろんなく、ミスが起きないための仕組みです(言うまでもありませんが)。
みなさんの会社でも今一度、見直してみてはいかがでしょうか。
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