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JOC竹田恒和会長の「ダメ会見」で露呈した、危機管理能力の欠如

2020年開催の東京オリンピック開催に水を差すかのような「黒い疑惑」が再び注目を集めています。東京五輪の招致をめぐる贈賄疑惑で、フランス司法当局から捜査対象となった竹田恒和JOC会長が15日、都内で会見を行いました。しかし、メディアからの質問を一切受け付けず、一方的に7分で会見を終えたことに批判の声が多く挙がっています。「謝罪のプロ」として知られる増沢隆太さんは、まぐまぐの新サービス「mine」で、竹田会長の会見の問題点を指摘。一体、この会見の何が「ダメ」だったのでしょうか?

ダメ会見で危機管理能力の欠如を露呈したJOCと竹田会長

東京オリンピック招致をめぐる贈賄疑惑でフランス司法当局から捜査対象となった竹田恒和JOC会長は、記者会見を開いて事態の説明を行いました。

しかしたった7分間の、一方的な事情説明だけで質疑応答もないお粗末な内容に、記者からは大批判を浴びています。真相については知る由もありませんが、昨年来続くスポーツ界の「危機管理広報」センスの欠如を学ぶことなく、なぜJOCまでもがやらかすのでしょう。

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1.ベッキー事件とまるで同じ轍を踏んだ失敗

竹田会長の「記者会見」と称する一方的声明文発表をノーカットで見ましたが、まず危機対応とはなり得ない失敗会見に終始しました。昨年続発したスポーツ界のハラスメントと、その対応をめぐるミスの連発で、スポーツ界でのコンプライアンス意識の低さが印象付けられてしまいました。JOCの会長への疑惑はゴーン事件への報復だなど、いろいろな意見はあるものの、危機に際して組織を防衛するのは幹部にとって最大の責務です。

しかしながら竹田会長の「会見」は約7分間、自身の声明文を読み上げるだけで、一切質疑応答はせず、記者からの追加質問を振り切って席を立った後は、JOC広報担当の方が代わって記者対応をするという、大批判を浴びた日本大学本部の会見進行に負けないダメ対応のオンパレードでした。オリンピックということで、会見には国内マスコミだけでなく、海外の報道機関も多数集まり、竹田会長離席後の質問では外国人ジャーナリストの質問も多数見られました。組織としてのJOCの失態は海外にも伝わったようです。

AP通信は会見について配信し、ワシントンポストやUSAトゥデーといった有力米国紙でも「(竹田氏は)7分間文章を読み、質疑を受けなかった」と報道されました。恐らくの目論見である疑惑払しょくは全く果たせなかったどころか、むしろ逃げに終始したことによる批判や炎上を煽った最悪の結果だったと思います。

そうです。ゲス不倫事件で大炎上したベッキーさんの第一回目の会見と全く同じ失敗会見だったのです。

2.スポーツ界の危機管理広報力

2018年はアメリカンフットボール、レスリング、体操やボクシングなどさまざまなスポーツ団体におけるハラスメントが明るみに出ました。私は人事の専門家という立場で、コンプライアンスに反するこうしたハラスメントがもはや一切できなくなったことを、企業や団体に解説するセミナーで訴えています。時代は完全に変わったのです。

やらかしの肩を持つつもりはありませんが、こうした時代にそぐわないハラスメントを起こした指導者の人たち自身は、悪意なく、あるいは自らがそうした行為に違和感を感じない環境で育った世代だという背景があったのでしょう。時代の違いという事情は理解できますが、もはや行為は全くもって認められません。

しかし問題は、そうしたやらかしの原因ではなく、組織としての危機管理能力です。

JOCという日本を代表する組織に降りかかった疑惑が本当であれ虚偽であれ、迫る東京オリンピックという大イベントに備える危機対応は組織としての責務です。残念ながら会長がこのようなお粗末な会見をさらしてしまうというのは、危機管理上は大失敗と言わざるを得ません。会見によって疑惑は晴れるどころか反発を呼んでしまったからです。

続発するスポーツ界の大失態という格好の前例がありながら、これだけの大組織がなぜいまだにここまでお粗末な対応をしてしまったのかが不思議です。おそらく危機意識はなかったと判断せざるを得ません。今やマスコミに対し、「不倫したという『誤解』を解く」というような一方的メッセージ通達は一切通じません。質疑応答を拒絶するような会見で危機対応などできるはずがありません。会長だけでなく、組織の広報部門がこんな基本も無視して会長を表に出したことがあり得ないのです。

もちろん会長自らが望み、間違った対応を主張してもそれを止められなかったという可能性もあります。もしそうだとすればやはり組織として危機対応ができないことに変わりありません。会長自身への疑惑は組織への疑惑であり、それを会長個人への侮辱とわい小化させてしまうような対応は、どれだけトップが望んでも阻止しなければなりません。

3.「粛々と通常業務を行う」というメッセージを放棄

本件はゴーン事件へのフランス政府の報復だという説を唱える人もいます。真偽はわかる訳もないものの、組織管理においていわれなき中傷やクレーム、でっち上げの訴訟含めた名誉を損なう事態は起こって当然のことです。キレイごとだけで組織管理を進めることはできないことは、危機管理広報の基本中の基本です。

「危機は必ず起こる」のです。

「あってはならない」という精神論ほど、危機において全く役に立たないものはありません。しかしスポーツ界で続発するスキャンダルを見ていると、どうしても「あってはならない」式の、臭いものにフタ体質キレイごとだけの精神主義広報しかできていないようにしか見えません。

いわれなき中傷を受けた場合であれば、真摯に質疑応答などにも対応し、決して「逃げの姿勢を見せてはならないのです。捜査当局の指示で開示できない情報はあって当然です。しかしその場でシドロモドロになりつつ、高貴なお立場でもある竹田会長のような方が真摯な態度を見せたらどうなっていたでしょう。

危機対応で大切なのは「真実が何か」ではなく、見ている人がどう納得できるか」こそが最重要です。マスコミは見ている人の代表としてツッコんで来ます。これを拒絶したところで逃げおおせるものではありません。むしろ不倫謝罪会見で冒頭から「今日は時間制限設けないよ」という一言から始めた落語家の方のように、私(私たち)はあなた方サイドにいます」というメッセージ発信こそが求められるものでした。

今回逃げてしまったことで、この先の状況はきわめて不透明ですが、事態収拾という戦略的広報の目的を果たすべく、組織は一丸となって対応を考えなければなりません。竹田氏は、自ら議長を務めるIOCマーケティング委員会の会議を「個人的な理由」から欠席すると発表しました。

疑惑を払しょくしなければならない最も重要な場面で逃げ出したのです。堂々と粛々と日常業務をこなすという姿勢は、非常に説得力を持たせるイメージ発信となります。しかしその機会を自ら潰す以上、やはりJOCに危機対応能力は乏しいと判断せざるを得ない結果となっています。

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image by: JOC公式プロフィール

増沢隆太

増沢隆太

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「謝罪のプロ」として著名人記者会見のたびにテレビ、ラジオ、新聞でコメントしまくるコミュニケーションのプロ。ロンドン大学大学院では戦争研究を行い、帰国後外資系企業数社でブランドマーケティングを担当した。その後、人事コンサル会社勤務を最後に独立し、人事・経営コンサルタントとして活躍。現在は講演、企業研修、大学生向け講座などで全国を回るほか、東京工業大学の特任教授も務めた。

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