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米中貿易戦「勝利」でトランプが習近平に親近感。次の標的は日本

全世界に影響を及ぼしていた米中貿易戦争ですが、習近平政権の大幅な譲歩によりついに終戦となるようです。その後の世界はどのような方向に進むのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが、中国から貿易収支のゼロ化の約束等を取り付けることに成功し勢いづくトランプの次の標的には日本も含まれるとし、その交渉の結果如何では、国際社会における日本の立ち位置が大きく変わることになるとしています。

米中貿易戦争終結でどうなる?

米中貿易戦争の終結でNY株価が上昇している。それに伴い日経平均も上昇してきている。今後を検討しよう。

NY株価

NYダウは、12月26日2万1,712ドルまで下がり、12月27日最後の1時間で株PKOを行い戻して、12月28日2万3,381ドルにした。1月4日2万2,638まで下げたが、その後は連騰になり、1月18日には2万4,706ドルまで戻した。NYダウは3分の2戻しになっている

ピーク株価である2018年10月3日2万6,951ドルと2018年11月18日2万6,277ドルを結ぶ線を引くと、2万5,100ドルになるが、その線まで上昇するようだ。当面の高値圏になってきた。

特に1月18日に中国が6年間で1兆ドルの米国産品を輸入して、貿易収支をゼロにするという情報から336ドル高になった。中国の劉鶴副首相が1月30-31日に訪米して、ライトハイザー通商代表部代表とムニューシン財務長官と交渉するが、これはトランプ大統領の強い指示でまとめることになる

トランプ大統領は、国境の壁建設のため政府機関閉鎖で経済を下押しているので、貿易摩擦解消で、経済の維持を図っているし、FRBの利上げ停止と米中貿易戦争の緩和で、市場の要求は満額回答になり、その回答を得て、買戻しが優勢になっている。

しかし、1月に入り投資銀行のリストラが報道されているし、BNPパリバや仏ソシエテなどは自己勘定取引を閉鎖したり、モルガンスタンレーのように巨額の損失を出したり、ブラックロックなどのように運用資金を減らしたりしている。市場参加者が少なくなり、AI取引中心になり、両方向に値が飛びやすい状況になっている。そして、AI取引の運用額はすでに1,800兆円規模にもなっている。

当分、株は高値圏になるが、世界的には資金繰りが苦しくなってきたようで、香港市場で、不動産株が8割も急落しているし、中国企業が世界から撤退している。金利上昇で利子負担が重くなってきて、企業は、負債を減らす動きに出ている。今後、借金してまで自社株買いをする企業は無くなるので、株価維持も難しいことになる

政府の株PKOは、賞味期限1、2ケ月とも言われているので、次のアップル減収と同じようなショックが出ると、また下がることになる。

日経平均株価

日経平均は、12月26日1万8,948円になり、12月27日にPKOを行い、2万0,211円まで戻して、1月4日に104円まで円高になり、1万9,241円まで下がり、その後上昇して1月18日2万0,666円まで上昇した。

日本電産の減益発表でも、日経平均は値上がりした。この原因は、ムニューシン財務長官の対中関税解除発言があり、それと円が109円台になり安心感が出たことであるが、2018年10月2日2万4,448円と12月26日1万8,948円の3分の1戻しにも行っていない。しかし、3分の1戻しの2万1,000円程度には上がると期待したい。それにしても、NYダウとの差が大きい。

この原因は円高にある。1ドル110円から104円で推移している。FRBは利上げ停止になるが、日銀は利下げはできないし、量的緩和も、これ以上にできない。米FRBが利上げ停止から利下げ開始までの平均的な期間は1年であり、2018年12月で利上げ停止したとすると、2019年12月には利下げ開始の可能性がある。このため、今後円は80円まで円高になる可能性も指摘されている。

それと海外投資家が、売り終わりで市場参加者が減り、売買代金が少なくなり、日銀ETF買いの影響が増している。取引高が2兆円割れになる日も出てきている。

このため、日経平均よりTOPIXの上げが目立っている。朝方株価が下がると10時ごろから介入が始まり、上げることが多く、市場の予想とは違うことになる。ということで、日銀ETFがあり、株価が上下ともにあまり動かないようである。市場の価格形成機能が失われる可能性が出てきている。東京市場は、難しい局面になってきた。

トランプ大統領の次の貿易交渉相手

中国は、トランプ大統領との貿易戦争を回避するために、貿易収支のゼロ化を約束する。24年までには貿易を均衡状態にすると中国は譲歩して、米国の要望の多くも実現させる。このため、トランプ大統領の初期の目的は達し、大いに満足しているようだ。

中国との問題は米国技術を盗むことであるが、これは、中国人の留学生を入れないなどの対策を打つことと、中国進出企業の技術を保全することを中国に約束させることである。中国も国家体制に影響しないことは了解したようである。

このようにトランプ大統領の中国とのディールでは、大満足の状態になってしまった。これは大きい。中国の習近平国家主席に対して親近感を一層深めてしまった。その上、習近平国家主席は北朝鮮との仲介もしてくれている。米国市場は喜んでいるが、日本は悲しむべきである。今後の対米交渉が難しくなるからである。

