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【書評】なぜ仕事一辺倒の人に限って定年後「認知症」になるのか

なぜ、認知症は女性よりも男性に多いのか。なぜ、認知症はがんと逆相関があるのか。そんな疑問に対する納得の答えが記されている書籍が話題となっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、その「処方箋」的な1冊をレビューしています。

社会は変えられる 世界が憧れる日本へ
江崎禎英・著 国書刊行会

江崎禎英『社会は変えられる 世界が憧れる日本へ』を読んだ。著者は経産省商務・サービスグループ政策統括調整官兼内閣官房健康・医療戦略室次長。日本がいま直面する社会保障制度の危機的状況を示し具体的に解決策を提示する、じつにわかりやすく書かれた良書である。一歩引いてより広い視座から全体像を俯瞰している。そうだったのかと感心することばかりである。

認知症は病気ではない。生存に必要な機能だけを残し、不要な機能やストレスを感じるものは積極的に捨て、著しく省エネで幸せを感じる脳になった状態をいう。環境に適応する仕組みは、生物本来の在り方である。多くの年寄りと接してきた著者は、人口知能学者の黒川伊保子の、認知症は病気ではなく、脳の進化」であるという説(今後、学術的に検証される)に納得感があるという。

以前からあるジョーク「夫が認知症になっても最後まで妻のことは忘れないが、妻が認知症になると最初に夫のことは忘れる」は本当らしい。夫にとって妻は生きるために不可欠である一方、妻にとっては夫はストレスそのものということだろう。また、がんと認知症が逆相関にあることもよく知られている。

がん患者には認知症の症状を示す人が少なく、同時に認知症患者にはがんを発症している人が少ない。因果関係はまだ証明されていないが、強いストレスを感じている人は免疫細胞の機能が低下する結果がんになり、一方で、認知症になってストレスから解放され免疫細胞の活性が高まっている人はがんになり難いという解釈もできるようだ。わたしのような鈍感な人はどうなるんだ。

急速に増える認知症が都会に多いのは、単に高齢者の数が多いからではない。知的な仕事をしてきた人や社会的地位の高い人が、その役割を失ったとき急速に認知症の症状が進むようだ。自分に価値がないと感じるストレスから自らを解決するため自分の脳を壊していくのではないか。本人はいいが、周りは悲劇だ。仕事一途で周りの人とつながりを持たないで生きてきた男性は危ない。

一方で、歳をとっても友人や社会とのつながりを保ち、社会的存在として自分の居場所を確保することに長けている女性は、同年齢で比較すると男性に比べて認知症になる危険性は低い。一人暮らしで自分のことは自分でやらなければならない人も、認知症のリスクを下げている。在宅医療を専門とする医師によれば、リスクが高いのは、家族の中で孤立している年寄りである。

認知症対策としては、薬だけに頼るのではなく、高齢者から居場所と役割を奪わない環境作りが必要である。ボランティアなど社会貢献を通じ、感謝の言葉を言われる環境作りが大切である。ささやかでも経済活動に参加できればさらにいい。「役に立ちたい」「感謝されたい」とはわたしも望むとこである。

高齢化の進展とともに急速に拡大する認知症に、日本はどう対応するか、世界中が注目している。認知症はその潜在的コストの巨大さから、社会を揺るがしかねない課題となっている。この問題に日本が適切な対処法を示し、国際貢献しなければならない。世界が憧れる素晴らしい国になるには、やはり団塊の世代の人々の意識改革が必要だと、勝手に思うわずかに歳上のわたしである。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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