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残るは日本のみ。世界で失敗続くトランプ「ディール外交」の限界

18日に閉幕したAPECで初めて首脳宣言の採択が断念されるなど、世界は今、大きな混乱機を迎えようとしています。自国第一主義の蔓延は、我々の生活にどのような「不利益」をもたらすのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが、米中関係、EU・中東情勢、そして北方領土問題の背景と今後について分析・考察しています。

米国内の意見対立か?

米中首脳会談や英国のブレクジット、イタリアの来年予算案のEU委員会での拒否、そして日ロ平和条約交渉など内外で大きな出来事が起きている。その背景と今後を検討しよう。

株価動向

NY株は、10月3日に2万6,651ドルと過去最高値を付けて、10月29日に、2万4,122ドルまで下がたが、11月8日は2万6,277ドル戻し、そして、その後は下がっている。米中貿易戦争が休戦になると11月16日は2万5,413ドルと上昇になった。しかし、Nasdaqは下げた。その原因は、エヌビディアの決算が良くないことが原因である。これでFANG株全体が下落して、PERが100倍以上という期待値先行の最先端企業銘柄から企業収益が良くPERが低い銘柄に買いが移っている。

これは、流動性相場から実績相場に移行し始めた証拠である。金利も上昇し、財政赤字であるが、ドル安ではないので、適温相場が続いている。そして、暴落はしないでレンジ相場になったようであるが、今後は米中貿易戦争いかんでしょうね。

日経平均も10月2日に2万4,448円と6年ぶりの高値を付けたが、10月26日に2万0,971円と3,000円以上も下落したが、11月8日に2万2,583円まで戻ったが、その後は下落基調になって、11月16日には2万1,680円まで落ちている。典型的なレンジ相場と言える。直近の経済成長率はマイナスになり、特に輸出がマイナスになったことが心配であるが、景気後退とも言えない。今後の中国景気いかんのようである。

ということで、日米ともに当分レンジ相場のようである。これを崩すのは、米中貿易戦争の終結ということになる。

どうして、最初にNY株価を見ているかというと、株価は世界情勢を反映して動くからであり、トランプ大統領も株価を気にして政治外交を行っているからだ。

米中首脳会談に向けて

ということで、今後の動きで重要なのが、米中首脳会談である。ここで、142項目の報告書を中国が出したことで、関税UPを一時停止にするとトランプ大統領がツイートしたことで、株価は上昇した。そして、企業収益も維持する可能性が出るし、世界経済の失速が遅くなる。まだ、関税の追加UPがないだけでは、まだ景気上昇とはならない。全ての関税UPが撤回されるまでいくかどうかだ。

中国の景気減速が明確化したことで、中国は貿易問題で大幅な譲歩をしたようだ。李克強首相も貿易の自由化や知財権保護を促進すると明言していたし、王岐山副主席も米国との調整に乗り出し、習近平主席がトランプ大統領の私的政策顧問をしているキッシンジャー氏とも会談し、心配して北京に飛んだブラックストーン会長スティーブン・シュワルツマンとも米中合意できる案の意見交換をしている。

その後、貿易協議を担当するムニューシン米財務長官と中国の劉鶴副首相が電話会談を行い、11月15日に報告書を提出した。

相当、中国は本気であるが、それに対して、ナバロNTC委員長は、ウォール街の民間人は、中国のエイジェントのようだと非難し、中国は明言するが実行しないと非難した。これに対して、クドローNEC委員長はナバロ氏の発言を否定して、中国への期待を表明した。

しかし、中国は台湾や南シナ海では妥協しないので、この部分で米中が揉めると、収拾がつかない。しかし、トランプ大統領は安全保障問題に対して冷淡であり、米国にとって経済的な特典があれば、折り合うと見る。どうも、裏でキッシンジャーと王岐山が両国間の調整をしていたように感じる。

ここで、米中が合意しないと、失望の株価暴落になることが確実であった。トランプ大統領の再選可能性は、グレイト・リセッションになったら、無くなっていた。当分、景気はどん底になり、世界経済は闇夜になり、混乱が増幅しかねない。これをトランプ大統領もクドローNEC委員長もムニューシン財務長官も心得ていたようだ。

今後は、中国が約束した142項目の実行を見て、貿易赤字が減ることを確認の上、今まで課した関税UPを撤回するかどうかは、まだわからない。

少なくとも、これ以上の関税UPがなくなったことだけは確かである。

しかし、ペンス副大統領は安全保障上で中国対抗を強調しているので、米国の正副大統領の立ち位置が違うことになっている。米国は2つの考え方が対立している。ペンス副大統領、マティス国防長官の対中国警戒とトランプ大統領、クシュナー上級顧問、ボルトン補佐官の対中東重視の2つである。

