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台湾人の美徳とされる「日本精神」が、日本人から失われ始めている

特に日本統治時代の頃を知る台湾の人々にとって、今も美徳の代名詞とされているという「日本精神」。しかし、台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、当の日本国内では現在その日本精神が失われつつあると指摘しています。なぜ、かつての日本精神は失われてしまったのか、黄さんはメルマガの記事内で様々な側面から考察しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年6月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【日本】日本人から「日本精神」が消える日

● <日本>「消えた子ども」1,000人超──大規模アンケートから見えてきた衝撃の事実 『ルポ 消えた子どもたち』より

日本社会は今混沌としています。かつての常識が常識でなくなり、礼儀や礼節、道徳、品性、品行など、日本人の根底を流れていた最も重要なものが、社会の変化とともに危機的状況にあるように思えて仕方ありません。

上記の記事は、NHKスペシャル『消えた子どもたち』と題されたテレビ番組が取ったアンケート結果です。虐待や貧困などにより、社会から姿を消した子供たちを追った内容で、子供たちが消える裏にある大人の事情にも触れています。大人が抱えるのは、離婚貧困虐待精神疾患DVなどの問題であり、それらの問題のひずみは社会的弱者である子供に向かいネグレクトや虐待などの問題を引き起こします。

これと似たような問題で、日本では無戸籍問題があります。無戸籍問題と長年向き合っている井戸まさえ氏は、政治家として活躍する傍ら、無戸籍問題に奔走し、さらに五児の母であるという多才な人物ですが、井戸氏の著書『無戸籍の日本人』によると、出生届けを出されずに出生した児童、または成人たちの歩む道は茨の道であり、彼らの本来所有すべき「生きる権利を取り戻すのは一人では難しい。誰かが手を差し伸べることで、彼らの人生は大きく変わるし、場合によっては法改正も必要だというのが井戸氏の主張です。

●『無戸籍の日本人』井戸まさえ・著/集英社

私は、最近頻繁に流れる子供を殺す親たちのニュースにふれるたび、これらの問題の根底には同じ問題が存在しているように思えて仕方ないのです。それは、かつての日本人なら誰でも持っていたもの、そして李登輝元台湾総統が今でも焦がれてやまないもの、新渡戸稲造の武士道精神の喪失です。

台湾では、日本の武士道精神を「ジップンチンシン日本精神)」と呼び、日本時代を経験した年寄りたちは美徳の代名詞として「ジップンチンシン」を使っています。武士道精神とは、簡単に言ってしまえば、「名誉忠義」です。日本では、学校や家庭で日本人が持つべき道徳や公共精神などを受け継いできました。外国人旅行者が日本を訪れると、日本の街は整然としていて、ゴミひとつ落ちていないことに驚くのは、日本人の公共精神の高さ故です。

しかし、社会の変化とともに、日本人の間でこの武士道精神が失われつつあるのではないかというのが私の感想です。日本社会にも貧富の差がだんだんと表面化してきており、大人だけでなく子供の貧困も社会問題化しています。それに加えて核家族化が進み、代々受け継がれてきた概念がだんだんと希薄になる、または断絶してしまっています。

そして、家庭環境の多様化で、貧困家庭では子供の家庭教育をまともに行わないケースも多く、そうした環境で育った子供は大人になっても道徳観念を持つことができません。ましてや無戸籍の日本人は学校にいくことさえありません。また、富裕層にも問題があり、国際化の波を受け、これからは英語の時代だという時代の潮流に流され、幼少期から子供をインターナショナルスクールに通わせる、または海外移住することで、日本人としての教育が抜け落ちてしまう危険性もあります。

今、公開中の映画『万引き家族』はそうした日本の貧困などの実情を、リアルなまでに映画化したものでしょう。貧困なのは主人公の家族(のような集団)を取り巻く金銭問題だけではありません。金銭を得るためのモラルの崩壊、無感情、警察官の無理解からくる傲慢な言葉、人として求めるものを得られない日本社会のあり方など、様々な問題を包括しています。

