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何を根拠に。参院選情勢調査で「与党優勢」と媚び売る大マスコミ

公示後初の週末を越え、選挙戦も中盤に差し掛かろうという参院選。情勢調査を行なった報道各社は自民党の優勢を伝えていますが、長く政界を分析し続けてきたジャーナリストの高野孟さんは、今後をどう読むのでしょうか。自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で詳しく分析・考察しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年7月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

まだまだ分からない参院選序盤の情勢──「自公堅調」「立憲健闘」だが大波乱も?

参院選序盤の情勢を分析した7日付の朝日新聞と東京新聞の見出しは全く同じで「自公改選過半数の勢い」である。しかしこの「改選過半数」とはどういう意味があるのかよく分からない言い方で、もちろん今回の改選議席数124に対して自公合わせて63議席を超えれば達成されるのだが、だからどうしたと言うのだろうか。

安倍晋三首相も二階俊博自民党幹事長も「目標は非改選と合わせて自公で過半数」と公言していて、これだと過半数123に対して非改選が自公合わせて70あるので、今回53議席を得さえすれば勝利」と宣言できるという、超過少の自己申告である。その53と比べれば、序盤の形勢が63を越えそうなので「勢い」という見出しになったのだろうが、「改選過半数」のラインを基準に選挙結果を見ようとしている人はいないだろうから、意味をなさない見出しの立て方である。今後の政局模様に影響するであろうラインを挙げると……、

  1. 自公合計52:与党過半数割れで衆参ネジレ(過半数123 -非改選70=53)
  2. 自公合計53:自公非改選と合わせ過半数確保
  3. 自民単独66:自民単独過半数割れでますます公明に頭が上がらなくなる(過半数123-自民非改選56=67/選挙前は過半数121に対し自民は122で単独過半数を辛うじて確保していた)
  4. 自公合計70:自民56+公明14の前回16年並み
  5. 自公合計77:自民66+公明11の前々回13年並み、つまり今回改選数と同じ
  6. 改憲派合計85:自公のほか維新と無所属の改憲派で改憲発議に必要な3分の2以上を確保(3分の2超164-改憲派非改選79=85)。現実には、維新が9議席を得ることを前提にすると、自公合計76を得れば達成される

安倍首相が「憲法改正を争点に」と言っている以上、本当は自民党の目標は6.でなければおかしい。リアリティを以て改憲を訴えるには、維新や無所属まで掻き集めて何とか3分の2に届こうかという現状を何としても維持し、出来ればさらに積み増しすることを目標に掲げなければ辻褄が合わない。マスコミもその矛盾を突いて「過半数しか目標にしない腰抜け野郎が口先だけで改憲を弄ぶのはやめろ」と叱りつけるべきだが、こんな風にまるで与党に勢いがあるかの見出しを立てて媚びている有様である。

結局、野党は1.を目指し、自民党は6.を目指すが、たぶんどちらも努力目標に終わり、その中間のどこかに落ちつくのが今回の参院選である。

共同通信調査では自民65±4

東京新聞が掲げた共同通信の電話世論調査を中心とした予測は次の通り。

   推定獲得議席  改選数   非改選数

 

自民  65 +4-4   66     56
公明  14 +2-3   11     14
与党計 79 +6-7   77     70

 

立憲  20 +4-5    9     15
国民   5 +3-1    8     15
共産   8 +4-3    8      6
維新   9 +2-3    7      6
社民   1 +1-1    1      1
諸派   0 +1     2      0
無所属  2 +2     4      8

 

合計  124       116(欠5) 121

朝日新聞はここまで詳しい数字を出していないが、趨勢判断はほぼ同じ。プラス・マイナスの幅がかなり大きいのは、まだ序盤で半分ほどの人が投票先を決めていないためである。両紙の解説に他の情報も加味して判断すると……、

▼自公が過半数を割る(上述1.)可能性はほとんどない。それどころか、今回改選の自公合わせて77同5.)前後に届く可能性が大きい

▼自公が76、維新が9だとすると合わせてピタリ85で、非改選と合わせて3分の2超となる(同6.)。しかし、この3党のプラス・マイナス幅を見ると、全部が悪い方に傾いた場合は3党合わせて78、全部がプラスになれば96と幅があり、どうなるかまだ分からない。また、仮に3党で85を超えても、公明はこの選挙を通じてますますはっきりと安倍流の9条改憲論から距離を置き始めているので、広い意味での「改憲勢力」には数えられるかもしれないが、「9条改憲勢力には入らない

▼野党では立憲が改選数9の倍以上の20を得る可能性があるのに対して、国民は改選数8を維持できず5程度になりそうで、明暗が分かれる。共産は現状維持。社民は、今回2人を当選させないと非改選1、衆議院2と合わせても5人に達せず、政党要件を失う

注目すべき1人区の行方

こうした大勢の下で、特に注目すべきポイントを挙げておこう。

第1は、何と言っても、32の1人区で野党統一候補がどこまで自民と戦えるかである。周知のように、3年前の前回は自民から見て21勝11敗と野党がまずまずの健闘を見せたが、今回はそこまで届くのかどうか。自民はほとんどの区で前々回に当選した現職が立っているので知名度が高く、実績を誇れるのに対し、野党候補は急遽決まった新人が多く、名前と顔を覚えて貰うのが精一杯。そのため、