中国が終わり、次の貿易不均衡の相手は、今までの同盟国である日本とドイツになり、その両国の自動車に的を絞り、かつ為替の水準にも言及することになる。中国のように米国の全面的な要求を受け入れないと、トランプさんは不満を感じて、親中反独日のような感じになるはず。米国議会は反中でも、トランプ大統領は親中という事態になる。ややこしい事態になると見る。

このため、2月にドイツのメルケル首相が日本を訪問するのも、日独が対米交渉の前面に立つので、意見調整のために来るようである。

とうとう、中国を隠れ蓑にはできなくなる。大きな覚悟が必要である。このコラムでは、最初から地産地消経済に転換するしかないと提案したが、その実現を目指すしかないことになる。

もし、米国の要求を聞かないと、その時は米中から挟み撃ちになり、日本はEUと共同で打開策を練るしかなくなる。米国との交渉では、くれぐれも注意が必要である。

英国もトランプ米国との経済統合かEUとの経済統合を選ぶことになり、トランプ米国を嫌い、EU離脱を考え直している。英国民も訳が分からないトランプ米国が怖いのである。

米中がホドホドの関係になると、世界の構図はまた違うことになる。日本やEUの立ち位置は難しいことになる。今までの米同盟国はどこも難しい状態になってくる。敵と味方が逆転した感じをトランプさんは感じているようだ。中露の時代ともいえるのは、トランプ米国の心が変質したからである。

トランプ大統領は、多国間関係を考えないしそのため戦略的な全体像も描いてはいない。個別のディールを積み上げていけば、米国が偉大な国になると考えているから、交渉相手と個別の損か得かの取引を行うことだと、日本の交渉担当者は肝に銘じることだ。

政府機関閉鎖解除のための非常事態宣言

トランプ大統領は、長期の政府機関閉鎖でも、壁建設の主張を取り下げない。対する民主党も壁予算を入れないという。フードスタンプ予算も使い切るし、政府職員の給与が支給されないので、職員は政府機関での仕事を休み、アルバイトをしないと食べる物もないという。それでも、トランプ大統領は強引に壁にこだわる。

しかも、移民政策を緩和する代わりに、壁を要求するが民主党は拒否したので、最後の手段である早く非常事態宣言をした方が良いことになってきた。政府閉鎖より非常事態宣言の方が米国経済の被害が少ないし、米政府職員や貧窮者の生活も守れる。

米朝首脳会談の目的

米朝首脳会談を2月末に行うとした。米朝交渉で、非核化が進んでいないが、北朝鮮は、韓国を取り込み、大きな成果を上げている。その上に制裁解除のハードルを下げることを狙ってくる。対するトランプ大統領は、非核化にそれほどには真剣ではない。自国への脅威がなくなれば良いのである。日本の非核化の要望は貿易交渉での譲歩との取引になる。ここでもディールが発生する。

というより、トランプ大統領が2回目の米朝首脳会談を行うのは、非核化を餌に、日本との貿易交渉を有利にするためのようにも感じる。

英国のEU離脱はどうなるか?

メイ首相のEU離脱案を賛成202票、反対432票と大差で否決した。続く、メイ首相不信任決議では17票差でこれも否決して、メイ首相の続投になった。3月末までには、英国とEUの交渉で、EU離脱の新しい合意はできないから、合意なき離脱の可能性もある。

しかし、2月にも、英国は半年程度のEU離脱延期を行う。EUサイドも延期を認めるという。その後、再度の国民投票を拒否しているメイ首相が辞任して、総選挙後、新しい首相の下で再度国民投票になる可能性が高い。

現時点、世論調査でもEU残留がEU離脱より12%差で多い。次回の国民投票では、EU残留支持者は、まじめに投票するはずであり、EU残留になる可能性が高い。

英国は、米国を選ぶか欧州を選ぶかの選択の時期とも言えるが、トランプ米国との経済統合は危ないと国民が判断したように感じる。

そして、EU側も英国残留を米国との対抗上、歓迎している。まあ、このシナリオから番狂わせになる可能性もあるので、目が離せない。

日本外交の現状

日中、日英、日印などやTPP加盟国との関係は良いが、日韓、日露、日米の外交が、うまくいっていない。

トランプ大統領の国益オンリー主義で、韓国、ロシアも今までとは違うポジションを取り始めて、日本のポジションはあまり変わらないので、そのギャップが広がってきている。米国とのポジンション差も大きい。米国は優先的に貿易赤字を問題視しているから、それへの回答が必要なのに、屁理屈を言って誤魔化そうとするので、交渉がうまくいかないのである。というより、中国の全面的譲歩に味を占めたトランプ大統領は、日本に対しても一歩も引かないことになる。

日本の生き残る道をどう切り開くのか、自由民主主義社会をどう守ればよいか、日本は、その解が見つかっていない。

早く、その解を見つけておくことである。私は地産地消経済という方向になると見るが、日本としては、方向が定まっていない。

それなしに、日米交渉しても、米国がいら立つことになり、中国より日本の方が自分勝手で悪いという見方になってしまう可能性が出る。それだけは避ける必要がある。

米国との関係がおかしくなると、中国も日本との関係を見直すことになり、日中関係もおかしくなる。他の国も日本を頼りにしていたが、頼れないと関係見直しになる。そうなれば、崖淵に立たされることになる。

さあ、どうなりますか?

image by: Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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