東京都内を走る、ひときわ目を引くひよこのマークの車。日々平均で6万2,000食ものお弁当を配送している「玉子屋」というお弁当屋さんの配送車です。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では著者でMBAホルダーの青山烈士さんが、他社を圧倒する実績を可能にする、同社の戦略と戦術を分析しています。
コスパを向上させるための企業努力
今号は、圧倒的な実績を誇る弁当屋を分析します。
● 玉子屋(デリバリーランチ)
戦略ショートストーリー
都心のオフィスで働くビジネスパーソンをターゲットに「仕出し弁当事業のノウハウ」に支えられた「コストパフォーマンスが高い」「飽きない」等の強みで差別化しています。
450円という価格に対する価値(2カ月は同じメニューが出てこないほどのメニューの豊富さや平均7種類のおかずなど)の高さが、顧客から支持されています。
■分析のポイント
都心のランチ市場の競争は非常に厳しいと思いますがその中で、日々平均で6万2,000食もの弁当を配送している実績は素晴らしいと思います。
当たり前ですが、価格と価値の関係を整理すると下記のようになります。
- 価格 > 顧客にとっての価値
→売れない - 価格 < 顧客にとっての価値
→売れる
「玉子屋」の場合
- 450円 < 顧客にとっての価値
となっているからこそ、6万2,000食も売れていると言えます。
売値を変えずに顧客にとっての価値を最大限、高めようと思ったら質を高めるのがセオリーです。質を高めるうえで、今回カギとなる数字は「玉子屋」のお弁当の廃棄率0.1%未満です。
「玉子屋」は、当日注文、当日配送とはいえ、数が多いため、予測をもとに、注文を受け付ける前から弁当を作っていますから、廃棄を避けることは困難ですが、最小限に抑えられています。
通常、お弁当を販売している企業、スーパーやコンビニなどでは廃棄することを見越して通常売価を設定しています。つまり、ある程度、値引きや廃棄をしても儲けが出るようにしているということです。
これは、廃棄率を最小限に抑えることができれば、売価を抑えることにつながると言えますし、売価を変えないのであれば、そのまま利益確保もできますし、質を向上させるために費用を使えることも意味しています。「玉子屋」の場合は、廃棄率を最小限に抑えることで、質を向上させるための費用を確保し、価値を最大限に高めているのです。
その廃棄率を最小限におさえるために重要な存在となるのが「玉子屋」の配達員です。
「玉子屋」の配達員は、1日に配送で1回、容器回収で1回の計2回、客先に伺っています。毎日発注のある顧客の場合、週に10回は、顧客との接点を持つことができます。接点を持つことで、客先に勤めている社員のニーズや状況を把握することにつながります。これにより、顧客ニーズや翌日の状況などを把握することで翌日の注文数予測に活かしているのです。
この注文数の予測能力が高いからこそ廃棄率を0.1%未満という最小限に抑えられているわけです。
コンビニなどでは、販売実績などのデータをもとに発注数を決めていますが、店舗にもよりますが廃棄率は3%~5%程度のところが多いので、「玉子屋」の予測能力の高さが際立ちますし、廃棄率を0.1%未満という数字が驚異的な数字であると感じます。
450円という売価でありながら、価値が高い(コスパが良い)という顧客からの評価を得るための企業努力が伺えますね。
今後、都心のランチ市場の中で、「玉子屋」がどのような存在になっていくのか注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):都心のオフィスのランチ
- 競合(お客様の選択肢):仕出し弁当会社、コンビニ、外食(ランチ) など
- 状況:フードデリバリー市場は伸びているようです
■強み
1.コストパフォーマンスが高い
- 美味しい、こだわりの食材
- 多品目、おかずの数が多い
- ボリュームもある
- 見た目(いろどり)もよい
2.飽きない
- 2カ月間、同じメニューは出ない
- バランスのよいメニュー
- 作りたて
- 午後の活力になる
3.手間がかからない
- 当日注文、当日配送
- 外に出る必要がない
- 昼休みを有効に使える
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
「仕出し弁当事業のノウハウ、仕組み、こだわり」
- メニュー開発力。こだわりの食材、原価率50%以上。毎日、提供しているお米には特にこだわっている。
- 1日6万2,000食の製造能力及び配送能力。 注文数の予測能力(廃棄率0.1%未満)
上記のような、ノウハウなどが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- 都心のオフィスで働くビジネスパーソン(契約は法人)
◆戦術分析
■売り物
「日替わりの弁当の配送(デリバリーランチ)」
- お昼のみ提供
- メニューは日替わりで1種類のみ
- 2カ月は同じメニューが出てこない
- 平均7種類のおかず
- 注文は1社10食以上から受付
→朝9時から10時までに注文を受けて、昼12時までに配送する
■売り値
- 450円(税込み)
■売り方
- 様々なメディアで紹介されている
- 都心でよく見かける目立つ配達車
- スタンフォード大学MBAの教材にもなっている
■売り場
- 電話、FAX、インターネットで注文受付
- 営業範囲は、都心を中心としたエリア
※ 売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: 『【大田区】おべんとうの「玉子屋」』公式ホームページ