仕事でもデートでも、上手な例えができる人の話は引き込まれやすくわかりやすく楽しいですよね。例え上手は天性のものもあるのでしょうが、話し方のプロからすれば、ちょっとしたコツを掴めば誰にでも身に付けられるもののようです。アナウンサー歴26年・今も現役アナの熊谷章洋さんが、メルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』で、ぐんぐん例え上手になるテクニックを披露しています。
目の前の現実を何階層かに掘り下げてみる
今回は、「イチゴが乗っている」という事実について、どんな表現が可能なのか、考えていきましょう。目の前にある現実=絶対的な客観というのは、ほとんどあらゆる角度から、否定できない事象です。
いま目の前にあるショートケーキの上に、イチゴが乗っていることについて否定するなら、イチゴじゃない、乗っていない、というしかありませんが、観念的に(発言者の頭の中だけで)イチゴは乗っていないと否定することはできても、それに賛同してくれる人はいないでしょう。
客観性が、限りなく絶対に近い、言い方ですよね。この「イチゴが乗っている」という事実に、第一階層的な感想を付け加えると、「赤いイチゴが乗っている」「大きいイチゴが乗っている」「イチゴが乗っていて綺麗」…など。
表現力に対する意識が乏しい話し手に感想を述べてもらうと、だいたいこういう言い方どまりになります。このメルマガの読者さんなら、もっと「いいよう」がある、と思いますよね。
そこで、どういうところがどんなだ、というような、第二階層以下に掘り下げると、「いかにも新鮮で瑞々しいイチゴ」「イチゴが存在感たっぷりにどーんと乗っている」…。
さらに、感動、心の動きを積極的に言葉にするなら、「イチゴが光り輝いていてうっとり」「イチゴの乗り方があまりに完璧で、感激」(その他、感動は比喩で語ることも多いので、比喩の項目で)。
上位互換のテクニックで例え上手に
比較を使えば、
- 「今までみたことがないぐらい、立派なイチゴ」
- 「千疋屋の店頭で一番高価なイチゴと同等の」
- 「イチゴの乗せ方が、どこどこの店っぽい」 比喩にすれば、いくらでも可能ですが、
- 「ルビーのようなイチゴ」
のように、例えのなかには、言い古された、手あかのついた表現もあります。ただそれがすべて悪いかと言うと、そうとも言い切れず、「まさしく、ルビーのようなイチゴ」のように、イチゴをルビーに例えるのはよくあること、という事実を前提にして、その例えを使わざるを得ないほど、改めて、やっぱり、ルビーのよう…という感動は込められるのではないかと思います。
また、この「ルビー」のような、例え表現のテクニックは、
- 感動要素を
- 別ジャンルに
上位互換することで、生まれていますから、応用すればいくらでも可能になるはずです。
つまり、イチゴの「赤い輝きの美しさ」という感動要素を、宝石という、イチゴ(果物)とは別ジャンルに、しかも上位に当たる良いものに置き換えて、言い表していますよね。宝石などは、上位互換にもってこいですから、黒いダイヤ、地中海の真珠…などなど、様々な例えに使われるのは、ご存じのとおりです。
同様の例としては、銀座や原宿といった、特色のある繁華街を、他の街の特徴に合わせて例えるケースも、よく見られますね。ただしこの場合、街を街で例えていますから、比喩としては直接的で、詩的な情緒にやや欠けるかもしれませんね。
このような上位互換の例え方は、聞き手にすぐに理解してもらえる、イメージが浮かびやすい、効率のよい表現です。利用する上で基本となる意識としては、話し手と聞き手の間の共通言語で例えることが、大事になります。聞き手の人数が多ければ、最大公約数的に。
聞き手が不特定多数であれば、ほとんどそれは、常識と呼べるレベルになりますし、逆に、ふたりの会話において、そのふたりのなかで共通言語であれば、一般の人には知られていないマニアックな言葉でも大丈夫です。
もちろん話し手の語彙や表現力の問題もあるでしょうが、何よりもまず、聞き手との共通認識はどのぐらいなのかに「配慮する意識」こそが肝心だと思います。
上位互換の例え、そのほか、いろいろ考えられますよね。イチゴの見た目の美しさなら、有名な女優さんとか。
- 「北川景子のようなイチゴ」
ショートケーキに乗っていたらすごいですね(笑)。
イチゴが乗っているその様が、絵画のようなら、
- 「ルノワールの絵のような佇まい」
などなど…。
今回は題材がイチゴですけど、
- 名勝 ・歴史的な遺産
- あるジャンルが得意なことで有名な人
- 日本一、世界一
- その他、特徴が際立っていること
などは、上位互換の比喩に使えますから、既に知識として持っている人は、その知識をアウトプットのほうに役立てたり、例えで話すのが苦手な人は、読書などで知識をインプットしながら、同時に、「この言葉はどういう時に例え話で使えるかな?」と、アウトプットのほうもイメージしてみると、勉強を苦労と思うことなく、楽しく、表現力向上を実践できるのではないかと思います。
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