日韓関係は米国への仲裁依頼が現実味を帯びるほど悪化し、米中覇権戦争の足をひっぱりかねない事態にまで発展しています。これを受け、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、今後日本が世界に向け何を主張してゆくべきか、そしてどのように近隣各国との関係を築いてゆくべきかを記しています。
対韓国、戦術的問題、大戦略的問題
「韓国への報復についてどう思いますか?」と聞かれます。そのことを書く前に、以下のことを確認しておきたいと思います。
私の願いは、日本が自立国家になることです。私の願いは、米中覇権戦争で、日本が「戦勝国」になることです。この願いを達成するためには、日本でスタンダードになっている【善悪論】だけでは足りません。【勝敗論】の視点から見ることが不可欠です。この基本を確認したうえで、韓国について考えてみましょう。
皆さん日本政府が「何をしたか」はご存知ですね。しかし、一応。
対韓輸出規制の強化措置、4日に発動 半導体材料3品目
産経新聞 7/3(水)20:34配信
政府は4日、韓国に対する半導体材料の輸出規制の強化措置を発動し、3品目の輸出に際し個別に審査をしていく。
「3品目」とは?
3品目は、テレビやスマートフォンの有機ELディスプレーに使われるフッ化ポリイミド、半導体の基板に塗る感光剤のレジスト、半導体の洗浄に使うエッチングガス(高純度フッ化水素)。
(同上)
韓国側にはどんな影響がでるのでしょうか?
企業ごとに一定期間を定めて包括的に許可を与えてきたが、今後は、出荷ごとに政府への申請が必要になる。審査に90日程度かかるため、在庫が1カ月分程度しかないとされる韓国半導体メーカーの生産が滞る可能性がある。
(同上)
半導体シェアの世界ランキング(2018年)を見ると、1位は韓国サムスンで、シェアは15.9%になっています。2位はインテル。3位は、これも韓国SKハイニックス。
サムスンは、フォーチュンの世界企業番付2018年版で12位。韓国一の企業です。そして、サムスンに勝っている日本企業はトヨタ(6位)だけ。韓国がパニック状態になるのもわかりますね。
ところで、なぜ日本は韓国に報復したのでしょうか?
外国為替および外国貿易法(外為法)に基づく規制の強化で、いわゆる徴用工問題で日本の再三の要請に対し韓国が誠意ある対応を示さないことへの事実上の対抗措置となる。
(同上)
「徴用工問題で誠意ある対応を示さないことへの対抗措置」だそうです。これ、全日本国民が知ってます。そして、全韓国民も知っていることでしょう。しかし、世界的に見ると、「徴用工問題で、韓国の司法は、変な判決を出している。韓国政府は、1965年の日韓基本条約を破っている。【だから】3品目の輸出ルールを厳格化する!」というのは、メチャクチャNGであること、ご理解いただけるでしょうか?
韓国が自由貿易に反したことをやっている。だから、日本は輸出規制する。これは、因果関係がつながっているのでOKです。しかし、「徴用工問題で韓国が誠意ある対応をしないので、輸出ルールを厳格化する」というのは、もちろんNGです。この二つは、【全然関係ない話】ですから。ここで、事情をよく知っている人から突っ込みが入るでしょう。
「そうじゃないんです。韓国は、日本から輸入した商品を、北朝鮮に密輸している。だから、輸出を厳格化するのです」
そういう疑いがあるのですね。ディーリー新潮7月9日で、鈴置高史先生がこんな話をしておられます。
鈴置: 同じ7月5日の夜、BSフジLIVE・プライムニュースで、小野寺五典・前防衛相がさらに踏み込みました。行方不明となったウラン濃縮に使える物質に関し、韓国政府に問い合わせたが返事がない、と明かしたのです。以下です。
例えば、日本は今までウラン濃縮にも使える素材について、韓国企業から「100欲しい」と言われたら100渡していた。ところがよく見てみると、実際に工業製品に使うのは70ぐらいのはず。残り30はどうなのだろう。「全部ちゃんと使っていますよね」と韓国政府に確認しても最近は報告が来ない。信頼して出してきたのだが、協議に応じてくれない。
だから、半導体の製造に使うけれど、ウラン濃縮にも使ううえ、VXガスやサリンなどの毒ガスの原料となるエッチングガス(フッ化水素)の対韓輸出の管理を強化したのであり、これは報復ではなく国際的な義務なのだ、と小野寺・前防衛相は強調しました。
──「横流し」との主張に対し、韓国政府はどう反応しましたか。
鈴置: 当初は「WTO(世界貿易機関)違反だ」と非難していました。しかし、こうした日本政府の指摘が始まるにつれ、困惑の色が広がっています。下手に騒げば、「韓国は北朝鮮の核武装を幇助した」という明白な証拠を日本から突きつけられてしまうからです。
(同上)
日本政府は、韓国に輸出した製品が北朝鮮に流れているという。「徴用工問題の報復で輸出規制」というのは、名目上よくない。では、「韓国に輸出したものが北に流れている。だから輸出を厳格化するのだ」これはどうでしょうか?
