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【書評】AIが人類を超える日の前夜、自衛隊は何をすべきなのか

いま何かと話題の「シンギュラリティ(技術的特異点)」。AI(人工知能)が人間の能力を追い越し、我々の生活に大きな影響を及ぼすことを指しますが、このまま技術が進歩すると、各国が軍事技術にもAIを用いる可能性が高いと言われています。その世界的な動きに遅れを取っている我が国の自衛隊は、今後どうするべきなのでしょうか。無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが、そんな「AI戦争」について書かれた1冊をご紹介しています。

AI戦争論 進化する戦場で自衛隊は全滅する
兵藤二十八・著 飛鳥新社

兵藤二十八『AI戦争論 進化する戦場で自衛隊は全滅する』を読んだ。著者の経歴が興味深い。陸上自衛隊北部方面隊に勤務の後、神奈川大学英語英文科卒東京工業大学社会工学専攻修士作家・評論家。かつて、中国の大陸棚に広がる水深30m未満の海に日本の機雷を仕掛ければ、中国を経済的破滅に追い込めるという著者説に、なるほど~と思っていた。

ライバル国より優れたAIなしでは、これからの国家・国軍は、情報分析も、外交・宣伝も、作戦立案も、部隊指揮も、ハードウェアの機能発揮も、敵手にかなわなくなります。AIで劣勢に立ってしまった国家を、戦闘機や軍艦や戦車がその活躍で救ってくれるだろうとは、思わない方が安全でしょう。

著者はケータイも満足に使えぬ「原始人」であるが(わたしも)、シンギュラリティは来ると思っている。それは「寂滅」であり「人類の終わり」でもあると予感する(わたしは全然そうは思わない)。救いがあるとしたなら多分そこには苦痛がないことだ、と。軍事リアリストが何を言ってるンだか。

問題はその前夜の混乱期=今、である。人々は不完全な「準AI」を駆使して権力闘争に励む時代である。エネルギー危機の緩和や、世界的な食料価格破壊という福音がある一方、AIを用いた他国の民衆洗脳国家同士のフェイク報道合戦AIによるハッキングなどもある。大量破壊兵器のガレージ・キット化(あり得る)や、電子麻薬の開発(これには驚愕した)もなされるだろう。

「人類最後の30年」に日本の自衛隊がどのような形でAIを導入していけばよいのか、それがこの本のテーマになる。現状の自衛隊は、米軍や中共軍の後ろ姿すら霞んで見えなくなっている。いかに日本の自衛隊のAI装備が世界から遅れに遅れているかを、じつに詳細に描いているから悲しいったらない。

自衛隊は日本最大のサイバーエンジニア雇用者となれ、という提言が素晴らしい。未来の戦争が需要している人材は「電子特技隊員」である。陸海空それぞれに、ソフトウエアをその場でなんとかできる、広義のシステムエンジニアが必要だ。ドローンのプログラム仕様をカスタマイズする敵のサイバー攻撃を見破って臨機の対策を講ずるとか、戦場の要求に応える人材である。

「電子特技隊員」だけの特別な採用枠を用意する。潔く「戦闘要員としての資質を一切求めない。陸自の基地通信隊、海自のレーダー担当、空自の早期警戒管制機要員などは全員が「電子特技隊員」でいい。世界中の軍隊で、広義のコンピュータ保守、ソフトウエア開発、情報処理と管理、デジタル通信運用、サイバー戦対策のために、人がいくらいても足りない状態である。

2018年1月、キッシンジャーは連邦議会上院の軍事委員会に招致され「今はAI開発競争が、従来の国家間競争の様相を一変させようとしている」と警鐘を鳴らした。2017年9月、プーチンは全ロシアの理工系学生に向けて「AI分野で先にブレークスルーを成し遂げた者が、次の世界を支配する」と煽った。内外の反日勢力がAIをどう悪用してくるのか、読むほどに怖い本だ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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