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元国税が断言。法人税を上げても大企業が日本から去らない理由

先日掲載の「元国税調査官が暴露。『日本の法人税は世界的に高額』という大嘘」で、政府が国内大企業に対して「大優遇」とも言うべき税制を適用していることを白日の下に晒した、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。今回は「法人税の実質アップは大企業の海外流出を呼ぶ」というもっともらしい意見を、自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で完全論破しています。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年7月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

法人税を上げても大企業が海外移転することはない

このメルマガでは、バブル崩壊以降、ずっと大企業や富裕層の税金が減税されてきたことをご紹介してきました。また前号「元国税調査官が暴露。『日本の法人税は世界的に高額』という大嘘」では、日本の大企業の法人税の名目の税率は高いけれども、いろんな抜け穴があるので、実質的な税率は非常に低く先進国ではあり得ないレベルタックスヘイブンとあまり変わらないレベルということもご説明しました。そして、当然のことながら、増税するとすれば消費税ではなく法人税であり、しかも法人税の名目税率をあげなくても、抜け穴を防ぐだけでもかなりの増収が見込めるのです。

が、こうような話をすると、決まってこういう反論をする人がでてくるはずです。

「そんなことをすれば、企業が海外に出て行ってしまう

これを言われれば、ほとんどの人は黙ってしまうようです。しかし、法人税を増税すれば企業が海外に出ていく、というのは、まったく根拠のないデタラメの話です。というのも、これは少しでも会計の知識があれば、誰でもわかる話です。実は法人税(住民税も含む)というのは、企業の支出の中でわずか1%にも満たないのです。

日本の企業全体の会計というのは、次のようになっています。日本企業全体で、年間売上高はだいたい1,500兆円前後です。そして、その90%以上、1,400兆円以上が経費などで支出されています。一方、法人税というのは、年間10数兆円に過ぎません。企業の支出全体から見れば、1%程度なのです。しかも法人税というのは、利益が出ている企業にしかかかりません。つまり、法人税というのは、利益が出ている企業に対して、支出のせいぜい1%を徴収するというものであり、企業経営を圧迫しているようなことはまったくあり得ないのです。もし法人税が今の倍になったとしても、せいぜい支出が1%増えるに過ぎないのです。

その一方で「海外に進出するということ」は、非常に大きなリスクを伴います。新たに莫大な投資をしなければなりませんし、一から人材発掘や教育もしなければなりません。相手国の国情などにも大きな影響を受けます。また相手国と日本との関係が悪くなれば、企業活動自体ができなくなってしまいます。実際に、中国などでは、反日感情が高まったときなどには、多くの日系企業が休業を余儀なくされた時期もあります。1%程度の経費が増えるからといって、そういう危険な海外進出をするようなバカな企業はありません

企業が海外移転する理由は「諸経費の安さ」

今、日本の企業が東南アジアなどに進出しているのは、土地代や材料費(物価)、人件費が安いからです。地代、材料費(物価)、人件費は、企業の経費の中で大きな部分を占めています。税金の何十倍も占めるのです。企業は、そういう地代、材料費、人件費の安さを求めて海外に拠点を移すのです。「税金が安いから東南アジアに工場を移した」などという企業は、聞いたことがないはずです。税負担が高いからといって日本の企業の本社が外国に移ることはまずないのです。

ヘッジファンドなど世界のどこにいてもやっていけるような企業体は、税金の安いタックスヘイブンに移転するというようなこともあります。また日本の大手企業グループが持ち株会社を、オランダなどの準タックスヘイブンに移すことは時々あります。が、持ち株会社を外国に移しても、企業活動の主体は日本にあるわけで日本の法人税はしっかり課せられています

日本の企業のほとんどは日本に基盤があり、日本の文化を持っています。日本の企業文化というのは独特のものがあり、外国に出て行ってそうそうやれるものではありません。また日本の企業のほとんどは、企業の中枢部分の技術やノウハウなどは、日本人スタッフによるものです。日本人がいないと成り立たない企業がほとんどなのです。

今の日本の大企業たちも、海外に移せる部分はすでに移しています。それほど精密でない製品の工場などは、とっくに海外に移転しているのです。しかし、日本経済の中枢を担っている大手企業が、税金が安いという程度の理由で企業活動の主要部分を海外に移転することなどは現実的に出来ないのです。

実際に、今よりはるかに法人税が高かったバブル以前は今よりもはるかに企業の海外進出は少なかったのです。当時は、まだ東南アジアなどが開発されておらず、企業が海外に出ていく環境が整っていなかったからです。

財界人たちは自分たちの利益しか考えていない

だから、昨今、財界人たちが「法人税を上げると海外に出ていくぞ」などと言うのは、単なる脅しに過ぎません。財界人たちが、なぜ執拗に法人税の引き下げを要求するのかというと、それは株主の利益になるからです。

法人税というのは、企業の利益に課されます。企業の利益というのは、株主の物ですから、法人税が減らされれば、それだけ株主の持ち分が増えるということです。そして、財界人のほとんどは自社の大株主でもありますので、法人税を下げれば、自分自身の実入りが増えるわけです。

つまりは、財界人たちは日本経済のために法人税を下げろと言っているわけではなく、自分たちの実入りを増やすために言っているのです。(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年7月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

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