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専門家が疑問視。自治体の参集訓練に足りない「有事」の真実味

近い将来必ず起こるとされる南海トラフ大地震の影響を直接受ける静岡県で、4月24日早朝、全職員非常参集訓練が行なわれました。この訓練を2012年度からチェックしているというメルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで防災の専門家でもある小川和久さんは、毎回この訓練が「早朝」に行なわれ、参集してくる職員がスーツなどの平服で現れることを疑問視。自身も経験した自衛隊の非常呼集訓練との想定に対する真実味の違いについて鋭く指摘しています。

自治体の非常参集訓練と自衛隊の非常呼集

4月24日早朝、静岡県の全職員非常参集訓練をチェックする機会がありました。 大災害などの時、非常参集要員に指名された県職員が所定の時間内に県庁などの職場に到着し、対応に当たれるかどうかを確認するためのものです。県庁の危機管理センターの場合、到着した職員が氏名と到着時間を用紙に記入していきます。

私も、2012年度から小姑よろしく(笑)、意地の悪い目つきでチェックしているのですが、どうしても直っていないことが2点あります。

1つは訓練の実施時刻。私も午前6時30分から集まってくる県職員の様子を観察してきたのですが、どうして「草木も眠る丑三つ時」(午前2時半~3時半頃)に訓練を実施しないのか、疑問でなりません。

災害は時と場所を選ばずに襲いかかってきます。寝ぼけ眼で、そして、押っ取り刀で、どのくらいちゃんと参集できるのかも検証し、一定の水準になるよう、訓練しなければならないのではないでしょうか。

いまひとつは服装です。静岡県の場合、非常参集要員はスーツなど平服姿で県庁にやってきて、そこで初めて防災服(作業服)、防災靴、ヘルメット姿になります。これ、変だとは思いませんか。 自宅に防災服、防災靴、ヘルメットが備えられており、非常参集がかかったら、すぐさま対応できる恰好で自宅を出るのが基本のはずです。大災害が起きた場合、県庁以外の場所に向かう任務を与えられる場合も大いにあるのです。県庁に着いてから着替えるパターンだと、着替えに要する時間がロスになりますし、場合によってはスーツなど平服のまま災害現場に行くことになりかねません。

数年前からこれを指摘しているのですが、県側の説明は、防災服姿の県職員が続々と集まってくると、それを見た県民にいらざる心配をかけることになりかねない。県民に不安を与えないように、県庁に着いてから防災服に着替えている、というのです。

皆さん、どう思われますか。マスコミなどを通じて、県民に周知しておけばよいだけの話ではないでしょうか。

私は1961(昭和36)年、15歳で陸上自衛隊の生徒となりましたが、日常茶飯事と言ったらオーバーであっても、けっこう非常呼集は経験しています。

熟睡している午前3時か4時頃、けたたましく非常ベルが鳴る。当直幹部と当直陸曹、そして不寝番についている同期生が「非常呼集!」と怒鳴る。2段ベッドから飛び起きて、まず半長靴を履き、そのまま作業服のズボンをはき、上着を着るという順番です。そこで上着の上から弾帯を腰に巻きます。 40人部屋の両端の棚の上に整然と並んでいる背嚢、ヘルメット、鉄帽を他人のものと間違わないようにとり、押し合いへし合いしながら背嚢を組み立てる。この背嚢は映画『プライベート・ライアン』で米兵が身につけていたものと同じで、普通は分解した状態で整理整頓してあります。そして、背嚢を背負うと隊舎の中ほどにある武器庫に走る。自分のM1ライフルと銃剣をとって営庭に走り、整列します。

その様子を当直幹部が腕時計で時間を計りながら眺めている。むろん、場合によっては「やり直し!」です。もう一度、ライフルなどを武器庫に戻し、背嚢を分解して棚に整頓し、ベッドに潜り込む。少しホッとしたタイミングを見計らって、また「非常呼集!」の大音声。 私は経験したことがありませんが、部屋の中に発煙筒が投げ込まれ、何も見えない状態で衣服を身につけ、背嚢を組み立てさせられたケースもあったようです。こんなことをやるのは、もちろん一朝有事の時、日本国と国民を守るための働きができるようにという目的があるからです。

地方公務員の皆さん、あなた方にとっての災害は、自衛隊にとっての有事、つまり戦争と同じなのですよ。県民の命を守るために働くということを忘れないでください。(小川和久)

image by: 静岡県公式ページ

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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