これなら ◎ ◎ ◎ ですね。これなら、国際社会もWTOも大納得です。ちなみに韓国、北朝鮮に流した件は認めていませんが、「他の国々に流れた事実」は認めています。
韓国、戦略物資の違法輸出156件「北に流出の証拠なし」
読売新聞オンライン 7/11(木)11:40配信
【ソウル=岡部雄二郎】韓国の産業通商資源省は10日、軍事転用が可能な戦略物資を違法に国外輸出したとして摘発された業者の事例が、2015年~19年3月に計156件に上ったと発表した。産業通商資源省が韓国の野党議員に開示した資料によると、この中には、イランやシリアなど、北朝鮮と関係の深い国に輸出されたケースも含まれていた。資料によると、イランには2017年12月と19年1月、サリンの原料にもなるフッ化ナトリウムなどが輸出された。シリアには18年3月、生物・化学兵器の実験などの際に外部の汚染を防ぐための設備「生物安全キャビネット」が輸出されていた。
輸出規制の口実としては、これで十分ですね。だから日本は、WTOでは、「日本が輸出した戦略物資が、韓国からイラン、シリアに流れている。だから輸出制限するのだ!!!このことは、韓国自身も認めている!」と大声で、堂々というべきなのです。特に「韓国自身も認めている」という部分。資料もきっちり英訳して配布しないとダメでしょう。
で、日本政府は、これやってるの?ということなのです。こちらをごらんください。
日本の経済産業省関係者は12日、東京都千代田区の経済産業省別館で開かれた韓日課長級会議の後、日本がこの間輸出規制の理由として挙げてきた「不適切な事例発生」について「第3国への搬出ではないと(韓国側に)伝えた」と話した。この関係者は「一部(日本のマスコミ)で第3国搬出などが報道されたが、あくまで日韓貿易と関連した不適切な事案だと伝えた」とも話した。
(the hankyoreh 7月15日)
おい!なんじゃこりゃ!ですね。輸出規制の理由は、「第3国への搬出ではない」と日本側がいっている。で、「日韓貿易に関連した不適切な事案」が原因だと。しかし、「日韓貿易に関連した不適切な事案」が「何か?」は、よくわかんないんですね。
皆さん、「日本は韓国に圧勝だぜ!」と思っていませんか?普通に考えればそうでしょう。しかし、日本政府の稚拙な説明のせいで、また国際的に日本が【巨悪】になる可能性がある。日本は、WTOで、「なぜ輸出規制をしたのか?」説得力のある説明をできない状態なのです。これが、【 戦術的問題 】です。
どうすればいいのでしょうか?簡単なことで、韓国政府が出したリストをWTOで提示して、「戦略物資が、韓国を経由してイラン、シリアに流れている!だから輸出規制は正当だ!」と大声で主張する。政治家の読者さんがいたら、必ず首相にお伝えください。とても大切なことです。
これ、トランプさんは、イランと対決しているので、全面的に支持してくれるでしょう。日本はひょっとしたら、友好国イランに忖度しているのかもしれません。そういうことは、「戦いをはじめる前」に考えるべきでしょう。今は、イランとの仲が悪化しても、WTOで、全世界が納得する説明をすることがもっとも大事です。でないと、WTOで負けますよ。負けて、日本国民は激怒。「そんなWTOなんていらない。脱退してやる!」となれば?「満州国問題」で激怒して、国際連盟を脱退した時代に逆戻り。また「敗戦道」一直線ですね。
