「人を自然に褒める(誉める)」ことって、できそうでいてなかなか難しいですよね。わざとらしくなく上手に人を褒める秘訣はあるのでしょうか? メルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者でアナウンサー歴26年・今も現役アナの熊谷章洋さんは、他人を褒めるときは見返りを求めず真意を伝えるのが基本で、言葉を重ねることがコツだと断言。さらに、重ね方には2つのポイントがあり、これさえ押さえれば「話し方の壁」が突破できるという秘策を惜しみなく披露しています。
自分勝手な誉め(褒め)言葉が失敗を招く
前回は、「まず先に褒める」感想の述べ方について、解説しました。
褒められるというのは、自分の存在価値が認められたということ。
だからこそ、自分の価値をより高く評価してくれた褒め言葉に、人は、強く深く、心を揺さぶられるわけですね。
否定から入って個性的なコメントを述べる、という行為は、どちらかというと、話し手本人の価値を認めてもらうためのもの。
それに対して、人を褒めるという行為は、目の前にいるその相手のために良かれと思って発する、言葉のプレゼントであり、基本的には、見返りを求めない、無私無欲なものであるべきです。
無理なく、すらすらっと、かつ本心から、褒め言葉が表現できるといいですよね。
褒め言葉を言う姿が無理しているように見られては、その褒め言葉自体、嘘っぽく感じられてしまいますし、かといって、あまりにも常套句をペラペラ羅列しては、本当にわかってるの?みんなに言ってるんでしょ?と思われてしまいます。
そのためには、「褒めの方程式」を持つこと。
褒め方自体は、方程式によって自動化するいっぽう、ケースバイケースの個々の事象について、その都度、一所懸命に表現するのです。
その褒めの方程式とは、
●「A」!
●(なにがAって、)BがCなところが、(AorAAですよ)
▼
「A」は、シンプルな褒め言葉のバリエーション。
よい、いい、素晴らしい、綺麗、美しい、おいしい、楽しい、好き、ナイス、グー(笑)…など、
全体を漠然と評価するタイプの褒め言葉です。
いっぽう、
「BがCなところが」
という部分が、褒め言葉の次元を深める「切り口」になります。
どこをどう褒めるか、その切り口で、話し手、褒め手の能力が問われていると言ってもいいかもしれません。
具体例で表してみると…
●「A=素晴らしいです」!
●(なにがA=素晴らしいって、)
●B=この商品のコンセプトが、
●C=災害時の使用まで想定されているところが…
▼
では最後の、(AorAAですよ)の「AA」には、どういう言葉が当てはまるのでしょうか?
ここが、前回の宿題になっていましたね。
初めて宿題形式にしてみましたので、前回記事の振り返りも、いつもより長く具体的に掲示しておきました。
*では、答えですよ。
●「A」!
●(なにがAって、)BがCなところが、(「A」ですよ)
▼
なら、
素晴らしいです、何が素晴らしいって、BがCなところが、素晴らしいですよ。
ですよね。
「BがCなところが、」という表現が付いていますから、独自の切り口があって、充分、その人らしい褒め言葉になってはいるのですが、Aのワードの性質が、全体を漠然と表現した褒め言葉ですから、繰り返すと残念ながらこのように、ちょっと「アホみたい」に聞こえてしまいます。
これ、やってしまいがち、ですよね、このほうが楽ですので。
ここで、知恵をもうひと絞りすると、グンとスマートになってきます。
*では最後をAAにしてみましょう。
●「A」!
●(なにがAって、)BがCなところが、「AA」ですよ
▼
素晴らしいです
(何が素晴らしいって、)B=この商品のコンセプトが、C=災害時の使用まで想定されているところが、使う人のニーズに応える、緻密な設計で、理念の高さを感じます!…
とまあ、そこは、話し手=褒め手の描写力になりますね。
AをAAにするということは、ここでいうと、素晴らしい!というその素晴らしさの内容を、さらに細かく付け加えて説明した、ということです。
美しい、なら、その美しさの内容、おいしい、なら、その美味しさの内容、ということです。
ご覧のように、AをAAにすることこそ、本当の意味で、頭の使いどころ。
だからこそ、それ以外の部分は方程式にしておけ、ということなのですね。
違う言い方をすると、褒めるにしても、説明するにしても、話し方を磨くうえで、必ずぶち当たるのが、この、「その次、その先の表現を絞り出す」というところ。
ここが、「話し方の壁」なんですよね。
この記事をお読みになっているあなたは、今、話し方の壁を突破する、まさに分水嶺に立っている、そしてそれを乗り越える感覚をつかみ、自分で再現できるようになり始めている、ということです。
*では、先に進みます。
「まず先に褒める」感想の言い方、最後のテーマは、「褒めどころ」です。
・褒める対象の相手が意識しているポイントを察知したうえで、
・どのぐらいのボリュームでその褒めどころをくすぐるか、
ということです。
もちろん、自分が受けた感動を、素直に、ありのままに伝えるのも、褒めるという言動の楽しい点ですから、あまりに意図的になりすぎても、いやらしくなってしまいますが、かといって、せっかく褒めるのであれば、
その自分の褒め言葉によって、より効果的に、相手に喜んで欲しいものですよね。
だからこそ、的を外さない、うまい褒め方を追求したいところですし、本当に感動したときのように、自分にとって褒めどころが一目瞭然という場合は、それほど苦労はしないのでしょうが、
場合によっては、どこを褒めたらいいのかわからないけど、ひとまず、褒め言葉から入っておきたい、というケースもあるでしょう。
そんな時なら、なおさらですよね。
だからこそ、愛される褒め言葉、相手に響く褒め言葉の必須条件をおさえておく必要があると思います。
まずひとつめのポイント、
・褒める対象の相手が意識しているポイントを察知する、
という点について。
簡単に言うと、相手ががんばったところを、きちんと理解しよう、ということです。
自分が褒められて嬉しい時を想像すればよくわかると思うのですが、嬉しい褒め言葉には2種類あって、
ひとつは、自分の苦労、努力、がんばり、心を砕いた点が、正当に評価されたとき。
そしてもうひとつは、自分でも思ってもみない点が評価されたとき、その褒め言葉によって、相手が自分のことをどう思っているのか、発見してしまうようなときです。
いずれにしても、人を誉める時において、褒める対象の相手が意識しているポイントを察知することが、なによりの大前提になることが、わかりますよね。
なにしろ、相手のために言う言葉なのですから、相手の意識に思いを馳せることが必要なのは、当然です。
逆に言うと、褒め方で失敗してしまうのは、「褒めなくてはいけない」あるいは、「褒めてやろう」と、自分が勝った状態になった時。
当メルマガで言い続けている、「主語が自分に」なっているわけですね。
例えば、手料理を振舞ってもらって、美味しい!と褒める場合。
褒めの方程式に則って、
●「A」!
●(なにがAって、)BがCなところが、(AAですよ)
▼
美味しいです!
(なにが美味しいって、)このレタスの新鮮さ、瑞々しくて、歯ごたえシャキシャキですよね~
と褒めた場合。
褒めの方程式には、完全に合致していますよね。
でもこれが、相手をとても満足させるときと、それほどでもなく、ちょっとがっかりさせるとき。
二通りが考えられると思うのですが、それはどういうときだと思いますか?
これを、今回の宿題としたいと思います。次回の解説をお楽しみに。
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