誰もが知っているあの偉人の名言、しかしその「真の意味」は認知されているものとはまったく違うということも少なくないようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、その真実を暴露した一冊の書籍を紹介しています。
『名言の真実』
出口汪・監修 小学館
出口汪『名言の真実』を読んだ。予備校の現代文の講義でカリスマ的人気を博した人だという。よく見たら著者ではない。監修した人。三人のライターの名前が奥付にある。「あの名言、ことわざ、格言の真相を暴く」と銘打った小B6判で白いスペースの多い本。あ、そうだったのと感心したのは、47件中数件。
いい企画である。名言とは歴史的人物の発言や文章から、その一部を切り取ったものだが、ユーザーとしては名言の前後の文脈を知らずに、自分に都合よく使っている。名言の出典、真の意味など知らない。どのような背景、経緯で生まれたのか、知っておいて損はない。いや、かなり好奇心を掻き立てられる。
日本の偉人のざんねん過ぎる名言、世界の偉人のカンチガイされている名言、真相を知ると仰天することわざ、誤解されそうなことわざ(日本編)、誤解されそうなことわざ(世界編)、という4パートで構成されている。一つにつき2~4ページ。大事なところ太字(最近こういう構成の本が少なくない)。で、文章は短くてもメリハリがきいて、読ませる、否、ふつうに平凡であった。
それでもまあ、初めて聞く真相もあって、読んでよかったとは思う。リンドバーグ「翼よ、あれがパリの灯だ!」は、おそらく後世の創作。実際には、彼は自分がパリに到着したことに気づいていなかったらしい。着陸してから、空港の人に「ここはパリですか?」と訊いて、はじめてパリだとわかったらしい。
エジソンの「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」は、「99%の努力」が強調されがちだが、彼が伝えたかったのは「1%のひらめき」の大切さである。「ひらめき」がなければ「努力」はムダという意味である。そだねー。「健全な精神は、健全な肉体に宿る」の真意は「健全な肉体には健全な魂がなかなか宿らない」ということで、皮肉である。「宿ればいいなー」ということ。
エドワード・ブルワー・リットンの「ペンは剣より強し」は、言論は暴力に勝るという意味ではない。その前にある「真に偉大なる人物の統治の前では」という言葉が省かれている。つまり「権力で暴力を抑え込める」という意味だ。マッカーサーの発言とされる「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」は、自分で考えたのではなく、元ネタは諸説あるが歌の一節からの引用であるという。
1963年、人類初の女性宇宙飛行士・テレシコワが発した「私はカモメ」は、女性らしいロマンチックな表現として人気を呼び、当時は流行語にもなった。実際はヴォストーク6号のコードネームがロシア語で「カモメ」を意味する「チャイカ」だったというだけである。彼女は当然の連絡業務として、「こちらはチャイカ(かもめ)号」と言っただけなのだ。50年以上前のことである。
こんなかんじで、文字組みはスカスカだから四半時もあれば楽々読める。日本編より世界編のほうが面白かった。47の参考文献が文末に並んでいる。イージーな出版企画だ。誰かが名言を吐いたときに突っこんで、蘊蓄を垂れるのに有効だと思うが、そういう人はぜったいに嫌がられると思う。やな奴。
編集長 柴田忠男
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