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炎上動画で揺れる「くら寿司」、騒動以前に止まらぬ深刻な客離れ

アルバイト調理員による不適切動画が世間を賑わした回転寿司大手のくら寿司。そのダメージは計り知ることができませんが、この案件について「同社の教育力の低さにより起こるべくして起きた」と分析するのは、店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さん。佐藤さんは自身の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』で、昨年すでに起きていたくら寿司の客離れの原因の一つが「教育力の無さを起因とするサービス品質の低下」にあるのではないかと指摘しています。

不適切動画で揺れる「くら寿司」が12月に一人負けだったワケ

アルバイト2人が不適切な動画をインターネット上に投稿した問題が「くら寿司」を直撃した。その動画には、アルバイト1人がゴミ箱に捨てた食材の魚をまな板に戻して調理しようとするのを、別のアルバイト1人が撮影している様子が映っていた。このことがメディアで報じられ、世間の注目を集めた。

「問題を起こしたアルバイトに対して損害賠償を請求するべき」「悪ふざけの域を超えている」といった当該アルバイトを非難する声が相次いだ。これら非難の声はごもっともなことで、当該アルバイトに対して厳しい対応を取ることについて異論を挟む余地はないだろう。

運営会社のくらコーポレーションは問題を起こした従業員との契約を終了し、刑事と民事での法的措置をとるための準備に入ったと発表した。この厳しい対応については一定の評価があっていいだろう。

一方で、筆者は、同社の監督責任も同様に厳しく問われるべきだと考えている。問題を起こしたアルバイトに対する非難の声で隠れがちになっているが、運営会社の監督責任は重く相応の非難の声を受けて当然だと考える。

ゴミ箱に捨てた食材はその場で廃棄処分したとされているが、言葉通りに受け取ることができない人は少なくないとみられる。ゴミ箱に捨てられた魚を使ったすしがこれまでも提供されてきたと疑う人がいてもなんら不思議はない。そういった疑念を払拭するためにも、きちんとした説明が求められている

また、同社の従業員教育についても疑問を持たざるを得ない。同社は問題を起こした従業員を採用した責任がある。また、従業員が問題行動を起こさないように教育する責任もあった。問題行動が当人のためにならないことを普段から教え込んでいればこのようなことは起こらなかったはずだ。教育ではどうしようもない人物だったのなら、雇用契約を終了させればいいだけだ。

こういったことができていなかった同社の責任は重いと言わざるを得ない。いずれにせよ、同じようなことが2度と起こらないよう、万全の対策を講じる責任があるといえるだろう。

なぜくら寿司は一人負け状態に陥ったのか

さて、そのくら寿司だが、目下、既存店の業績悪化が止まらない状況だ。1月の既存店売上高(速報値)は前年同月比6.1%減と大幅な減収だった。マイナスは3カ月連続となる。業界最大手の「スシロー」の7.3%増の大幅増収と比べると、くら寿司の不調のほどがよくわかるだろう。

くら寿司の不調は1月だけではない。昨年12月も不調で、大手3社(スシロー、くら寿司、かっぱ寿司)の中で唯一くら寿司だけがマイナスだった。スシローは7.9%増の大幅増収を達成し、「かっぱ寿司」は0.1%増とわずかではあるがプラスだった一方、くら寿司は0.2%減とマイナスだった。くら寿司の一人負けだ。

なぜ12月はくら寿司が一人負けだったのか。打ち出し面では特に問題がなかったように思える。同月の7~13日に、増量されたネタのすしをそろえた「圧巻の山盛りフェア」を開催した。続く14~20日には、「ずわいがに」など高級食材をそろえた「かにとのどぐろフェア」を打ち出している。21~24日には、普段の「中とろ」よりも大きい「熟成 激厚中とろ」を売り出した。また、クリスマス限定メニューを販売したりもしている。競合と比べて遜色がない打ち出しができていたといえるだろう。

打ち出し面では問題がなかった。そういったことから、くら寿司が12月に一人負けだったのは、その月だけたまたま不振だったということではなく、それよりも前から、構造的で恒常的な問題があったことにより高い競争力を発揮できなくなっていたことが大きく影響したためだと考えられる。

