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安倍政権に早くも暗雲。沖縄知事選、自公丸抱え候補落選の衝撃

急逝した翁長前知事の意思を引き継ぐ玉城デニー氏の勝利に終わった、沖縄知事選。一時は優勢が伝えられた与党が推す佐喜真淳候補でしたが、蓋を開ければ「オール沖縄」玉城氏が快勝。何がこの結果を招いたのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんが自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で詳細に分析・考察しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年10月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

カネよりイノチを選んだ沖縄県民の尊厳──3選安倍首相は緒戦で躓く不吉なスタート

9月30日投開票の沖縄県知事選で、翁長雄志=前知事の辺野古基地建設阻止の遺志を継ぐ玉城デニー=前衆院議員が、自公与党に丸抱えの支援を受けた佐喜真淳=前宜野湾市長に8万票の差をつけて勝利した。

玉城勝利の意味の4レベル

政局論のレベルでは、これは、自民党総裁として3選を果たしたばかりの安倍晋三首相にとって、最初の一歩を踏み出したとたんにスッテンコロリン転んでしまったような蹉跌で、これから来夏参院選に向けた政権運営に不安を抱かせる凶兆である。他方、野党にとっては、オール沖縄方式に学びつつ参院選で統一候補を押し立てて与党に3分の2議席を失わせるという当面の目標に向かって、弾みがつく幸先のよい吉兆である。

政策論のレベルでは、これは、辺野古基地建設の是非という中心課題に触れずにはぐらかそうとした自公=佐喜真陣営の致命的敗北であり、それを正面から訴えて翁長氏の遺志を引き継ぐことを宣言した玉城陣営の決定的勝利である。実際には、埋立て承認の撤回の後の行政的手続きや裁判闘争の見通しなど、難しい問題は数多くあるけれども、県民がここで改めて翁長氏の遺志をひっくり返すような真似はさせないという選択を明確にしたことで、辺野古問題は新しい次元を迎えることになろう。

政治論のレベルでは、これは、国権に対する民権の勝利である。佐喜真氏は「対立や対決からは何も生まれない。対話だ」と、日本政府との対話を訴え続けたが、どう対話するのかの中身は語らず、ということは誰から見ても「中央の言いなりの国権従属宣言だった。それに対して玉城氏は「日本政府から、アメリカから、沖縄をウチナンチューの手に取り戻す」と訴え、翁長氏が繰り返し強調した地方の「自主決定権」を貫く姿勢を示した。地域末端に生きる住民こそが自分たちの生きる環境条件を決定する権利があるというのが民権思想である。

価値観のレベルでは、これは、カネよりもイノチの勝利である。佐喜真氏は国との対話パイプを活かして「経済」振興を図ることをもっぱらアピールし、それを裏付けるように菅義偉官房長官が二度も沖縄入りして「政府が付いているぞ。補助金や交付金を出すぞ」とバックアップした。この背景には、「所詮人間カネと欲」という安倍首相にも菅氏にも共通するニヒルな価値観がある。それに対して、普天間基地は要らない、辺野古も要らないという玉城氏の訴えは「イノチこそ大事」ということであり、つまりは、カネなんぞいくら貰ってもイノチには換えられないという人間の尊厳に関わる主張を含んでいる。

自公共闘の組織戦の限界

以上のどのレベルにどう反応したのかは分からないが、自民党支持層の20%公明党支持層の25%が玉城氏に流れたと言われていて、これが玉城氏勝利の大きな要因となった。

自民支持層には、元々自民党そのものだった翁長氏に対するシンパ票が相当程度あるだろうし、公明支持層には、そもそも同党の沖縄県本部は今も「辺野古基地反対の姿勢を崩してはおらず、現にこの選挙でも一部の学会員が公然と学会旗を掲げて玉城氏の応援に馳せ参じるなどの動きもあって、締め付けは余り効かなかった

そのような学会の実状もあり、選挙戦術論のレベルでは、自公のタイアップによる「地を這うような組織戦が破綻したことが大きい。自公連立政権が何があっても続いている理由は、公明党にとっては与党の立場にいることが創価学会存続の必須条件となっている反面、自民党にとっては自らの組織的な基盤が著しく衰弱している中で創価学会の集票力に頼る以外に選挙に勝てる方法がなくなっているという、もたれ合い関係にある。

今年を振り返れば、2月の名護市長選も6月の新潟県知事選も、野党側が「オール沖縄」とか「オール野党」とか言っている割には組織的にはバラバラで、統一された選対本部の下で強力な地域ローラー作戦を展開するような体制がとれていない。それに対して自公側は、全国から動員された公明党地方議員や創価学会の選挙担当などのセミプロ軍団を数千名単位で現地投入し、自民党地方議員や地元商工団体などから出させた名簿を元に徹底的な票読みと期日前投票動員の作戦を行う。今回も、そのような自公の地上戦が相当に進んでいると言われていて、それが序盤戦での「佐喜真有利」という評価を生んでいた。しかし、それに気づいた玉城陣営が対抗して期日前投票重視の作戦を採って巻き返し、それがかなり奏功してこの結果に繋がったと見られる。

このことの意味は小さくなくて、来年参院選に野党が統一候補を擁立する場合にどのような組織戦略を採るべきかについて重要な示唆を与えている。

image by: 首相官邸 - Home | Facebook

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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