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もう国家に意味はない。安倍一強を支える「無関心」という恐怖

衆参両院選の可能性が囁かれ続けたものの、結局7月21日投開票の参院選のみとなった令和初の国政選挙。その参院選、一時期は自民党の圧勝とも言われましたが、状況は刻一刻と変化しているようです。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』でその展望を占うとともに、巷間語られている「安倍一強」を支えているものについて考察しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年7月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「衆参同日選ごっこ」も封じられて参院選単独実施へ──追い詰められているのは安倍なのにそれほど負けない?

河野洋平=元衆院議長は26日に東京都内で講演し、安倍晋三首相や政権幹部が「首相の解散権を少しもてあそんでいるのではないか」と述べ、首相による恣意的な解散が「政治の劣化の一因となり、政治に対する信頼をどんどん低めている」と指摘した。

その通りで(日刊ゲンダイコラム=前号FLASH欄を参照)、内政・外交にことごとく行き詰まって参院選の“目玉”を作り出せなかった安倍首相が、苦し紛れの最後の手段として検討したのが衆参同日選の可能性だったが、自民党や官邸周りから思わせぶりなことを言わせて自分でも扇子でちょっと風を煽って見せるような不真面目さはむしろ顰蹙(ひんしゅく)を買うに十分で、結局は「衆参両方で敗れ政権を失う危険すらある」という公明党の山口那津男代表の懸念を払拭するに至らず、断念せざるを得なかった。

同日選というのは、1+1=3かそれ以上の出力エネルギーが必要な仕業で、自民党が打って一丸、火の玉となって公明党をも引き摺って行くのでなければ到底できない。安倍首相にもはやそれだけの迫力も求心力も残っていないことをかえって証明する茶番劇となってしまった。

7月21日投開票で確定

これで7月4日公示、21日投開票という参院選の日程が確定した。今後あれこれの予測が出て来るが、今のところまとまった形で出しているのは「サンデー毎日」6月23日号「完全予測・参院選124 議席」である松田馨、野上忠興、角谷浩一が各党の獲得議席数を予想しているが、例えば自公の与党計の当選数は697068とほとんど差がない。

今回改選となるのは現定数242の半分の121だが、18年の法改正により3議席増となるので改選数は124、それを非改選の121と合わせると選挙後の新定数は245、従って過半数は123改憲発議に必要な2/3は164となる。選挙前と後で定数が違って混乱しやすいので、まずこの基本的なラインを覚えておく必要がある。

それを踏まえて3人の専門家の予測を見ると、自民は改選66→当選54~56、非改選と合わせて138~140。公明は改選11→当選14、非改選と合わせて28。従って自公の与党計は非改選と合わせて138~140である。

第1に、自民党は現在122で、辛うじて単独過半数を制しているけれども、これを引き続き維持するには、改選66に対して1議席増やして67を獲得(して非改選56と合わせて123に)しなければならない。ところが3人の予測は54~56で、過半数維持は全く絶望的

第2に、3人の予測では自公合計は68~70なので、非改選70と合わせて138~140となる。自公合計で過半数を割るという衆参完全ネジレ状態に陥る可能性はほとんどない。逆に野党からすれば、そこまで追い込んで安倍政権の瓦解を早めることが最大限の目標となる。

第3に、自公合計でマックス140では2/3の164には到底届かず、維新の14~16を足してもマックス156にしかならないので、これまでの維新や希望の党やその他を掻き集めれば参議院でも何とか2/3に届くという状況は失われる。希望の党は現有2を失って消滅する可能性が大きい。

アイデンティティー喪失でも居座り?

自民党は予め勝敗ラインを自公合わせて過半数」という思い切り低いところに引いているので、その線を越えさえすれば「勝った」と強弁するのだろうが、2/3が到底手の届かないことになれば、向こう3年間、つまり安倍首相の自民党総裁任期である21年9月を超えて22年7月の参院選までは改憲を発議することができない。まさに改憲を最大使命とする安倍首相としてはアイデンティティー喪失の危機であり、「敗北以外の何物でもない。当然、それでもなお総理総裁に留まるのは何のためであるかを党内にも国民にも説明しなければならなくなる。

それが辛いので、参院選を通じて「憲法を議論する党か、議論しない党かの選択を迫る」と呼号し「改憲の安倍の体面を保とうとしているがその言葉に迫力はなく、有権者の関心を引き寄せることは難しい。

安倍首相の周辺からは、「いや自公維で2/3に届かなくても、かえって他の野党の協力を得やすくなる」という声も上がっているが、これは強がりというもの。「他の野党」とは言うまでもなく国民民主党のことで、同党内に改憲に同調したがる輩がいることは確かであるけれども、この参院選を野党共闘の一角で戦って、議席を減らしながらも何とか現有24に近い議席を確保しようとしている同党が、選挙後にいきなり丸ごと安倍改憲の旗に駆け寄るということはありえず、せいぜい何人かがこぼれて行くという程度だろう。

仮に自公合計が140、維新が14、国民民主が24として、全部を足せば178になるが、そうはならない。自公維で154なので国民民主から10人こぼれてくれれば164になるということなのだろうが、それでも、安倍首相がどうしても9条に手を着けようとすれば公明28は脱落するからまた計算が合わなくなる(公明は広義での改憲勢力ではあるが、9条改憲勢力ではない)。

従って、この選挙を通じて安倍首相が改憲策動を巡らせる余地はほとんどなくなることになる。

問題は「無党派」ではなく「無関心」

普通であれば、改憲の旗印を半ば失った安倍首相はダッチロール状態で墜落してもおかしくはないが、必ずそうなるとは限らない。むしろ、実質的な敗北にもかかわらず、まだダラダラと政権に居座り続ける可能性のほうが大きい。それを決定づけるのは、野党がどれほど健闘して、自公で過半数を割らせるのは難しくても、それに近いところまで押し込んでいくかどうかによる。

その場合の野党にとっても大きな壁は、「安倍一強を支えているのは実は無関心」であるという恐ろしい意識構造である。五木寛之は、「サンデー毎日」5月26日号の中沢新一との対談で、「なぜ安倍政権がこれほど長続きしているかというと、もう国家に意味がないからです。政権が信用されているのではなく、人々の関心がそこにないということではないか」と述べている。

また高村薫は4月30日付「朝日新聞」で、「大人も子どもも日夜スマホで他者とつながり、休みなく情報を求めて指を動かし続ける。そうして現れては消える世界と戯れている間、私たちはほとんど何も考えていない。スマホは出口が見えない社会でものを考える苦しさを忘れさせる強力な麻酔になっている」と指摘した。

大宅壮一が始まったばかりのテレビ放送について、「紙芝居以下の白痴番組が毎日ずらりと列んでいる。ラジオ、テレビという最も進歩したマスコミ機関によって『一億白痴化運動』が展開されている」と喝破したのは1957年のことで、それは人々が画面から溢れ出てくる映像をひたすら受動的に眺めるばかりで、人間らしい想像力や思考力をどんどん低下させていくという意味だった。それから半世紀以上が過ぎてスマホの時代が来て、もっと狭い画面の中に魂を吸い取られてしまうような若者が増えていく中で、仮想世界と戯れるばかりでほとんど何も考えようとはしないという恐ろしい傾向はさらに深まった。それが実は「安倍一強」を支えているのだとすると、これを打ち破るのは並大抵のことではない。

image by: 自由民主党 - Home | Facebook

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