今年4月、マツモトキヨシHDとの資本業務提携協議を開始すると発表していたココカラファインが、スギHDとの経営統合に関する協議を始めると発表し話題となりました。ドラッグストア業界で何が起こっているのでしょうか?メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが、統合協議に関わる3社それぞれの思惑や業界が抱える課題などを分析し、小売業で勝ち残るためのヒントを探ります。
業界再編に動くドラッグストアに学ぶ小売業の今後
ドラッグストア大手の、ココカラファインの動向が、今話題になっている。
ライバルであるマツモトキヨシホールディングスと、スギホールディングスが、それぞれ、ココカラファインに経営統合を持ちかけたことがことの発端。両者が統合に関して具体的な協議に入った、との報道で、今さらにニュースになってきた。
なぜドラッグストア業界は再編に動くのか?
なぜ、ドラッグストア各社がこのような動きに出ているのか、という理由を考えてみたい。まずは、統合によって規模を拡大することができること。1300店舗以上を持つココカラファインと統合することで、マツキヨは合わせて約3000店舗に、スギなら約2500店舗になる。
マツキヨは現在業界5位で、スギが6位、ココカラファインが7位という位置付けにいるため、経営統合によってウエルシアホールディングスを抜き、店舗数でも売上金額でも業界1位の座を狙いたいとの意図がある。
まずは、規模の経済の側面から考えてみると、経営統合のメリットは、売上の拡大だけではなく、間接部門の費用などの固定費のコストを圧縮、効率化すること、利益増を見込むことができる。店舗数が増えることで、IT費用や間接部門の人件費などを共有して活用できることになり、販売促進費などもより効率的に使うことができる。
経営統合によるエリアドミナント戦略も期待される。特定地域に、自社店舗を集中して出すと、商品を効率よく各店舗に配送することができる。また、複数自店舗を存在させ面を抑えることで、消費者との接触率もあがり、存在感もますことで、認知度を向上させ、ともなってブランド価値を上げることができる。
ココカラファインの魅力をどこに感じるのか
それぞれの強みがお互いを補完できることも、今回の経営統合の話になっているようだ。日経MJ(6月7日)によると、ココカラファインはITによる分析が得意とのこと。
確かに、私もココカラファインのメンバーズカードを持っているが、買い物に応じてのポイント制などの販売促進をとっても、面白い試みをしているイメージがある。活用されている、というイメージがあるのだ。
顧客のデータ分析でマーケティングを仕掛けることは、これからの小売業には欠かせないことだ。ITの活用による顧客価値の増大は、データ量と、それを取り扱ってきた経験値に比例する。
GAFAがあれほど強大なマーケティング力を持つのも、長年集めてきた膨大なデータの量と、これも長くデータを解析し、含意を読み取る経験の蓄積の賜物だ。マツキヨもスギも、ITに強いと言われるココカラファインと統合し、より強化したいと考えているはずだ。
ココカラファインの立場からすると、全国的な知名度があるマツキヨとの提携や統合は、店舗への集客にメリットを感じるだろう。また、マツキヨにはプライベードブランド商品ある。PBはそのあ店に行く理由になるため、魅力的だ。
スギHDの特徴は、郊外店に強いという点。店の規模も大きくなるし、郊外の大型店は、これからドラッグストアを活用する高齢者層にとって、便利な業態になるだろう。この点もココカラファインにはないので、魅力に感じたのではないかと思われる。
今後のドラッグストア業界はどうなるのか?
このようにM&Aではお互いの強みが相乗効果を発揮できる、ということが重要だ。どちらに決まるにせよ、大規模ドラッグチェーンができることが予想される。こうなると、業界内での競争は激しくなり、価格競争に陥るのは想像に難くない。
このままでは、資金力を中心に体力がある企業が、勝ち残る構図になるだろう。小売業で重要なことは、お客様がその店に行く理由をはっきりさせること。
なかでも、安いから行く、価格に頼るだけでは、値引き合戦でしか勝負できない。価格や立地条件など、物理的・機能的な側面ではないところで、勝負したいところだ。
その意味では、先述のPB商品などは、その店だけのものなので差別化できる。スターバックスのように接客に工夫をしたり、コメダ喫茶店のようなおもてなしのサービスを生み出すことも、独自サービスとして考えるべきだ。
人は居心地のいいところに集まるので、ゆったりできるスペースを確保するなども、その店に行く理由になる。買い物好きの私には、これからのドラッグストアの行方がとても楽しみだ。ワクワクするような店舗作りをして欲しい。
企業にとって最も参入障壁が高いのは、設備や技術ではない。訓練された「人」なのだ。
おもてなしの心で、顧客の期待を超えるサービスを生み出せた企業こそが勝ち残れるのは、ドラッグストアの業界も同じであろう。
image by: Tokumeigakarinoaoshima [CC0], via Wikimedia Commons