80代の親が50代の子供の生活を支える「8050問題」がにわかにクローズアップされています。共倒れのリスクも高く解決は喫緊の課題ですが、その糸口はどこにあるのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、さまざまな側面から分析・検証しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年6月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
問題の根っこにあるもの 「8050問題」の本当の問題
川崎の無差別殺傷事件に続き、元農水事務次官の父親が息子を殺害した事件が起きたことで、「高齢者社会の闇」が浮き彫りになりました。
80代の親が50代のひきこもりの子どもを支える、いわゆる「8050問題」です。
メディアはこの問題で、「ひきこもり」にばかりスポットを当てていますが、「8050問題」とは非正規の増加と密接に結びついた社会問題であることを忘れてはなりません。
低賃金で不安定な非正規が増え、親と同居する中高年のパラサイトシングルが増加。ご近所さんからは「あそこの息子は結婚もしないで、いつまでも家にいて…」などと揶揄され、どうにかしたいとあがきつつも、世間のまなざしから逃れるように「ひきこもる」。
その一方で、親も年をとり、介護が必要となる。子は親に経済面で依存し親は子に自分の世話をしてもらうことに依存する。この社会的・経済的リソースが欠如した親子の相互依存が、ますます貧困リスクを高め、孤立を深め、社会から切り離されてしまうのです。
これまでインタビューした700名超のビジネスパーソンの中には、
- 長時間労働などで心身を壊し退職を余儀なくされたのち、非正規雇用の職場を渡り歩いている
- 一人っ子で親の介護が必要となり、仕事との両立がかなわず離職した
- がんに罹患し、治療と仕事の両立が困難になり退職。時を同じくして親の介護が必要となった
という経験を話してくれた人たちがいました。
つまるところ、“日本株式会社”が求めるのは「自分たちの要求にノーと言わない」社員であり、24時間365日バリバリ元気で、丈夫に働ける社員です。どんなに能力やスキルが高くても、体を壊したり家族に変化があった途端、戦力外にさせられるのです。
マッチョな働き方を基準にする限り“脱落者”は量産され、その“脱落者”に社会が注ぐ冷ややかなまなざしが、再び一歩前に踏み出そうとする力を奪います。
社会の懐の狭さと冷たさが、社会的に孤立する親子を量産させている。そういっても過言ではありません。
奇しくも数ヶ月前、「中高年ひきこもり61万人」という内閣府の調査結果が話題になりました。
61万人という数字の推計結果にはさまざまな異論もあります。
ただ、人手不足といいながら、「働き盛り」がひきこもっていることの経済的損失は計り知れません。
私は今回の話題の引き金になった二つの事件で、「働いて賃金を得る」という行為が人が生きるためにも、社会に居場所を得るためにも、社会との接点を持つためにも、とても大切な行為であると痛感しました。
パソコンを利用した仕事など、自宅でもできる仕事を国が率先して発注する。非正規雇用の賃金を正社員以上にする。
そういった手立ても8050問題解決策の糸口になるのではないでしょうか。
みなさまのご意見をお聞かせください。
image by: Shutterstock.com
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年6月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
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2019年5月分
- 「無差別殺傷事犯に関する研究」より/オレにも言わせろ! ほか(5/29)
- 「認知症」差別への懸念/「他人の足をひっぱる男たち」(25) ほか(5/22)
- 「終身雇用=悪」とする三流経営/「他人の足をひっぱる男たち」(24) ほか(5/15)
- 「働く女性5割」に潜む根強い女性差別/「他人の足をひっぱる男たち」(23) ほか(5/8)
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2019年6月12日号)より一部抜粋