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この際はっきりさせよう。どこからパワハラと判断されるのかを

5月29日に可決・成立したパワハラ防止法。罰則規定は見送られたものの、違反した場合は社名を公表するという法律ですが、どこからがパワハラに当たるのか、その判断基準は難しいものがあるようです。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、ある裁判の事例をもとに、「その行為がパワハラか否か」を判断するポイントを解説しています。

言い方に問題がなければ、パワハラにはならないのか

「忖度(そんたく)」という言葉が以前に話題になりましたね。流行語大賞にノミネートされたり、某コンビニでは「忖度御膳」というお弁当が発売されたりと、流行に疎い私ですらも(汗)その言葉は印象に残っています。恥かしながらその言葉自体、そのときに初めて知ったのですが(汗)みなさんはいかがでしょうか。

さて、その「忖度」ですがその言葉自体には否定的な意味はないそうですが、その当時は否定的な意味で使われていたように思います。ただ、言うまでもありませんが「相手の気持ちを読む(で、行動する)」のは、とても良いことでもあります。

例えば、会社で仕事を一人で抱え込んで大変そうな人がいれば(例え「忙しいから手伝ってくれ」と言われなくても)「何か手伝おうか?」と声をかけてあげるとか電車で、妊婦の方やご年配の方がいれば(例え「席を譲って欲しい」と言われなくても)席を譲ってあげるとかどちらも素晴らしいことではないでしょうか(というよりも、おそらくみなさんは普通にやられていますよね)。

これはパワハラにも同じことが言えます。

ある金融機関で、その社員が自宅で自殺をしました。遺族は上司からのパワハラが原因だとして会社を訴えたのです。ではその裁判はどうなったか。

まず、裁判の話の前に簡単にパワハラについてお話します。パワハラの1つの要件として「ひどい暴言」というのがあります。実はこれがパワハラの判断が難しいポイントの1つになっています。というのが、「厳しい指導ひどい暴言の判断が非常に難しいからです。

例えば、部下が同じミスを何回もしたとします。上司であれば当然、今後はミスをしないように部下を指導する必要があります。初めてのミスならともかくとして何回も、ということであれば厳しい口調にならざるをえないでしょう(厳しい口調を奨励しているわけではありませんが)。

そうなるとそれは「厳しい指導」なのか、「ひどい暴言」なのか。

そこで、判断のポイントの1つが「言葉に人格否定や侮辱がはいっていないか」です。例えば、

「何回も同じミスをするな!必ず確認をしろ!!」

であれば、多少厳しい口調であったとしてもパワハラと認められる可能性は低いでしょう。これが

「お前はバカか!死ね!!

であれば、例え指導だったと主張してもパワハラと認められる可能性が高くなります。言うまでもありませんが「バカ」は人格否定や侮辱になりますし、どんなミスであろうと死ぬ必要は当然ありませんので「死ね」を指導とは言えないからです。

では、この裁判はどうだったのか。

この会社では上司から自殺した社員へ「厳しい口調の叱責が日常的に継続していた」と認められました。ただ、ポイントはその「叱責の内容です。

裁判所は「(叱責が継続したのは)書類作成上のミスが発生したことによるものであって、何ら理由なく叱責していた事情は認められない」「具体的な発言内容は人格的非難に及ぶものとまでは言えない」として、「指導には違法性なし」と判断したのです。

ただし、です。

裁判の結果、会社が負けました。なぜか?

実は次のような事実もあったからです。

これらのことから「会社は相応の対応をすべきだった(のに行わなかった)」として、「安全配慮義務違反があった」と、判断したのです。

いかがでしょうか。これは実務上も非常に重要なポイントです。みなさんの中には「パワハラを防ぐ」立場の方も多くいらっしゃることでしょう。例えば、ある部長が部下に非常に厳しい言い方で指導(パワハラ?)をしていたとします。みなさんはその状況を改善したいと思いその部長と面談をしました。

そこでその部長に「確かに厳しい言い方はしているかも知れませんが、内容に問題はありますか?と言われたらどうでしょうか?

そこで、「確かに内容には問題ないけど、その言い方だと…」だけでは、おそらくその部長は納得しないでしょう。「万が一の場合は会社が安全配慮義務違反になる」であれば、また反応は違ってくるのではないでしょうか。

また、みなさんの中には「部下を指導する」立場の方もいらっしゃるかも知れません。実はパワハラ上司と言われる人の中には、「真面目で熱心」という方が多いのも事実であったります。

部下を成長させたいと思う一心でつい口調が厳しくなってしまう。もしそうであれば、ちょっとだけ相手の状況を確認してみませんか。

パワハラは当然ながらあってはならないことですが、厳しい指導が完全否定されるべきでもありません。パワハラについての「正しい知識」を持って指導にあたることが大切なのです。

image by: Shutterstock.com

特定社会保険労務士 小林一石この著者の記事一覧

【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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