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中国の好きにはさせぬ。米が対ロ関係悪化を承知で阻止したいもの

2月1日に行われた米国の「INF条約から正式離脱」という一方的ともとれる発表はロシア側の反発を強め、米ロ関係悪化は避けられない状況となっています。これを受け国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、INF条約を巡る米ロの攻防や、今このタイミングでトランプ大統領が米ロ関係悪化を受け入れてまで阻止したい「中国」というもう一つの脅威について、詳細に解説しています。

アメリカがINF条約から離脱する理由

アメリカ・トランプ政権がINF条約からの離脱を宣言しました。

INF離脱、NATO「全面的に支持」 ロシア対抗措置を警告

毎日新聞 2/2(土))11:53配信

【ワシントン会川晴之、モスクワ大前仁、ブリュッセル八田浩輔】

 

トランプ米政権は1日、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を正式に発表した。ロシアの条約違反を理由にしており、北大西洋条約機構(NATO)も米国の決定を「全面的に支持」する声明を発表。一方でロシアは反発を強め、対抗措置を警告した。

今回は、これについて考えてみましょう。

INF条約ってなんですか?

まず、基本から理解しましょう。INF条約って何でしょうか?「中距離核戦力全廃条約(Intermediate-range Nuclear Forces、INF)」のこと。1987年にアメリカとソ連の間で締結されました。背景は?「FNN PRIME2018年10月21日」に、フジテレビ解説委員 能勢伸之さんの解説が載っています。

1976年、旧ソビエト連邦は、米ソ戦略核制限条約(SALT II)で、三段式SS-16大陸間弾道ミサイルと共通コンポーネントを使った二段式の中距離弾道ミサイルSS-20を就役させた。最大射程は約5,000kmとされ、5,500km以上とされる大陸間弾道ミサイルの範疇には入らない。従って、戦略核兵器には当たらず、当時の戦略核制限条約の範疇外であり、同条約で生産や配備に制限を掛けることができない兵器だった。

なんかよくわかりませんね。射程距離5,500km以上は、「大陸間弾道ミサイル」(ICBMに分類されます。米ソ冷戦時代、ICBMは、両国を完全破壊することができる。それで、第一次戦略兵器制限交渉が行われ、1972年に締結されました(SALT1)。

ところが、ICBMつまり5,500kmよりも短い射程のものは制限がない。つまり中距離核ミサイルは、いくらでもつくれる。そうなると、たとえば、アメリカの同盟国であるNATO諸国日本などが危険にさらされます。で、どうしたか?

米本土には届かないが、米の同盟国・NATO諸国や日本には優に届く。これは、米国が同盟国に約束してきた拡大抑止“核の傘”の信頼性を損なうものだった。そこで、NATOは1979年、米本土ではなく、NATO欧州諸国に配備すれば、ソ連に届くパーシングII準中距離弾道ミサイルとトマホーク巡航ミサイルの地上発射型グリフォン巡航ミサイル・システムの開発と配備、そして、ソ連と交渉を行うという「二重決定」を1979年に行った。
(同上)

一方で、「俺たちも中距離弾道ミサイルを配備するぞ!」と脅しつつ、交渉のテーブルに引き出したと。結果は?

米ソがINF条約に署名したのが、1987年11月8日。結果は、中曽根首相の主張通り欧州に限定せず、米ソ(後にロシア)は、射程500kmから5,500kmの地上発射弾道ミサイルと巡航ミサイルを全廃することで合意。
(同上)

めでたく中距離核戦力全廃条約」(=INF条約締結となったのであります。

なぜアメリカは、INF条約から離脱する?(アメリカの主張)

ところが、トランプは、「INFから離脱する」と宣言した。なぜ?

トランプ氏、核廃棄条約離脱の計画認める ロシアが違反と主張

2018年10/21(日)6:49配

 

【AFP=時事】ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は20日、米国はロシアと結んだ歴史的な核廃棄条約からの離脱を計画していることを確認した。ロシアが同条約に違反しているとの主張に基づく動き。トランプ大統領は米ネバダ州エルコ(Elko)で記者らに対し、「ロシアは合意を順守していない。そのため、われわれは合意を破棄する」と発言。

アメリカがINFから離脱するのは、「ロシアが条約に違反しているからだ」と。どういうことでしょうか?2017年2月のAFPを見てみましょう。

ロシア、巡航ミサイルを新配備か 米「軍縮条約に違反」と警告

2017年2月15日 9:01 発信地:ワシントンD.C./米国

 

【2月15日 AFP】米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)は14日、ロシアが新たに地上発射型巡航ミサイルを実戦配備したと報じた。1987年に米国とソ連が軍縮に向けて調印した中距離核戦力(INF)全廃条約に違反する可能性があり、米国はロシアに対して同条約を順守するよう警告した。ニューヨーク・タイムズによると、ロシアはこのミサイルを運用する複数の部隊を秘密裏に配備。部隊の一つは南部アストラハン(Astrakhan)地方カプスチンヤル(Kapustin Yar)のミサイル実験施設に置かれているという。INF全廃条約は当時のロナルド・レーガン(Ronald Reagan)米大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev)大統領が調印したもので、射程500~5500キロの弾道ミサイルを禁止している。

ロシアの主張

一方、ロシアにはロシアの言い分があります。「先に条約に違反したのはアメリカの方だ!」というのです。どういうことでしょうか?2018年10月20日AFPを見てみましょう。

米国は、ロシアが2012年から条約に違反する新型の核巡航ミサイルの開発に着手、17年に配備したと非難している。ロシアはこれに反発、米国が弾道ミサイル防衛(BMD)システムの整備を続けている点を「攻撃用に変更可能で条約違反だ」と指摘するなど、双方が非難合戦を続けている。

アメリカの「弾道ミサイル防衛システム」(BMD)も「攻撃用に変更可能」で「条約違反」だそうです。ロシアからみるとそうなるのでしょう。もちろんアメリカは、「MDは防衛用で条約違反ではない」と主張しています。

中国=もう一つのファクター

アメリカがINFから離脱するもう一つの理由があります。それが、中国。INFは、アメリカとソ連(現ロシア)の条約です。中国は、なんの制限も受けず、好きなだけ中距離核戦力を増やすことができる。トランプは「米ロがおとなしくしている間に真のライバル中国がどんどん強くなってしまう」と危機感をもっている。FNN PRIME10月21日。

米露が持てないカテゴリーのミサイルを中国が保有

 

だが、その後の中国軍の拡大が、情勢を大きく変えてしまう。中国は、INF条約の当事者ではない。そして、国連安全保障理事会の常任理事国であり、いわば国際条約上、合法的核兵器保有国だ。従って、INF条約当事者である米露が保有できない、射程500kmから5,500kmの地上発射弾道ミサイル及び巡航ミサイルも開発・生産・配備が条約に拘束されずに行うことができるし、実際に行っている。

こう見ると、アメリカがINF条約を離脱するのはロシアと中国に対抗するためなのですね。もちろん、米ロ、米中関係は、さらに悪化することになるでしょう。

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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