台湾が誇る世界的自転車メーカー「GIANT」。幅広いラインナップと品質の良さで日本でも人気となっていますが、同社の創業社長は「日本の方々には大恩がある」と言ってはばかりません。台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、GIANT社長・劉金標氏と日本の関係について紹介しています。
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年10月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【日台共栄】世界最大の自転車メーカー「GIANT」がつなぐ日台の絆
今週から、NHK朝の連続テレビ小説「まんぷく」が始まりました。このドラマのモデルとなったのは、日清食品創業者である安藤百福とその妻・仁子ですが、以前、「『カップヌードル』発明者は台湾生まれ。即席麺がつなぐ日台の絆」でも紹介したように、安藤百福の旧名は呉百福、日本統治時代の台湾で生まれ育った台湾人でした(戦後、1966年に日本に帰化)。世界の食文化を変えた安藤百福は、同時に、日本と台湾の絆を象徴する人物でもあります。
そして、日本統治時代を経験した台湾人企業家には、安藤百福と同様に自らの会社を世界的企業に育て上げると同時に、日本への恩を語り継いでいる人物が多いのです。私は、新刊『世界を変えた日本と台湾の絆』で、安藤百福を含め、そうした台湾人・台湾出身者を紹介しました。
日本人の間ではあまり知られていませんが、そのような日台共栄の礎を築いてきた台湾人を日本政府は毎年叙勲しています。
そのことは前述の拙著でも紹介していますが、今回はそのうちの一人である「キング・リュー」こと劉金標をご紹介しましょう。
近年、健康志向やエコロジー、さらには外国人観光客によるインバウンドを意識して、日本では、その地域の自然や景色を自転車に乗って楽しむ「サイクルツーリズム」が全国で流行しつつある。
2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが開催される。ロードレースをはじめとする自転車競技が行われるとともに、多くの外国人観光客が日本を訪れるので、日本のサイクルツーリズムに拍車がかかると見られている。
日本のサイクルツーリズムに一役買っている台湾人実業家がいる。世界最大の自転車メーカーであるジャイアント・マニュファクチャリング(巨大機械工業股有限公司)の創業者・元社長である劉金標である。
劉は、日本の多くの地方自治体とともに自転車を取り入れた地域振興を精力的に進めた功績が評価され、2017年には旭日中綬章を受章している。
ジャイアントの自転車の年間製造台数は650万台を超え、台湾を中心に世界に9つの工場と13の拠点をもつ、まさしくグローバル企業である。
劉金標は1934年、台中州(現・台中市)に生まれた。日本統治時代の経験は11年だが、流暢な日本語を話す。劉は「小学校の同級生なんかは、もう日本語、ほとんどできなくなったんですね。私は日本との仕事もありますし、家庭で日本語を話せる人がいた。それに日本と日本の文化が好きでございますので、学ぶことを中止しなかったんですね」と語っている(野嶋剛『銀輪の巨人』東洋経済新報社)。
劉の英語名はキング・リュー。日本語の話しぶりは、穏やかな町工場の社長といった風情である。
劉が自転車メーカーを創立したのは1972年。その理由は、69年に台湾を襲った台風により、当時、ウナギの養殖業を営んでいた劉は壊滅的な被害を被ってしまった。
ウナギの養殖業をあきらめた劉は、当時、アメリカでエコ志向の高まりから空前のブームとなっていた自転車の製造に乗りだした。アメリカのメーカーも、安価な生産拠点として台湾に注目していたのだ。社名は、地元で活躍していた少年野球チームにあやかり、「ジャイアント」と名づけた。
だが、当時の台湾製品は「安かろう、悪かろう」であり、部品の規格もバラバラだった。劉は日本メーカーの品質管理を研究し、台湾のパーツメーカーを駆けまわって規格の統一化と品質の向上に努めた。
一時は資金が底をつき、会社を解散するところまで追い込まれたものの、劉の熱意と、優秀なビジネスパートナーの助けもあって、ようやくアメリカメーカーのOEM(相手先プランド名製造)生産を任されることが決定。創業から約10年にして、事業が軌道に乗るようになった。
だが、そのときに強力な商売敵として浮上してきたのが中国であった。改革開放政策のなかにあって、欧米企業は生産力が安価な中国に生産拠点を次々と移していった。ジャイアントのパートナーであったアメリカ企業もその例に漏れず、突然、ジャイアントへの発注を打ち切り、中国企業に切り替えた。
OEM生産の限界を知った劉は、1981年、独自ブランド「GIANT」を立ち上げ、世界各地での拠点づくりを進めるとともに、東レを説得して素材を調達、世界に先駆けてカーボンファイバーを使ったフレームを完成させるなど、営業・技術の向上に努めた。その結果、世界的メーカーに上りつめることができたのである。
台湾の自転車市場でトップに立った劉は、業界合同での技術研究チームをつくり、トヨタの生産方式を学んだ。これにより、台湾の自転車産業は飛躍的に効率化していった。そのあたりの話については、前掲書『銀輪の巨人』にくわしい。
劉が徹底的に技術にこだわる点は、日本の「匠の文化」に近いものがある。やはり日本語および日本文化を学びつづけているだけあって、影響を受けているのだろう。
ところで、台湾人にとって、自転車で台湾を一周(約900~1,200キロメートル)する「環島」は、人生で一度は挑戦したい夢となっている。この環島をブームにしたのも、劉だ。
聴覚障害を抱える青年が自転車で台湾一周の旅に出るなかで体験するさまざまな出会いをつづった映画「練習曲」に感銘を受けた劉は、2007年、73歳にして環島に挑戦、見事、15日間で達成した。これにより、台湾で環島が大ブームとなったのである。ちなみに14年、80歳のときにも劉は環島を12日間で達成している。
劉は「自行車新文化基金会」を設立するとともに、安全なツーリングのための標識や補給基地を完備した自転車道「環島1号線」の整備を政府に働きかけ、2015年には全線開通している。
このように、まさしく台湾のサイクルツーリズムを牽引してきたのが、劉金標なのだ。
そしてその活躍の場は台湾にとどまらない。2014年、愛媛県の招きで「瀬戸内しまなみ海道」のサイクリングイベントに参加した劉は、このコースをブログで絶賛、しまなみ海道は一気に認知度が上がり、「サイクリストの聖地」とまで呼ばれるようになった。
また、このイベントをきっかけに、愛媛県知事に台中市長を紹介し、愛媛県と台中市の友好交流締結を実現させた。その後、しまなみ海道は台湾の「日月潭サイクリングコース」と姉妹自動車道協定を締結、さらに台湾の環島の流行を受けて、四国を一周する「環四国」構想も進んでいる。四国一周も台湾一周とほぼ同じ距離だという。
劉は2016年に滋賀県の「琵琶湖一周(ビワイチ)」を体験、同県のサイクリング聖地化に助言を行っている。そのほか、東日本大震災の被災地での「復興支援サイクリング」に取り組むなど、積極的に活動している。
その功績が認められ、前述したように2017年に旭日中綬章を受章した。
その際、劉は創業当時に日本企業から技術的な指導を受けたことを挙げ、日本におけるみずからの活動について「日本の方々には大恩がある」という思いからだと語っている。
image by: GIANT JAPAN - Home | Facebook
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