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「妻死去時に夫が55歳以上でないと遺族年金が貰えない」は本当か

妻に先立たれ夫が遺族厚生年金を受給するというパターンは、可能性として充分あり得ることです。その際、話題になるのが「男女差」。夫が遺族年金を貰う場合、いくつか超えなければならないハードルがあるようです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、そんな事例について詳しく解説しています。

妻死亡時に夫が貰う遺族厚生年金は制限も厳しいが意外なメリットもある

いつもはですね、老齢の年金と遺族年金の給付事例を書く時は夫死亡の妻受給のパターンが主ではあるんですが、もちろんその逆もあります。如何せん、 男性のほうが先に亡くなる事が多いし、そもそも遺族年金の給付は女性のほうが圧倒的に有利な制度になってます。これはもう、昭和の流れというかそういう事情が関係してたりするので仕方ない部分もあります。

しかし、非正規雇用の人数が昭和60年頃までは650万人だったのが現在は2,000万人ほどに急激に増加し、また、何年か前まで派遣切りという深刻な問題もありました。男だからといって必ずしも経済的に有利という時代ではなくなってきて、平成26年4月からは夫にも国民年金からの遺族基礎年金の給付が認められるという変化も出てきました。

とはいえ、男女間の遺族年金の差はまだ根強い。今後、そういうのも解消されていくのかもしれませんが、やはり女性の雇用とか給与面での格差の事もあるし、妊娠出産育児後の社会復帰の困難さもあるので当分遺族年金の男女の違いはあっても仕方ないのかなとも思います。

さて、今日はですね、妻死亡の場合の遺族年金の事例で行きたいと思います。

1.昭和35年5月31日生まれの妻(今は58歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

20歳である昭和55年5月から昭和58年3月までの35ヶ月までは昼間学生として国民年金には任意加入だったが、任意加入してきちんと納めた。

昭和58年4月から平成8年7月までの160ヶ月は厚生年金に加入。この160ヶ月間の平均標準報酬月額(簡単に言うと給与の総額を加入月数で割ったもの)は27万円とします。平成8年8月から平成15年8月までの85ヶ月は国民年金第三号被保険者として国民年金保険料支払わなくても支払ったものとみなす。平成15年9月から現在まで厚生年金に加入していたが、平成30年8月31日に死亡するものとします。

死亡した日の翌日(9月1日)に厚生年金や健康保険の資格は喪失するので、平成30年8月までの180ヶ月が厚生年金期間。この180ヶ月の期間の平均標準報酬額(平成15年4月以降は賞与も年金額に反映するようになって、簡単に言うと給与と賞与の合計額を加入月数で割ったもの)は25万円とします。

じゃあ次は、夫。

2.昭和34年2月23日生まれの夫(今59歳)

この男性の生年月日からだと、厚生年金支給開始年齢は63歳で国民年金からの老齢基礎年金は65歳から。

厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)

63歳から100万円(月額83,333円)の老齢厚生年金と、65歳から70万円の老齢基礎年金が貰えるものとします。なお、この男性は65歳までは厚生年金に加入して働くものとします。給与(標準報酬月額)は30万円で働くものとします。

さて、妻が平成30年8月31日に厚生年金加入中に死亡した事により、遺族厚生年金の受給権が平成30年8月31日に発生し請求しました。18歳年度末未満の子は居ないものとします。また、妻とは生計維持関係あり。

※ 注意

生計維持関係っていうのは簡単に言うと死亡者と同居してて、遺族年金請求する人(この事例だと夫)の前年の年収が850万円未満(または前年所得が655.5万円未満)の場合を指すので、扶養されてた~とかいう意味とは異なる。

が発生。

で、ここで男女の制度差が出てくるんですが、夫が遺族厚生年金を貰う場合は妻死亡時に夫は55歳以上であり、また原則として支給される場合でも60歳になるまで待たないといけない。妻が貰う場合はそんな年齢条件は無い

また、死亡した妻には240ヶ月以上の厚生年金期間がありますが、その場合に加算される中高齢寡婦加算584,500円は夫には加算されない。その名の通り寡婦にしか加算されない。だから、支給されるのは夫が60歳到達した月の翌月から遺族厚生年金415,834円(月額34,652円)の支給が発生する。

次に、この夫は63歳から月額83,333円の老齢厚生年金の受給権も発生します。つい最近のメルマガにも書いてきたように65歳までは一人一種類の年金しか貰えないから、金額的に遺族厚生年金月額34,652円より老齢厚生年金月額83,333円貰ったほうが得な気がしますよね。

しかしこの夫は65歳までは給与標準報酬月額30万円で働き続ける。そうすると当然、老齢厚生年金が停止される場合が出てくる。老齢厚生年金が停止されるかどうかを見てみると…。

つまり、老齢厚生年金額は83,333円-在職中による停止額51,676円=31,666円となってしまう。なお、この記事では省略してますが、雇用保険から高年齢雇用継続給付金が貰える場合は更に年金額が停止されてしまう場合があるからこの金額より下回ってくる事もあるでしょう。

という事は、遺族厚生年金月額34,652円を貰ったほうが得という事になる。遺族年金や障害年金は在職中でも年金が停止されることは無いし、非課税年金でもある。所得にはならない。だから、この条件で65歳まで働くとすればそのまま遺族厚生年金を貰ったほうが得という事になる。

じゃあ、遺族厚生年金と老齢の年金の併給が可能になる65歳からはどうなるのか。65歳以降の遺族厚生年金は老齢厚生年金額を超えた場合はその差額が支給される。まず63歳の年金支給開始年齢から65歳までの24ヶ月間働いた分の老齢厚生年金が増える。増えた年金額は仮に8万円とします。となると、65歳からの老齢厚生年金額は108万円となり、一方遺族厚生年金は415,834円なので完全に老齢厚生年金額のほうが上なので支給される遺族厚生年金は無い。したがって、65歳からの夫の年金総額は

となる。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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