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地に墜ちた大英帝国の輝かしい過去。EU離脱問題の見えぬ「正答」

EU離脱条件が一向にまとまらない英国。そもそもメイ首相本人がEU離脱反対派であり、どうにかして離脱を逃れたい様にしか見えず、そこにはかつての大英帝国の面影はありません。ジャーナリストとして数々のメディアで活躍中の嶌信彦さんは自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で、離脱が現実のものとなれば、英国がいよいよ「ヨーロッパ盟主で世界主要国だった地位」からの転落も確実である根拠を解説しています。

指導力なきメイ英首相の混乱ぶり ─大英帝国はいまやいずこへ?─

イギリスのメイ首相は、もはや完全に“死に体”となってしまったといってよかろう。メイ首相はEUとの間でまとめた“ブレグジット英国のEU離脱)”案の承認を議会に求めてきたが、2回拒否され、さらに3月29日に行われた3度目の採決でも議会はメイ首相の協定案を否決した。29日の投票前にメイ首相は可決されれば首相を辞めると示唆し、進退を掛けて党内支持を取り付けようとしたが、辞任の意思を示しても重みがなく「どうせ辞任は避けられまい」と多くの人は思っていた。とても承認の切り札にはならなかったのだ。

EUは当初、一応メイ首相に4月12日まで猶予期限を与えたが、その後離脱期限を10月末まで延期する温情をみせた。いまや離脱を考え直すという姿勢を示さない限り、結果は同じことになり、ますますメイ首相の進退が窮まっている。最悪の場合、保守党の分裂だけでなく英国の実質的終焉という事態まで招きそうなのである。

メイ首相自身はEU残留派

イギリスがEUからの離脱を決めた国民投票は2016年6月に行われ、残留派が48%だったのに対し離脱派は約52%だった。このためキャメロン首相の後を継いだ2人目の女性首相・テリーザ・メイ首相は国民の意思を実現するのが民主主義の道理であると考え、ブレグジットに邁進したのである。ただ、メイ首相の個人的信条はEU残留だったが、民意の実現が自分の使命と考え、EUとの間でEU離脱の好条件を探りながら今日までイギリスを引っ張ってきたのだ。

しかし、EU側の姿勢は固くイギリスに有利な離脱条件は承認しなかった。その実情がわかるうちに、イギリスがEUを離脱した場合の経済的不利益な数々の実情が判明してきてイギリス国内では残留派が53%離脱派が47%と以前とは逆の風向きに変わってきたし、英国社会研究センターの世論調査(2月)でも残留支持55%に対し離脱派は45%完全に逆転してきた。

EUを離脱すれば英国にいてもムダ

逆転の背景には今後EUから物品を輸入するに際しては新たな協定が必要となるほか、イギリスに工場を構えていた他国が英国脱出を口にし始めたりしたからだ。たとえば日本のホンダは工場移転を示唆しているし、トヨタや多くの部品関連会社も困惑している状態だ。
合意なき離脱”が実現するとイギリスとのFTA自由貿易協定が消滅する可能性が強いためで、日本だけでなく韓国、ノルウェー、フランス、オランダなど数多くの国々と協定を結び直さない限り失効することになってしまう。またイギリスのロンドン・シティは国際金融センターの中心地になっているが、金融センターとしての立場も弱くなる可能性が強いのだ。

いまや離脱反対が多数の英国民

しかも今や多くの英国民は、EUと有利な離脱合意の条件が結べなくなることを知ってあわてふためいている。離脱中止を求めるオンライン署名は600万人に達し、3月23日には100万人がロンドンで離脱反対のデモを行ったという。最近の世論調査によると、離脱を決めた国民投票のやり直しを求める人は48%で、なおEU残留の反対派は36%。二大政党の保守党も労働党の多くの議員もEUのメンバーであり続けるべきだと主張し始め、下院議員の3分の2も同様だという。

にもかかわらず離脱に固執するのは「民主的な選挙によって示された民意をないがしろにすれば、政府が国民に約束したことは無視され、民主主義が破壊される」という強硬派がまだかなり保守党におり強行すれば党が分裂することを恐れているからだとみられている。

地に落ちる大英帝国の過去

しかし、メイ首相自身がEU残留派であると言う以上、身を賭して残留を説得するのが首相の役目になるのではないか。いたずらにEU離脱の好条件を探り3度も否決されるようであれば、議会を解散してもう一度国民投票をやり直すか、自ら身を引くのが筋だろう。迷走を続け世界からあきれかえられていれば、かつてのイギリスの栄光はますます地に落ちよう

イギリスには15世紀前後の200年間、世界を統治したヨーロッパの盟主だった誇りがあり、大陸のフランス、ドイツなどの実質的な統治下に入ることに抵抗があるに違いない。しかしブレグジットで迷走をし続け孤立してしまうようなことになれば、かつて世界の中心にいたギリシャ、ローマ、スペイン、ポルトガルのように結局イギリスも“その他一同の国”になってしまうのではなかろうか。

離脱してもイギリスは生き残れるという驕りが、イギリスをヨーロッパの孤児の道を歩ませることになり、世界からも見放されることにつながろう。そのことを理解できないイギリスの政界は歴史的な過ちを犯すことになってしまうだろう。

(TSR情報 2019年4月19日)

※参考情報

image by: Lenscap Photography / Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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