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30万円以下の罰金も。会社が熟知しておくべき賃金支払いの5原則

注意を払っているつもりでも、思わぬミスが発生してしまう社内での様々な手続き。時には退社した社員から訴訟をほのめかされることすらあります。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、30万円以下の罰金刑となることもある「労働基準法24条違反」と、その内容に関わる「賃金支払いの5原則」について詳しく解説しています。

賞与社会保険料の落とし穴

今日は、東京のお客様からの電話相談。6月の社労士事務所は、労働保険年度更新と、社会保険算定基礎届の手続きで忙しい季節です。


新米 「しょちょー、L社さんからお電話です!なんか様子がヘンなんですけど…」

所長 「どうした?とにかく電話に出るね」

L社部長「実は、社会保険料のことでご相談なんですが、退職月の賞与からは社会保険料は控除しなくていいんですよね?」

所長 「はい、月末退職でなければ、そうなりますが…」

L社部長「実は、昨年の12月に退職した者がいたんです。うちの場合、月末退職が原則なんですが、その人の希望で最終出勤日の28日退職になったんです」

所長 「そうなんですか、そうするとやはり社会保険料がかかるのは、前月分までになりますから、12月の賞与で社会保険料控除の必要はないですね」

L社部長「やっぱりそうなんですよね。うちでは、月末退職しか受け付けたことがなくて、今回のようなケースは、初めてなんです。だから、賞与から社会保険料控除しちゃってて…。それを今頃、指摘されたんですよ」

所長 「もうずいぶん経ってしまってますね」

L社部長「指摘を受けてすぐに訂正して、控除してしまっていた社会保険料はお返ししました」

所長 「そうですか、迅速に対応されたんですね」

L社部長「でも、年末をまたいでいますから、年末調整のやり直しも必要だし、そのとき気づけてなかったことが盛りだくさんでちょっと困っています」

所長 「年末調整のやり直しもされたんですか」

L社部長「はい、なんとか…。でも、元従業員からは確定申告もしたのに!ってクレームが。それに、それだけで終わりじゃなかったんですよ」

所長 「それで終わりじゃなかったとは?」

L社部長「いやぁ~、『控除してはいけなかった社会保険料を控除してしまった。それって、労働基準法24条違反ですよね?』と言ってきたんですよ」

所長 「24条違反!?そんなことおっしゃってきたのですか?労基法24条というのは、『賃金支払いの5原則』が規定されている条文です」

L社部長「はい、私も調べてみました」

所長 「賃金支払の5原則のなかに、『全額払いの原則』というルールがあります。賃金は、必ず全額まとめて支払う必要があり、分割払い等はできないというルールです。ただし、法的な控除、つまり所得税や住民税などの税金や健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などの社会保険料などは賃金からの控除が認められます。また労働者の代表と労使協定を締結すれば、親睦旅行積立金や立替金などの法的控除以外のものも賃金から控除することができます」

L社部長「そうなんですよねー。でも、24条違反と言われてもねー」

所長 「当然ながら、社会保険料などの法的控除は賞与から控除して構いません。でも、今回は不要だった社会保険料を控除したということですから、確かに24条違反と言えなくはないですね」

L社部長「本人は、労働基準監督署に駆け込む勢いなんです」

所長 「でも、もう誤って控除した社会保険料はお返ししたんですよね?」

L社部長「そうです。発覚してすぐに謝罪文をつけて、お返ししました」

所長 「そうであれば、監督署に行くのを止められなくて、行ってしまったとしても、支払い済みですから、監督署から会社に是正のしようもないです。24条違反の罰則は、30万円以下の罰金刑です(労働基準法120条)が、これも有り得ないです。もしかしたら、確認のために電話の一本位はかかってくるかもしれませんが、お咎めはないでしょう。今後、気をつけていただくと良いです」

L社部長「そうですか、良かったです。それにしても、今回の件は驚きましたぁっ」

所長 「そうですね。うちもこの件が24条違反にまで発展したご相談は初めてです。念のため、『賃金支払の5原則』、いったん整理してみましょうか」

L社部長「はい、お願いします」

所長 「まずは、『現物給与の禁止』です。給与は必ず通貨で支払われる必要があります。銀行振込が主流になっている時代に、労基法はいまだに給与は現金払いが原則です。ただし、口座振込同意の労使協定と、労働者個別の同意があれば銀行振込の扱いが可能です。これを知らずに銀行振込をしている事業所がありますが、労基法違反状態になっています」

L社部長「え?労使協定もいるんでしたっけ?」

所長 「はい、これは毎年自動更新とする条項を組み込んでおけば、一度協定を結ぶだけでずっと使えます。労使協定の存在を一度確認してみてください」

L社部長「わかりました」

所長 「また、労働組合がある場合は、労使協定を作成することによって、通勤手当を『通勤定期』で現物支給することが認められるという例外もあります」

L社部長「労働組合がないなら通勤定期の現物支給はできないってことですね」

所長 「はい、労働組合がない場合はそうなります。二つ目は、『直接払いの原則』です。給料は、必ず労働者本人に対して支払わねばなりません。ただし、労働者が病気などで給料を受け取れない場合、家族を『代理人』ではなく『使者』として、賃金を家族に支払うことは、直接払いの原則に反しないと考えられています。

三つ目は、『毎月1回以上支給の原則』です。給料は、必ず「1ヵ月に1回以上」支払わねばなりません。

四つ目は、『一定期日払いの原則』で、支給日を毎月25日や、毎月末日、毎週末、第2月曜日などと定める方法は認められます。ただし、第5金曜日などとすると、月によっては、第5金曜日がないこともありますので、こういった決め方はできません。

五つ目は、最初にお話した『全額払いの原則』です」

L社部長「へぇ~、いろいろあるんですね。『賃金支払の5原則』か、気をつけます」

image by: Shutterstock.com

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【著者】 イケダ労務管理事務所 【発行周期】 週刊

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