くら寿司の客離れは深刻だ。12月の既存店客数は0.9%減と前年を下回った。マイナスは12月まで3カ月連続となる。9月と8月はかろうじて前年を上回ったものの、7月まで13カ月連続でマイナスだった。直近通期の18年10月期は前期比2.0%減となっている。客離れが影響し、同期の既存店売上高は0.7%増と微増にとどまった。今期(19年10月期)の既存店売上高は11月、12月、1月がマイナスとなっているため、通期でマイナスとなる可能性が高まっている。

一方、スシローは好調が続いている。既存店売上高は1月まで15カ月連続で前年を上回った。今期(19年9月期)は1月まで4カ月連続で増収率が7%を超える大幅増収を達成している。直近通期の18年9月期も4.4%増と好調だった。

スシローはすしの販売を強化したほか、話題性のあるサイドメニューを投入したことが奏功した。サイドメニューの中ではスイーツが好評だったという。17年11月にスイーツ開発プロジェクト「スシローカフェ部」を発足し、スイーツメニューの強化を図った。それが実を結び、女子高生など従来取り込めていなかった客層を取り込めるようになったという。

すべては「教育力の低さ」に起因か

かっぱ寿司はここにきてようやく業績悪化に歯止めがかかるようになった。直近通期の18年3月期の既存店売上高は前期比1.7%減とマイナスだったものの、マイナス幅は以前と比べて縮小している。17年3月期(4.2%減)や16年3月期(4.2%減)、15年3月期(4.0%減)と比べると健闘しているといえるだろう。

そして今期(19年3月期)は前年同月を上回る月が目立っており、1月までの10つの月のうち6つの月がプラスとなっている。今期は前年超えが十分あり得る状況だ。

業績が悪化していたかっぱ寿司は16年にロゴマークを刷新するなどのイメージチェンジを図った。その後、「食べ放題」を実施したり、1皿1貫を税別50円で提供するなど、話題性のある試みを次々と打ち出していった。最近は、出遅れていたサイドメニューの強化も図っている。こういった施策が奏功し、業績が回復するようになった。

既存店業績を開示していない「はま寿司も存在感を示している。はま寿司は18年5月から、日本各地のご当地料理を複数回にわたって提供するキャンペーン「うまいもん祭」を始めた。5月から始めた第1弾では九州のご当地料理を用意。「博多とんこつラーメン」や「長崎焼きちゃんぽん」などを販売した。その後、第2弾~第5弾を実施し、続く12月からの第6弾では北海道のご当地料理を用意し、「釧路風北海魚介の塩ラーメン」や「じゃがバター いかの塩辛のせ」などを販売した。

このように、くら寿司以外の大手回転ずしチェーンは特色のある打ち出しを継続して実施できていた。一方、くら寿司の打ち出しを見てみたが、この1年ほどは特筆できるものを見つけることができなかった。スシローとはま寿司、かっぱ寿司と比べてインパクトに欠けていた感が否めない。

こうして、スシローとはま寿司、かっぱ寿司の競争力が高まったことで、くら寿司は相対的に競争力を失ってしまった。それが一因で客離れが起きたと考えられる。12月が一人負けだったのも、それより前からの客離れが影響したと考えられる。

くら寿司は今後、挽回したいところだが、アルバイトがゴミ箱に捨てた食材の魚をまな板に戻して調理しようとする動画がネット上に流れるというショッキングな出来事が起こってしまったため、盛り返すどころか客離れが加速する可能性が高まっている。

動画投稿問題により、くら社の教育力の低さが露呈したように思える。動画投稿問題はたまたま起きたのではなく、同社の教育力の低さにより起こるべくして起きた事件といえるのではないか。また、教育力の無さを起因とするサービス品質の低下で客離れが起きた面もあるのではないか。いずれにせよ、商品開発や組織構築、従業員教育などにおいて、抜本的な改革を行う必要があるといえるだろう。

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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