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弁当は自炊より贅沢?そもそも無理がある消費税・軽減税率の矛盾

コンビニで同じ弁当を買っても、イートインで食べるなら消費税は10%、持ち帰るのなら8%。2019年10月の消費税率引き上げ時に実施される軽減税率制度ですが、「その線引の複雑さが混乱を招くのでは」と議論を呼んでいます。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、アメリカ各州の消費税事情を例にあげながら、「提供の仕方」で区別するのではなく「モノ」で区別するしか方法はないのではないかと記しています。

軽減税率制度、なぜシンプルにできないのか?

2019年10月に消費税を引き上げるに当たって、とにかく「駆け込み需要の反動による消費冷え込み」は避けねばなりません。それだけでなく、税率アップの3ヶ月前には参院選が予定されています。ということは、その時点で「税率アップをすると不況になる」というムードが広がって、野党がそのムードを利用したりしたら、内閣が吹っ飛ぶような可能性も考えなくてはなりません。

その一方で、10%アップについては、当初予定から考えて2回も先送りをして来たわけで、そろそろ実現して財政の見通しをつけたいという財務省の考えを、政権としてダメとは言えないということもあるわけです。

そこで考え出されたのが、「軽減税率」で、要するに食生活に関わる消費税を、「外食と酒は10%」にするが、「その他は8%に軽減する」という制度です。

アメリカでは、国の消費税というのはなく、消費税は100%地方税となっていて、各州などで制度が違います。例えば、私の住んでいるニュージャージー州では、「基本的に消費税は6.625%」ですが「食材と酒以外の飲料」はゼロ、「衣料品と靴、薬品」もゼロという税制になっています。

軽減税制どころか、は6.625%かゼロかという大きな差があるのが特徴で、要するに人間が生きていくのに欠かせない商品はゼロそれ以外は6.625%という「割り切り」がされています。

衣料品と靴の話はさておき、参考になるのは食材かそうでないかという区分方法です。

例えば、野菜、肉、魚、乳製品などの食材はゼロ、そして冷食も「チンしないとダメ」なのでゼロとなっています。アイスクリームも「盛り付けないとダメ」なのでゼロです。

一方で、「テイクアウトの料理」「そのまま食べられるサンドイッチ」などは課税です。もちろん、外食も課税です。どういうことかというと、「調理済み食品は課税」と法律で定められているからです。

勿論、そこは税制ですからかなり面倒な部分もあり、食材と薬の延長で「日用品としての紙類」はゼロという規定があり、トイレットペーパーやティッシュはゼロになっています。一方で、サランラップは課税とか、ややこしいルールはあります。ですから、制度としてシンプルで分かりやすかというと、その辺は結構怪しい感じもないわけではありません

全米には色々変な消費税ルールがあって、例えばカリフォルニアのある町では「テイクアウト飲料は課税だが、朝の一杯のコーヒーは非課税」とか、マサチューセッツなど大学の多い地区では「学生の買う本はゼロ」などと、ルールを複雑化させるという批判はある一方で、地域の個性を出そうとしているところがたくさんあります。こうした複雑化については、日本としては、あんまりマネしない方がいいと思います。

ただ、参考になるのは「モノで判断する」という考え方です。テイクアウトの食品はどうして課税なのかというと、モノは店内で外食として食べるモノと変わらないからです。サンドイッチもそうです。

問題は、現在検討されている日本の税制では「税率が10%になる外食」に狭い限定をかけて、モノは同じでも、「提供のしかた」が違うと8%にするという面倒なことをやっている点にあると思います。

既に議論になっていますが、コンビニで弁当を買うときに「イートインで食べるか?」を聞いて、「はい」なら10%、「いいえ」なら8%などという区別をするとか、弁当屋の前に弁当屋やその所属しているショッピングセンターの用意したベンチがあって、そこで食べる場合は10%だが、その弁当屋が公共の公園の前にあって、買った客が弁当屋と無関係の公園のベンチで食べる場合は、「自宅と変わらぬ持ち帰り」だから8%だなどというのは、制度として既に破綻していると思います。

勿論、そうした「複雑な回路」に入ってしまった理由は良く分かります。ニュージャージーなど、アメリカの多くの地区では、調理済み食品は、材料を買って自分で料理するよりは「贅沢」だからテイクアウトも課税するというのが、何となく受け入れられて定着しているわけです。

ですが、日本の場合は、「外食」「弁当」「自炊」を贅沢な順番で並べると、どう考えても「外食」「自炊」「弁当の順番になると思います。弁当の値段がデフレで据え置きになっているということもありますが、単身世帯が多い日本では、自炊の場合コスパが悪いということが重要な要素としてあるからです。

それこそ、「自炊」の場合でも、成城石井で買った松坂牛ですき焼きとか、豪華和牛で焼肉パーティーといったケースになれば、それこそ贅沢なわけであり、例えば、牛丼屋の定食メニューを外食するという行為と比較したら、そこには猛烈な逆転があるわけです。

つまり3つの順番として「自炊」「外食」「弁当」の順で「贅沢だ」という考え方も十分に成り立つというわけです。ただ、そうした議論に入っていくと、何を軽減したらいいか分からなくなるし、例えばですが、それこそ値段で区分するようにしたら、薄く広く課税するという消費税の定義に反してしまいます。

ですから、苦肉の策として弁当の場合では、「そこで食べるか?」を判定して、イエスという場合は10%にするが、持って帰って食べる場合は「ぜんぜん贅沢な消費ではない」ので8%にしておこうとなったのではないかと思われます。

そうではあるのですが、ただでさえ利幅が薄いために、人手も最低限で回しているコンビニの現場にこれ以上の負荷をかけるのはおかしいと思います。やはり「提供の仕方」で区別するというのは、どう考えても無理筋で、「モノで区別するというしか方法はないのではないか、そんなふうに思うのですがどうでしょうか?

そうなると、「コンビニ弁当に10%」ということになりますが、それでも何とか世論の理解を得るような持って行くやり方はないものでしょうか?

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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