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ビットコイン発明者「サトシ・ナカモト」が見越していた大問題

日進月歩の進化を遂げる、ブロックチェーンを巡るテクノロジー。ドルや円などの法定通貨に取って代わる日は来るのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的エンジニアの中島聡さんが、自身が気になった記事を引きながらブロックチェーンの現在地と未来を分析するとともに、とある報道から見て取れるMicrosoftに起こった大きな企業文化の変化を好意的に紹介しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年6月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

私の目に止まった記事

The Truth about Smart Contracts

サトシ・ナカモトと名乗る研究者によって発明されたブロックチェーン(およびビットコイン)が、ノーベル経済学賞をとっても良いぐらいの画期的な発明であることは、このメルマガで何度も触れてきました。彼の書いた論文には本当に感動したのです(参照:Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System)。これまでの技術で解決できなかった問題が何故どうやって解決するかが、非常に明確に書いてある名論文です。

その後、ヴィタリック・ブテリンがブロックチェーンにスマートコントラクトと呼ばれるプログラミング機能を加えた「イーサリアム」を発表し、ブロックチェーンを単なる「通貨取引の台帳から様々な取引の台帳へと進化させる試みが行われました。

私も彼が書いたホワイトペーパー(参照:A Next-Generation Smart Contract and Decentralized Application Platform)を読みましたが、(サトシ・ナカモトのそれと比べて)あまり納得の出来るものではありませんでした

発想は、ビットコインにあるスクリプトの機能を拡張し、本格的なプログラムが書けるし、それによってブロックチェーンを(不動産などの取引の記録を残す台帳として使おうというものです。発想としては面白いのですが、現実的には、イーサリアムのブロックチェーンそのものが不動産取引の台帳にならない限りは使えない訳で、その溝をどう埋めるのかが、論文を読んだだけでは納得できなかったのです。また、プログラムにつきもののバグやセキュリティホールにどう対処するかも不明確でした。

この記事は、私のその二つの疑問に答えてくれるものでした。

最初の疑問に関しては、筆者は「第三者の介在無しには結局はなりたたない」と否定的です。これは現実の世界で行われる、「商品を渡した」「不動産の所有権を移した」ことを証明した上でブロックチェーンの中に記録するには、どうしても中立した立場の第三者が必要である、という指摘です。

つまり、全てブロックチェーン上で完結できるデジタルコンテンツのようなものならば(第三者の介入無しに)使えますが、そうでない場合には、あまりメリットがない、と指摘しているのです(実際には、どこかの国が不動産の所有権は全てイーサリアム上に記述すると宣言してしまえば良いのですが、それは簡単な話ではありません)。

二つ目の疑問に関しては、スマートコントラクトのバグやセキュリティホールは100%避けることは不可能だし、それを自動的に検出するもしくはバグやセキュリティホールがないことを証明することは不可能だと指摘しています。

ビットコインのスクリプトぐらい単純なものであれば自動検出も可能だが、本格的なプログラミング環境を持ったイーサリアムではそれは不可能、というのが筆者の主張です。

サトシ・ナカモトはそこまで見越して、あえてビットコインのスクリプト機能を限定的にしたのだとも考えることが可能です。

私の目に止まった記事 2

Microsoft is partnering on an ambitious blockchain project to help content creators get paid – starting with gamers

上の話とも関連しますが、MicrosoftとEY(Ernst & Young)がブロックチェーンを使ってデジタルコンテンツのライセンス管理をする仕組みを、まずはゲームのライセンス向けに発表した、という報道です。

この記事によると、特定のユーザーがゲームを購入したかどうかをブロックチェーン上に記録し、ゲームの立ち上がり時には、そのユーザーが購入したかどうかをブロックチェーンを参照して確認するのです。

まずはゲームから開始し、他のデジタル・コンテンツにも応用するそうです。ブロックチェーンそのものが誰が購入したのかを記録している台帳なので、(上に書いた)不動産取引のように第三者の介入無しに取引を成立させることが可能です。

デジタル・コンテンツの購入となれば、莫大なトランザクション(取引)を裁かなければならず、従来型のブロックチェーンでは不可能ですが、EYは「十分にスケールすると主張しているそうです。

ブロックチェーンを使って、デジタル・コンテンツの売買をすれば、権利元は売り上げが瞬時に把握できるようになります。さらに、透明性が担保されるため、複数の権利者が絡んでいる場合の売り上げの分配も今よりも遙かに便利に、かつ公平に行うことが可能になります。

ひと昔前のMicrosoftであれば、この手の仕組みはMicrosoft自身がサービスとして提供することによって、有利な立場に立とうとしていたと思います。サティア・ナデラがCEOになって、Microsoftの企業文化そのものが大きく変わったことを示すとても良い例です。

image by: Shutterstock.com

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