高齢者の労働意欲を削ぐという理由で、「在職老齢年金」の制度の廃止が検討されているようですが、果たしてそれは「正答」なのでしょうか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』で著者のhirokiさんが、在職老齢年金の基本的な事例をもとに解説しています。
60歳から65歳までの在職者の年金停止の基本的な流れ
最近のニュースだったか、ビックリしたんですが在職老齢年金を廃止する事を検討みたいな情報を目にしました。在職老齢年金による年金停止が高齢者の働く意欲を削いでいるから、高齢者の就労を推し進めるためにも廃止を検討と。
在職老齢年金は60歳以降に厚生年金に加入する(これを年金の世界では在職という)と、月の給与(標準報酬月額)と直近1年間に貰った賞与を12ヶ月で割った額と、厚生年金月額の合計が定められた基準額を超えると停止されるというものです。
平成31年度の基準額は65歳未満は基準額は28万円、65歳以上は47万円。基本的に給与が2増えると、年金が1停止される仕組みになっている。年金相談の中では非常に多い案件の一つ。停止されて不満という受給者様は非常に多いです^^; 大抵文句言われる(笑)。
なお、在職老齢年金制度は昭和40年改正から始まって、約50年の歴史があります。老齢の年金はもう現役を引退した人に支給されるという意味を持つものですが、せめて税金が投入されてる部分以外は支給しようとなったものが始まりでした。
厚生年金は昔は20%の税金負担がされていたので、在職していてもその税金分を引いた分くらいは支給しようとなってから様々に形を変えてきて、平成16年改正から今のやり方になってます。
というわけで今回は在職老齢年金の基本的な給付事例を見ていきましょう。
1.昭和32年6月17日生まれの女性(今は61歳)
●(令和元年度版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
20歳になる昭和52年6月から昭和59年3月までの82ヶ月は昼間大学、大学院に通ったが学生は国民年金には強制ではなかった為に国民年金には加入しなかった。この82ヶ月はカラ期間になる(年金受給資格の10年に組み込むだけで年金額には反映しない)。昭和59(1984)年4月から60歳前月の平成29(2017)年5月までの398ヶ月は厚生年金に加入。
なお、昭和59年4月から平成15(2003)年3月までの228ヶ月の平均給与(平均標準報酬月額)は29万円とします。平成15年4月から平成29年5月までの170ヶ月の平均標準報酬額(給与と賞与を合計して平均したもの)は36万円とします。
さて、この女性は60歳から厚生年金が貰える生年月日なので、老齢厚生年金額を算出。
● 厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)
- 老齢厚生年金額(報酬比例部分)→29万円÷1,000×7.125×228ヶ月+36万円÷1,000×5.481×170ヶ月=471,105円+335,437円=806,542円(月額67,211円)
が貰える。
しかし、この年金額では生活が厳しいので、女性は60歳以降も厚生年金に加入して継続して働く事にした。60歳以降の雇用は給与が60歳前より低くなる事が多く、この女性の給与月額は32万円から25万円(標準報酬月額は24万円)に下がる事になった。賞与は7月と12月に30万円ずつ貰う。給与は60歳前より減るけど、65歳までは働き続けようと思った。60歳の翌月(平成29年7月)から年金が発生するが、年金が低くなっていた。
はい、お決まりの在職老齢年金が適用されていますね。
まず、月給与(標準報酬月額)は24万円、賞与(標準賞与額)は年間60万円(月換算で5万円)、年金月額は67,211円。
- 在職老齢年金による年金停止額→{(標準報酬月額24万円+月換算した標準賞与5万円+年金月額67,211円)-年金停止基準額28万円}÷2=38,606円(月年金停止額)
つまり、月々の年金額67,211円から38,606円を引いた28,605円が支払われる年金月額になるという事です。だから、月の収入自体は給与25万円と年金67,211円の合計317,211円となると思っていたら、25万円+28,605円=278,605円となるわけですね。
働いたせいで年金が少なくなるという事になりますが、現役の頃とそんなに変わらない給与が貰えるなら年金を一部または全額カットしますという事です。
じゃあ働くと全く損なのかというとそうではなく、もちろん働いた分は年金額として増額になる。例えば60歳到達月である平成29(2017)年6月から令和3(2021)年3月31日までの46ヶ月働いたとします。
(標準報酬月額24万円×46ヶ月+賞与30万円×8回)÷46ヶ月=292,173円(平均標準報酬額)
- 退職による年金額の再計算(年金の退職改定)→292,173円÷1,000×5.481×46ヶ月=73,664円
の年金増額になる。だから、退職日の翌月である令和3年4月以降の老齢厚生年金総額は
- 806,542円+退職改定による年金増額73,664円=880,206円(月額73,350円)
退職後は年金の在職による停止は一切無くなる。年金を貰いながら在職中は年金が停止されますが、退職した時に年金が増えるから長い目で見ると年金が増えます(そうじゃない場合もありますがこの記事では割愛)。
最後に65歳時の年金額を算出。65歳になると国民年金から老齢基礎年金も発生する。この女性は国民年金保険料納めた期間はないですが、20歳から60歳までの厚生年金期間は国民年金にも同時に加入してるから、老齢基礎年金が出る。
- 老齢基礎年金額→780,100円÷480ヶ月(20歳から60歳までの期間)×398ヶ月(20歳から60歳までの厚生年金期間)=646,833円
老齢厚生年金は880,206円でしたが、60歳以降も働いた事でもう少し年金が増える。
老齢基礎年金は国民年金強制加入中である20歳から60歳までの480ヶ月でしか計算しませんが、厚生年金は20歳前や60歳以降(最大70歳まで)も加入できるので、国民年金との差額を補うための年金(差額加算または経過的加算という)がある。
- 老齢厚生年金(差額加算年金)→1,626円(平成31年度定額単価)×444ヶ月(全体の厚生年金加入期間)-780,100円÷480ヶ月×398ヶ月(20歳から60歳までの厚生年金期間)=721,944円-646,833円=75,111円
よって、65歳からの年金総額は
- 老齢厚生年金(報酬比例部分880,206円+差額加算75,111円)+老齢基礎年金646,833円=1,602,150円(月額133,512円)
これが65歳前に在職する人の停止額でした。
今回は65歳後の在職老齢年金も示したかったのですが、ちょっと長くなったので今日はここまで^^;
※追記
65歳前に退職して退職月の翌月から年金額が増額(年金の退職改定)してますが、退職しなくても65歳到達すると一旦年金の再計算を行う(65歳到達時改定)。
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