ネットショップ等に押され、苦戦が続く日本のスポーツ用品業界。一体どうすれば復調できるのでしょうか。無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の著者・梅本泰則さんは、経営陣の世代交代が進む中で、スポーツ用品業界全体を盛り上げたいと奮闘する2代目カリスマが皆無な点も大きいとした上で、スポーツ産業全体に追い風が吹いている今こそ成長分野のVRやツーリズム、他業種を取り込むチャンスが到来していると指摘しています。
業界を引っ張る人材はいるか?
スポーツ用品メーカーさんと話をしても、問屋さんと話をしても、小売店さんと話をしても、スポーツ用品業界の将来について語る人は少ないです。たまたま私の周りだけがそうなのかもしれません。しかし、本当に業界のことを考えている人は少ないような気がします。はたしてこれでスポーツ用品業界は大丈夫なのでしょうか。
皆さん、自社や自店の将来については、真剣に考えておられます。どうしたら生き残っていけるか、どうしたら業績を伸ばせるか、それなりの戦略はお持ちです。ですから、メーカーさんは直営ショップを出店します。販売店の選別も始まりました。問屋さんはずしも行われています。その問屋さんは、手間のかかることを避けて手っ取り早く売上のできる先に売込みをかけているようです。
一方、小売店さんはどうでしょう。ネットショップへの進出がカギだと言われていましたがその戦略も行き詰まりつつあります。とにかく次の手が見えてこない状態です。このままだと、スポーツ用品業界はしぼんでいってしまうかもしれません。本当に心配です。
もっとも、私に何か出来るというわけでもありませんのでどうしようもありません。出来るのは、こうしてゴタクを並べるだけのことです。それでも良いので、言わせてください。
今、業界に必要な人材
矢野経済研究所の調べによれば、2017年のスポーツ用品市場は約1兆4,700億円(メーカー出荷額)です。前年比は、たったの2.3%の伸びでしかありません。スポーツ庁が試算をしている2020年のスポーツ小売市場は2.9兆円です(スポーツ未来開拓会議中間報告より)。
どうしたら、あと3年でこの数字に追いつけるのでしょう。そのためにアクセルを踏もうとしているメーカーさん、問屋さん、小売店さんはあるのでしょうか。残念ながら、個々人的にはそのような存在を感じることはありません。業界紙の記事を読んでも、将来の展望を熱く語る経営者はいないように思います。
とはいえ、今必要なのは業界を引っ張ることのできる人材です。1980年代や90年代には、メーカーさんにも、問屋さんにも、小売店さんにもそんな存在の経営者がいました。その後、それぞれの代替わりが進んでからというもの、ぐいぐいと業界を引っ張って行く人が現れません。少なくとも私にはそう思えます。
しかし今、スポーツ産業には大きな風が吹いているのです。どれくらいの人が、その風を感じているのでしょう。当然、そのスポーツ産業の中にスポーツ用品も含まれます。それなのに、その風を受けようとしないのは問題です。この20年の間に経営陣が若返ったのですから、もっとチャレンジングな経営者が出てきてもいいのではと思います。
世界的に見れば、スポーツ用品業界はナイキとアディダスに引っ張られているいっていいいでしょう。彼らの戦略はいつも斬新です。ところが、日本にはそのようなスポーツ企業は見あたりません。今までの戦略に、少し手を加えているだけです。
業界を革新するために
さて2年前、日本のバスケットボールの世界が壊れようとしていたとき、川淵三郎氏が登場しました。そして、見事にバスケットボール界を立ち直らせたのは記憶に新しいところです。あの時、川淵氏を動かしたのは何だったのでしょうか。それは、スポーツを愛する人に対する「思い」ではないかと考えています。我がスポーツ用品業界にも、そんな人はいるはずです。
今、スポーツ用品業界は、かつてのバスケット界のように大変な危機にあります。例えれば、徳川幕府の末期のようなものです。危機に面していることは分かっていても、どうしたらいいか分かりません。ということは、業界に幕末の志士のような人材が必要なのかもしれません。
とはいえ、事態は幕末に比べれば、そんなに難しくはありません。そのために行うことは、メーカーさんも問屋さんも小売店さんも一緒になって業界の将来を絵にかくことです。
例えば、業界全体でARやVRの技術を導入することを考えます。そうした機器や技術を持った企業と手を組んで、スポーツ業界で活用できるアプリやソフトを開発すればどうでしょう。問屋さんも新しい活躍の場が出来ます。そうすれば、スポーツ選手ばかりでなく、観戦者、応援者もお客様となっていくことでしょう。
また、スポーツの組織やチームのための人材育成を業界が一丸となって推し進めます。例えば、最新機器を使って、スポーツに必要な戦略分析や選手管理ができる人材の養成に力を入れればどうでしょう。プロアマ、組織の大小問わず、技術向上、戦力アップに貢献できます。そして、スポーツ組織の経営やマーケティングに長けた人材を養成することも、業界の要請です。業界が一つになって育てるべきではないでしょうか。
そしてまた、スポーツツーリズムという動きがあります。業界と各自治体が連携して、各地のスポーツを盛んにし、地方創生を図るということも時代の要請です。ここにも新しいビジネスチャンスがあります。
ここにあげたいくつかのことは、スポーツ産業として国が支援をしようとしている分野です。この動きに、スポーツ用品業界として乗っていくことが吹いている風をつかまえるということではないでしょうか。
もっとも、私がくどくどと言わなくても、既に考えておられる業界の方はいるはずです。ぜひ川淵チェアマンのように前に出て、業界を引っ張り革新していって欲しいと切望しています。
■今日のツボ■
- このまま手を打たなければ、スポーツ業界はしぼんでいく
- 業界を引っ張っていける人材が必要である
- 業界が一丸となってチャレンジしていけば、道は開ける