是枝裕和監督最新作『万引き家族』公式サイト

この映画は、皆さんご存知のようにカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞しました。それは裏を返せば、この映画が取り上げている様々な日本社会の問題について、世界各国も同じように直面して同じように悩んでいるからこその理解であり、共感だったのではないでしょうか。

是枝監督は社会派の映画監督として、これまでも様々な問題を映画化してきました。中でも、巣鴨子供置き去り事件をモデルにした『誰も知らない』という映画は、『万引き家族』同様に日本社会の闇の部分にスポットをあてた作品です。育児放棄やネグレクトまではいかないまでも、離婚率の上昇によって片親家庭が増え、食事はスーパーの惣菜や冷凍食品という家庭はとても多いでしょう。

こうして、ぬか漬けを知らない子供たちが成人する。そんな少しの変化が累積して、日本社会は今のような状況になっています。昔はよかったというつもりはありませんが、日本人が日本精神を忘れ去ったその先にあるものは、明るい未来なのか、それとも違うものなのか。それを想像し、日本は今何をするべきなのかを判断してほしいと願うばかりです。

大学受験改革や、小学校からの英語の授業導入もいいですが、国際社会も同じような問題に直面しています。子供が育つ環境をどう整えればいいのか、そして子供に何を受け継いでいくべきなのかを決める前に、日本はもういちど立ち止まって日本人としてどうありたいかを再考すべきではないでしょうか。

「倫理道徳とは何か」を問われているのは日本だけではありません。今や世界的現象のひとつであり、世界はどんどん変わっています。90年代の社会主義体制の崩壊後、世界はグローバリズムが主流となり、社会主義は「社会主義文明」どころか、「社会主義道徳」さえも創り出すことができませんでした。

では、日米欧の先進各国は新時代の道徳を創出できたのかというと、ますます社会格差が広がって、シンガポールのリー・クアンユー元首相が唱えていた「アジア的価値も時代とともに崩壊に向かっています。世界各国で家庭の崩壊は進み、学校ではイジメが絶えません。戦前の「教育勅語」や「道徳教育」などは、今は見る影もありません。

戦国末期から開国、明治維新前後に日本を訪れた西洋伝教師、軍人、学者、使節の見聞録を読むと、かつての日本はユートピアのような国だというイメージがありました。私が住んでいる茨城県には、数十年前は農家の畑の前に無人の野菜販売所があって、購入者は代金を自己申告で箱に入れるシステムでしたが、それも今ではすっかりなくなってしまいました。なぜなくなったのかというと、代金を払わないばかりか、収穫前の農産物まで持っていかれてしまうこともあるからです。

私が日本に来た60年代は、戦前の人々がまだ社会の主流でした。日本社会が変わり始めたのは恐らく70年代からではないかと思います。それは日本だけではなく、世界的潮流でした。その渦中で、私は日本社会において「善悪」や道徳を超える文化を発現してきました。そのことをまとめたのが、数年前に出版された拙著『日本人の道徳力─道徳を超える日本精神─』(扶桑社刊)です。

台湾のある大学教授は、この本を翻訳して台湾で上梓する予定です。つまり、台湾でも倫理や道徳についての変化にどう対応すればいいのかに関心が高まっているということでしょう。

私が半世紀をかけて問うてきた「道徳」というものは、決して道徳教育で育成されるものではありません儒教の「仁義道徳」の教育からは、外的強制であり、逆に人間の良心を奪い、偽善者や独善者しか生まず、「欲望最高道徳最低」の社会しか生みません。

新渡戸稲造の武士道が素晴らしいのは、「死とは何か」を問うだけでなく、「実践」を美学にまで高めることができるからです。私は日本の道徳力を求めて半世紀経ちますが、なおも解明できていないことはいろいろとあります。私が、善を超越できるのは美であると思っています。古代ギリシャに「美善」があるように、私はこれからも日本の美と善についての思索を続けていきたいと思っています。

(メルマガより一部抜粋)

image by: seaonweb / Shutterstock.com

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