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【書評】古市憲寿が描く不穏な未来予想図。2040年のヤバい日本

2040年の日本は抗鬱剤のおかげで皆が幸せに暮らしている──。そんな衝撃的な未来を語るのは、今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介している一冊の本。なぜ、このようなことが起こるのか、詳しく語られています。


だから日本はズレている
古市憲寿・著 新潮社

古市憲寿『だから日本はズレている』を読んだ。わたしはこの若手評論家のいうことに、わりと共感できる。彼がこの本で考えているのは、なぜこの国はいつも大事なときにズレてしまうのかということだという。しかし、読み始めたら微妙にズレている。全然タイムリーとはいえない内容だ。既視感、違和感がある。変だなあと思って奥付を見たら、2014年4月刊だった。

残念ながら大分古くさい。巻末に「このままでは『2040年の日本』はこうなる」という、2040年の日本をレポートした章があった。これなら絶対に古くないw 中国から久しぶりに日本に戻ってきた著者。中国は首都が上海に移り再興を目指している。やはり一度潰れたんだ~。相対的貧困率が4割を超えた日本では、もはや「貧困問題」や「格差社会」などは語られない。社会の前提だからだ。

階級社会化が進行した2030年代には、街でデモや暴動が起こった。最低賃金法の撤廃や公的年金廃止などが含まれた社会保障と雇用一体改革の強行採決時には、国会を老若男女が囲んだ。しかし階級が固定し、人々がそれを当然のことと思うようになると、国民の幸福度は上がり、治安も回復していった。

治安維持に一役買ったのは生活保護制度の代わりの「ベーシックインカム」と、移民相当職と呼ばれる労働者に対しての「ハッピーサプリ(抗鬱剤)」無料配布だ。日本は低賃金労働を移民に任せるという選択肢が取れなかった。東アジア諸国の経済水準が上昇し、わざわざ日本に出稼ぎに出る必要がなくなったからだ。政府は2020年に「労働開国」を打ち出したが既に手遅れであった。

移民相当職に日本の貧困層が従事し、時給150円でもハッピーサプリのおかげで幸せになれた。日本の人口は1億人を割った。かつて発表された「日本の将来推計人口」を超えるスピードで人口は減った。政府の少子化対策の失敗と、経済成長国で職を得るため、日本を脱出する人々の増加によるものだ。

奇跡的に平和憲法は維持されたまま、安全保障はグローバル警備会社に依存している。自衛隊の存在感は薄くなったが、給与保証と複数の資格が取得できるため、若者達の人気の職業になっている。東京と福岡が「中心都市」として持ちこたえている。交付税を打ち切られ疲弊した地方は、コンパクトシティという中規模都市を形成している。過疎地域や限界集落はどんどん消滅していった。

東京の繁華街は活気に溢れている。ほとんどが老人だが。単身高齢者が増えた。今後の彼らの介護をどうするかは解決策が出ていない。老人たちの生態は、平成生まれで初の東京都知事になった朝井リョウの小説『何者(老人編)』に詳しく書かれている。救急車や消防車は有料化、ゴミが散乱する街が増えた。

といった、あまり好ましくない未来を予測したSFまがいである。データにもとづく大胆な未来予測、といったものではない。思いつきの未来だ。日本ではあらゆる社会問題の解決が先送りされている。その結果、こうなるかもというエンタメ。本気で書いているなら、ズレているのは君だ。面白いけど。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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