中東の混乱

クシュナー上級顧問は、サウジに対して原油増産を維持してほしいと依頼したが、サウジはOPEC諸国との協議で減産の方向にシフトさせた。

サルマン皇太子は、米国の陰謀に乗せられてカシュギ氏殺害になったと思っているので、米国の言うことを聞かない。米国とサウジの関係は、ぎくしゃくしたままだ。この状況でCIAは、カシュギ氏殺害をサルマン皇太子が命令したと断定。そして、米国もサウジ当局17人に対して制裁を課した。対して、トランプ大統領は、米国の公式見解としてCIAの判断を取らないとしている。

ここでも、CIAは副大統領の意向を受けているように感じる。中東での戦争を防止するために、イラン対抗勢力を作らないことのようだ。

サウジとの関係が改善しないことで、米国はトルコとの関係を正常化させる必要があり、トランプ大統領の意向で、エルドアン大統領が要求するギュレン師をトルコに引き渡す方向で検討を開始した。しかし、ペンス副大統領とマティス国防長官は、ギュレン師氏引き渡しに反対し、米国の自由主義擁護を守るようである。

米国はサウジのサルマン皇太子がカシュギ氏殺害で、米国の言いなりになると見ていたが、そうならずに、米国寄りではない対応になったので、緊急にトルコを米国の陣営に引き込む必要になったのである。

中東でイスラエルが孤立化したので、ハマスはガザからロケット弾を多数発射して、イスラエルを挑発している。ネタニエフ首相は、今イスラエルがガザに侵攻すると、ロシアとトルコなどが参戦する危険性を感じて、ハマスと停戦に合意したが、イスラエル軍は不満であり、イスラエルの国防相が抗議のために辞任した。連立を組む政党多数が連立離脱を表明。今後、選挙になる。イスラエルも不安定化した。

しかし、これは、ネタニエフ首相の情勢分析の方が正しい。クシュナー上級顧問は、現在のイスラエルの孤立化を防止するためにトルコをイスラエルの味方に引き入れたいようである。

米国のディール的な外交は、サウジでは失敗したようである。米国の要求を無視して、サウジはイエメン内戦からも手を引かない。

米国のディール的な外交は、欧州でも失敗して、世界で米国の言うことを聞く国は、日本ぐらいかもしれない。そして、OPECが減産に向かうので原油価格も1バーレル=55ドルから上昇し始めている。

しかし、今後の世界情勢を見る上で、米国内の2つの勢力の動きを追いかける必要がある。トランプ大統領は、マティス国防長官の味方であるケリー首席補佐官を更迭の方向であり、ケリー氏が抜てきしたニールセン国土安全保障長官も解任するようである。一方で、メラニア夫人は、マティス国防長官の敵であるミラ・リカーデル次席補佐官(安全保障担当)を解任した。

トランプ大統領とペンス副大統領の意見の違いが大きくなり、米国は意図せざる二正面作戦をしているような感じになってきた。

トランプ大統領は、ペンス副大統領を罷免できるが、ペンス氏は福音派の大幹部であり、もし、首にすると2年後の再選は無くなる

欧州の混乱

メイ首相のEU離脱合意案、閣議での投票が拒否されて一方的にメイ首相が支持されたと宣言したが、閣内での支持者は1名であり、抗議のために4名の閣僚が辞任した。今後議会での批准が必要であるが、反対に保守党内ではメイ首相の信任投票になり辞任になりそうである。このため、ハード・ブレクジットの可能性もあるし、再度、英国の国民投票になる可能性も出てきた。

EUサイドも、イタリア問題が噴出しているので、英国のブレクジットを早く片付けておきたいはず。

イタリアは、大幅赤字の来年予算を変える考えもなく、EU財政規律ルールを破ることが確実である。EUは、イタリアに制裁を発動することになる。

しかし、制裁が発動されたら、総選挙になり、EU離脱を掲げる同盟が過半数を取る可能性が高い。このため、イタリアが次のEU離脱となる。極右政党「同盟」に対しては、米国のバノンやロシアが資金援助をしている。

まだまだ、欧州の混乱は続いていく

日露平和条約

プーチン大統領と安倍首相は、14日日ロ首脳会談で日ソ共同宣言を基礎に平和条約の締結交渉を加速させる方針で一致。今後、2ケ国間で、交渉することになる。2島返還になり、後の2島の返還は出来なくなると見る。

しかし、これ以上、交渉が遅れると2島返還もできずに、永遠に北方領土の返還はできなくなる。ロシアの現状住民がそれを許さない。

ここで平和条約締結をするしかない。2島返還で、残り2島を共同管理にして、ロシアの優先権を認めることで、うまくいくなら、それでも良いかもしれない。

相手にもメリットがある提案にしないと、交渉はうまくいかない。

自国優先を世界の国々が行ったら、どこかで戦争になってしまう。それを防ぐのは、相手のことも考え、相手にもメリットがある提案をすることである。利他の精神である。これが世界的になくなってきて、世界はぎくしゃくしてきた。

さあ、どうなりますか?

image by:Eric Rosenwald / Shutterstock.com

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国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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