およそ半世紀前の「太閤記」を皮切りに、NHK大河ドラマでは戦国時代を題材として何度となく取り上げています。それだけ戦国武将は、われわれ現代人にとっても魅力的に映るのでしょう。無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、作家の童門冬二氏と三戸岡道夫氏との対談を通じ、戦国武将の心に残る名言と人を見抜く眼の凄さを紹介しています。
戦国武将たちの心に響く名言 童門冬二(作家)×三戸岡道夫(作家)
歴史作家として名を成したお二人の歴史談義はどこを切っても興味が尽きません。今回は戦国武将の名言から、その人物の魅力についてお話しされています。
三戸岡 「童門先生は長い間、歴史小説を書かれてきて、いまどのような人物や逸話が心に響きますか?」
童門 「毛利元就の倅の小早川隆景は大変好きな武将の1人ですが、その隆景が『すぐに分かったという人間に分かった例がない』と言っているんです。上から命じられたことを『分かりました』とただ犬のように従う部下はやっぱり駄目なんですよ。命令には理不尽なものもありますから、力を持っている部下であればきちんと聞き返して、合意をしながら話を纏めていくことが求められます。
またそのことを上も心掛けなきゃいけない。都庁時代にも『ああ分かった、分かった』といい加減な返事をする上司がいましたが、そういう人間には隆景の言葉を使って苦言を呈したりもしました」
三戸岡 「それは現代にも通じる大切なことですね」
童門 「隆景にはこういう話もあります。武将が書いたとされる文章はだいたい口述で、その多くは書記が書いたものなんです。武将は最後に花押というサインだけをするものですが、ある時、急ぎの文章を作成していた部下が慌てて筆が震え、墨がポタポタと落ちるのを見た隆景は『急ぐことほど落ち着いて書け』と諭します。口述を書き留めているわけですから、逆に言えば『急ぐことほど、ゆっくりと話せ』と自分自身への戒めでもあったわけです。これら隆景のいくつかの言葉は、私自身に向けての戒めにもなっています」
童門 「もう1つ挙げれば、武田信玄の人間を見る視点ですね。信玄は子供たちに軍談を聞かせるのが好きで、その時の反応を見るんです。そうすると4通りに分かれる。1人は話の内容に驚いて口を開けっ放しにして聞いている。2人目は信玄の顔を見ないで肩の辺りに視線を据えて聞いている。3人目は信玄の顔を見て、時々『ごもっともです』と頷いている。4人目は話の途中に『ちょっと厠に行ってまいります』と言って席を立っていなくなってしまう。
最初の子供は肝が小さくて話に圧倒されるタイプ、3人目は相手に気を取られて話の中身に意識が向いていないタイプ。4人目は自分にも思い当たるフシがあっていたたまれなくなるタイプ。それで信玄は一番頼りになるのは2人目の肩の辺りに視線を据えて聞いているタイプだと考えるんです」
三戸岡 「なるほど」
童門 「ただ、信玄が偉かったのは、4つのタイプをそれぞれに見合う使い方をしていることです。いわゆる適材適所ですね。臆病者として知られる岩間大蔵左衛門は合戦に行くのが絶対に嫌だった。馬に乗せても自分から落ちちゃう。そこで信玄は拠点である躑躅ヶ崎館の留守番を命じるんです。信玄が合戦から帰ると、館中がピカピカに磨かれていて『どんな人間にも使い道がある』と思ったといわれていますが、これもなかなかいい話だと思います。
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