▼焦点の東北6県では、前回は秋田のみ自民で他の5県は野党が取ったのに対し、今回は青森と福島で自民が優勢、岩手・宮城・秋田で激戦で、秋田のみ野党がリードという、野党にとってかなり厳しい情勢にある。

▼東北以外で野党が優勢なのは、長野・愛媛・沖縄、激戦となっているのは新潟・滋賀で、残りの21(青森・福島を加えれば23)は自民が強い

▼ただし、鈴木哲夫がサンデー毎日7月14日号で指摘しているように「老後資産2,000万円」問題の影響で1人区に逆風が吹き始め、「断トツで優位だった青森も怪しくなってきた」のをはじめ、東北6県がいずれも接戦もしくは野党が追いつきつつあり、また長野・愛媛・沖縄以外でも新潟・三重・滋賀・大分で野党が競り勝つ可能性が出てきたという。これにより野党は1人区で最小8勝最大13勝ということになろう。

第2に、複数区もなかなかスリリングである。4つの2人区では、自民が先行、2番目の議席を立憲と共産もしくは国民の野党同士で争っている。ただし広島では自民が2人を擁立し2議席独占の可能性がある。

やはり4つある3人区のうち北海道は立憲が強く、自民は2人を擁立したものの高橋はるみ元知事が取りすぎでもう1人の新人が沈み、共産に追い上げられている。千葉でも3つ目の議席を自民の2人目と共産が競い合っている。兵庫は公明の最重点区で維新と激突している。

4つの4人区のうち埼玉では4番目の議席を共産と国民が、神奈川ではやはり4番目を共産と維新現の松沢成文とが争っている。大阪では維新と公明がややリードし、残り2議席を自民現の大田房枝元知事、立憲、維新、共産が争っている。

6人区の東京では、自民=丸川、公明=山口、共産=吉良、立憲=塩村の順で、残り2議席を自民=武見、立憲=山岸、維新、国民などが争う。

その他いくつか

第3に、山本太郎のれいわ新選組がどこまで若い世代の共感を集めるか。山本自身は東京選挙区で立てば当選確実だが、敢えて比例に回って政党要件を満たす得票率2%獲得を目指す。彼の代わりに東京で立つのは、沖縄知事選で玉城デニーを支持して有名になった創価学会員。比例名簿に上がったのも造反派やマイノリティが多く、拉致被害家族会の元副代表でありながら安倍批判の著書を刊行した蓮池透、セブン・イレブンの過酷な店舗支配を告発したオーナー、難病ALS患者、女装の東大教授など多彩である。大化けして既存政党を脅かす存在に躍り出ないとも限らない。

第4に、旧民進が立憲と国民に分裂したことによる労組=連合のいわゆる「組織内候補の変転とそれに絡んだ原発ゼロ政策の行方。旧民主から旧民進に至るまでは、連合内の旧同盟系と旧総評系は同床異夢で選挙を戦ってきたが、国民と立憲が分裂したことで、旧同盟系の電力総連、自動車総連、電機連合、UAゼンセン、JAM=基幹労組は国民から、旧総評系の自治労、日教組、情報労連、JR総連、私鉄総連は立憲からと巧い具合に分かれて選挙に携わることになった。このため、立憲は電力総連や電機連合など連合の主流をなす原発推進労組からの締め付けから相対的に自由になって、参院選公約に「原発再稼働を認めず原発ゼロ基本法案の早期成立を目指す」と堂々と謳えるようになった。それに対して国民は「できるだけ早期に原子力に依存しない原発ゼロ社会を実現する」とは謳っているものの、今回はゴリゴリ原発推進の関西電力労組や東芝労組の出身者を担ぐ。

労組側からすれば国民が及び腰ながらも「原発ゼロ社会」を掲げているのは不快極まりないだろうが、ほかに行き場がないからここで戦うしか仕方がない。それにしても国民の政党支持率は1%で、比例で当選できるのは1人か2人ではないか。仮に電力総連が議席を失うようなことになれば、原子力マフィアには大打撃となる。

第5に、選挙後の政党再編の兆しがどれだけ見えてくるかである。上記の労組の動向が軽視できないのは、旧同盟系が肩入れしても国民が共同通信予測のように5議席程度に留まり、労組の比例候補も1人か2人しか当選しないとなると、それらの大企業労組が国民に見切りをつけて自民党支持」に踏みこんで行く可能性があり、そうなると旧総評系労組は訣別して立憲支持を続けざるを得ないので、連合が形式上はともかく実質的には分裂必至となるからである。その場合、国民の良質部分は立憲に不良部分は自民にそれぞれ流れ込むので、国民は先細りとなるだろう。政党要件が満たせなかった場合の社民は立憲に吸収される。

他方、保守勢力の側では維新が伸び悩み、北海道の鈴木宗男はともかくそれ以外に目立った“全国化”が成功しなかった場合、菅義偉官房長官が密かに仕掛けているように、維新が大阪を中心に自民に合流してしまうという奇策が浮上するかもしれない。菅官房長官の意図は、自公が伸び悩んだ場合に維新を連立に引き込む必要が出て来るが、それには公明が強烈に反発するだろうから、維新を自民の大阪支部に吸収してしまえば自公連立の形式が保てるというにある。

いずれにしても選挙戦はまだ序盤から中盤に差し掛かろうかという段階で、あと2週間のうちにどんな波乱が訪れるのかは予断を許さない。

image by: Twitter(@自民党広報)

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