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【書評】バカバカしいけど愛おしい「県境マニア」決死のレポート

県と県の間にある「県境」。それをまたぐことに生きがいを感じる「県境マニア」な方々が存在します。無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しているのは、県境の魅力に取り憑かれ、登山初心者なのに剣ヶ峰にまで登ってしまったある男が綴った一冊です。

カラー版 – ふしぎな県境 – 歩ける、またげる、愉しめる

西村まさゆき・著 中央公論新社

西村まさゆき『ふしぎな県境 歩ける、またげる、愉しめる』を読んだ。著者はニッチな“県境マニア”である。実際に現地に行って、県境をまたいだ証拠写真を撮る。そしてなぜそこに県境が引かれたのかを調査する(もちろん下調べ済み)。13か所の実地調査を敢行したレポートである。まるで「デイリーポータルZ」みたいな展開だ~と思ったらアタリ。

オルタナ系のポータルサイト「Daily Portal Z」は「愉快な気分になりますが、役にたつことはありません」と宣言し、世の中のトレンドをあまり意識せず、自分たちが興奮したことだけを掲載している。かなりバカバカしいことを企画、実践、レポートしていて楽しい。そこで連載した記事をまとめたようだ。

「境界線はその土地の歴史が刻み込まれた記念碑である」とは格好いいが、面白い境界線を地図上で探し出すのが楽しくて、実際そこに行って見たらなお楽しいだろうという、野次馬な志が潔い。東京の練馬に県境がひと目で分かる場所があるので見に行った、店舗内に県境ラインが引かれているショッピングモール東京都を東西に1秒で横断できる場所福岡県の中の熊本県、などバラエティ豊かな13物件。

ハイライトは「標高2,000メートルの盲腸県境と危険すぎる県境」で、26ページにもなる渾身のレポート。「盲腸県境」とは著者が命名した。「変わった形の県境クエスト」なるゲームがあれば、ラスボス級の県境は「福島県の盲腸県境」だという。福島県、山形県、新潟県の三県境、三国小屋あたりから飯豊山(2,105m)山頂を経て、御西小屋まで福島県が新潟県と山形県の間に細く(幅1.0メートル:by道路台帳)長く、続く。

県境マニアのあこがれの聖地であるらしい。著者がここにたどり着くまでが超絶の苦行だったという。なにしろ本格登山なのだ。素人には上れないので、飯豊山ガイドを雇う。坂道のきつい登山ルートで尾根まで出て、尾根伝いに上り下りしながら山小屋を目指すが、滑落事故がよく起きる剣ヶ峰は、登山初心者にとって死ぬほど怖かったという。正直、尾根の縦走をなめていたのだ。

三国小屋から先が「盲腸県境」である。朝5時から登山を始め10時間を経過している。HP5、MPゼロと形容するが、ゲームをやらないわたしには分からない。運動不足の登山ビギナーおっさんが、三県境を踏みしめて標高2,000mの木山小屋着。翌朝、飯豊山の山頂を踏む。そして、登山は下山がいちばんの山場である。著者もフラフラになって這々の体で生還したのだった。

ほかの県境物件もみな興味深く、行ってはみたいが、まあ読むだけでいいや。「埼玉、栃木、群馬の三県境が観光地化している?」は、渡良瀬遊水池そばにあり、日本で唯一、鉄道駅から歩いて10分で行けるため「歩いて気軽に行ける三県境」として新聞やテレビで報道され、県境マニアの聖地になっているとか。

わたしが行くなら、埼京線+宇都宮線+東武日光線で柳生駅か。埼京線+武蔵野線+東武日光線というルートもある。電車だけで往復3時間、2,000円以内。平日の午後に可能なプロジェクトである。わが戸田市のガイドマップで、戸田市、蕨市、さいたま市の「市境」を国道79号線のカーブ上に見つけた。週末に自転車で行ってみる。往復30分、無料。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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