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軍事アナリストが懸念。自衛隊「ハイブリッド戦」を不安視する訳

4月19日、ワシントンで開かれた日米の外務・防衛担当閣僚会合で、サイバー領域での連携強化について合意がなされました。これに関し、「ハイブリッド戦」で最先端をいく米軍との連携を歓迎しながら、不安もあると指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さん。陸海空を横断する統合幕僚監部ができていながら、縦割り組織の壁を感じた2010年ハイチ地震での出来事が念頭に浮かぶようです。

自衛隊が直面するハイブリッド戦という課題

4月19日、日米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)がワシントンで開かれました。そのうち最も重視されたのは、中国とロシアに対する安全保障面での連携強化ということで、サイバー攻撃については「一定の場合には、サイバー攻撃が日米安保条約第5条の規定の適用上武力攻撃を構成し得る」と共同文書に明記されました。

しかし、私が気になったのは「ハイブリッド戦」についてでした。4月20日付毎日新聞は次のように報じています。

「念頭にあるのは新領域で台頭するロシアと中国だ。ロシアは14年にウクライナ南部クリミア半島に軍事介入した際、サイバー攻撃や電磁波などを組み合わせた『ハイブリッド戦』で圧倒したとされる。中国は宇宙分野や次世代通信規格『5G』などの分野で優位を狙っている。日米の危機感は高い」(4月20日付 毎日新聞)

その通りなのです。だからこそ、従来の陸・海・空の戦力に加えて、宇宙・サイバー・電磁波の領域を横ぐしで貫き、とことん統合戦略を進めることが求められることになります。これが、防衛白書が謳っている多次元横断(クロスドメイン)防衛構想です。 ひとくちに統合といっても、様々な課題があり、その点は米国も同じです。しかし、米国は曲がりなりにも統合戦略が最も進んでおり、その面でも中国、ロシアに大きく水をあけています。

問題は日本です。統合幕僚監部ができて13年。それなりに前進していることは喜ばしいことですが、米国から見ると信じがたいような官僚組織の縦割りの問題が、まだまだ克服されていないのです。かつて露呈した次の問題など、ちゃんと捌くことができるようになっているのか、気がかりでなりません。

2010年のハイチ地震に伴うPKO(国連平和維持活動)部隊の派遣の時、国連側から、

1)警備のための歩兵部隊、

2)復旧のための工兵部隊、

3)輸送のためのヘリ部隊の派遣、

が要請されました。日本は歩兵部隊を出すための法制度の整備が進んでいませんでしたから、最終的には工兵部隊だけを出すことになりました。しかし、統合幕僚監部が機能していれば強力なヘリ部隊の派遣も可能だったのです。それが自衛隊組織の縦割りの中で実施に至りませんでした。

陸上自衛隊としては、2004年のスマトラ沖地震の時に輸送艦くにさきにCH-47大型ヘリ3機、UH-60中型ヘリ2機を搭載する形で派遣しましたが、陸軍仕様のCH-47はローターを外してしか船積みできず、現場海域で組み立てて試験飛行をするなど、手間取ったという苦い経験があり、ハイチでは見送ることにしたのです。

そのとき、私は海上自衛隊が10機備えていたMH-53掃海ヘリなら陸自のCH-47と同じくらいの大きな輸送能力もあり、しかも海軍仕様なのでローターを折りたためることを思い出し、海自の航空集団司令官を経験した同期生に聞いてみました。すると、掃海具を下ろせばそのまま派遣できるという回答があったのです。

ハイチでは、米国の海兵隊が同じ機体のCH-53ヘリを飛ばしており、海自のMH-53を派遣した場合にも、部品の補給や整備の面でも米海兵隊の協力をうることができたのです。

残念ながら、そのときは既に手遅れで実現に至りませんでしたが、いくら統合幕僚監部ができたといっても、陸自の部隊を派遣するときに海自のヘリのことが視野に入っていなかったのでは、縦割りを絵に描いたような有り様で、統合運用ができていないということだったのです。これは統合幕僚監部設置から4年経った段階でした。

れが、自衛隊の取り組みが途上にある宇宙・サイバー・電磁波の領域にまで拡がり、陸・海・空の組織の統合ばかりでなく、複合的な取り組みが必要となれば、どんなことになるのか

まずは徹底的に頭の体操(図上演習)を行い、そこで明らかになった問題に優先順位を付け、組織・人事・装備を調えていくことが突きつけられています。

言うは易く行うは難し。本当に新しい時代の安全保障問題に向き合えるのか、防衛省・自衛隊の真価が問われています。(小川和久)

image by: YMZK-Photo / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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