3月末に内閣府が発表した中高年の「ひきこもり」が61万3千人にいるとする調査結果が話題となっていますが、ひきこもりのきっかけを見て、「ほとんど労働問題である」と看破したのは、メルマガ『8人ばなし』の著者・山崎勝義さんです。労働力不足が叫ばれているこの時代に、若年層と合わせて115万人を超える就労可能者が余っている事実を問題視し、しっかりとしたスクリーニングに基づく効果的対策が必要だと訴えています。
『ひきこもり』のこと
内閣府の調査によれば、40~64歳の「ひきこもり」が全国で推計61万3千人もいるという。15~39歳の「ひきこもり」が推計54万1千人というから、合わせると115万4千人、実に政令指定都市級の人口に匹敵する。
因みにこの調査における「ひきこもり」の定義は、自室からほとんど出ない状態に加え、趣味の用事や近所のコンビニ以外には外出しないという状態が6カ月以上続く場合としている。
ただ、どうだろう。仕事に行かない生活というのは大体こんなものではないのか。逆に朝からせっせとパチンコにでも行かれたらそれはそれでたまらない。日本の「ひきこもり」は引き籠ることで社会に対する迷惑を最小限にしようとしているようにも思えるから、その点においては慎み深いとも言える。
とは言うものの、社会人としての人間から仕事を差し引くだけで忽ち「ひきこもり」が出来上がってしまうというのはどうにも寂しい話である。自己実現の道は多種かもしれないが、どうやらさほどの多様性は許容されていないようである。「働かざる者、食うべからずとまでは言わないが、申し訳ないくらいには思え」といった社会全体の無言のプレッシャーが「ひきこもり」をますます引き籠らせているようにも思うのである。
こういった事態を他人事と軽くあしらってはならない。自分の生活から仕事がなくなれば環境的には「ひきこもり」の前段階に置かれることになる訳だから、そのまま「ひきこもり」ということも十分あり得る。明日は我が身なのである。
実際、今回の調査によれば中高年層が「ひきこもり」になった原因の上位5つ(複数回答可能)は
- 退職 (36.2%)
- 人間関係 (21.3%)
- 病気 (21.3%)
- 職場になじめなかった(19.1%)
- 就活の失敗(6.4%)
である。
一見して分かることだが、病気以外は全て仕事絡みのことである。こうなると最早、厚生福利の問題というよりも労働問題というべきものなのかもしれない。労働力不足が叫ばれているこの時代に、政令指定都市人口ほどの就労可能者が余っている訳だから、実に皮肉な話である。
今回の調査担当者も「何らかの対策が必要」とお決まりの総括をしているようだが、おそらく何もできないであろう。やったとしても悉くしくじるに違いない。社会からひとたび離れてしまった人たちをお座なりの社会的施策で救えるとは到底思えないからだ。
必要なのはスクリーニングなのである。これにより「ひきこもり」の根本原因をまず類別するのである。
例えばだが、
- 生物学的問題
- 心理学的問題
- 社会学的問題
というふうなアプローチはどうだろうか。
生物学的問題というのは発達障害などに起因する「ひきこもり」のことであり、前述の病気を除いた原因の全ての根本原因たり得る。解決には精神科医や心療内科医の理解と努力が必要不可欠である。因みに発達障害の一つであるADD(注意欠陥障害)などはほとんどの場合、薬一つで健常者と変わらない生活が可能となる。
心理学的問題というのは人間関係がうまくいかなかったり、職場になじめなかった人が、それをきっかけに鬱などの適応障害となり、それがそのまま遷延化して結果「ひきこもり」となった場合である。当然ながらこれを解決するにも精神科医や心療内科医、さらにはカウンセラーなどの尽力が必要となる。
社会学的問題というのは所謂労働問題である。この場合できるのは就労支援くらいのことだろうが、労使間のマッチングに関しては特別の配慮が必要になるであろう。
一言で「ひきこもり」と言っても、事情や状況は人それぞれである。より効果的な対策を講じるためにも適切なスクリーニングをかける必要があるのではないだろうか。
とにかく一番やってはいけないのが「『ひきこもり』=現代特有の社会現象」と単純化してしまうことである。こういった態度をとる時、我々の社会はおそろしく冷淡なものと成り果ててしまうことであろう。
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