この問題については、『日本よ、情報戦はこう戦え!』の著者・山岡鉄秀先生に相談するべきです。相談するだけでなく、今回の情報戦を率いてもらうべきでしょう。
日本は、とにかく情報戦に弱いのです。日本国民は、今回の措置をおおいに歓迎してお祭り騒ぎですが、「負ける可能性もある」ことも考えながら戦わないといけないです。
大戦略的問題
「戦術的問題」について触れました。ここからは「大戦略的問題」です。
戦略とは「戦争に勝つ方法」のことです。日本は、どこかの国と戦争しているのでしょうか?しています。2012年11月に、「日中戦争」がはじまっています。どういう経緯か、皆さん覚えておられますね。
- 2012年11月、中国は、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線戦略」を提案した
- 「反日統一共同戦線」の目的は、「日本の領土要求を断念させること」である
- 日本に断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、尖閣、【沖縄】である
- 日本には、尖閣だけなく、【沖縄】の領有権もない!
- 「反日統一共同戦線」には、【アメリカ】も引き入れなければならない
ここまで、新しい読者さんは、「トンデモだ!」「陰謀論者め!」と思っていることでしょう。ですから、必ずこの絶対証拠を熟読してください。
中国の対日戦略、もっと簡単に書くとどうなるのでしょうか??
- 日米関係を破壊する
- 日ロ関係を破壊する
- 日韓関係を破壊する
- 日本を孤立させ、尖閣、沖縄を奪う
です。対する日本の戦略は、
- 日米関係をますます強固にする
- 日ロ関係を改善させる
- 日韓関係を最悪にしない
- これで中国の反日統一共同戦線戦略を無力化する
となります。で、安倍総理は、ずっとこの戦略に沿ってやってきたのです。
- 日米関係を強固にした(民主党時代は、最悪だった)
- 日ロ関係を劇的に改善させた(民主党時代は、最悪だった)
- 日韓関係を好転させた(いわゆる慰安婦合意)
- それで、中国は、味方がいなくなって、日本にすり寄ってきた
ところが今、日米関係は、ギクシャクしています。日ロ関係は、領土問題が進展しないので、冷えてきています。日韓関係は最悪です。総理が戦略を忘れると、すぐこうなります。
日韓関係の話をしています。日韓関係がこうなっていることを一番喜んでいるのは、いうまでもなく、【 習近平 】です。日本政府が韓国に報復したことで、日本全体がうかれています。でも、日本国民以上に喜んでいるのが習近平と中国なのです。なんといっても、日本は「習近平の望みどおり」動いてくれたのですから。
ではどうすれば?
とはいえ、日本政府は、もうはじめてしまいました。今後どうすればいいのか、具体的に書いておきましょう。
一つ目は、WTOでの戦いに必ず勝利すること。そのためには、「戦略物資が韓国からシリア、イランにながれている!」ことを、韓国政府の発表を証拠として大声で主張する。このリストをベースに、アメリカに協力を求めるべきです。
二つ目、国際社会で訴えるときは、「徴用工」の話はしてはいけません。「徴用工問題で異常な判決がでた。だから輸出規制をする!」というのは、国際社会で絶対理解されないロジックです。
三つ目、山岡鉄秀先生に情報戦を率いていただきましょう。
四つ目、文政権の後に、「親日政権」を樹立することを目指しましょう。繰り返しますが、日韓関係の悪化は、中国を喜ばせるだけです。
五番目、大戦略を忘れないでおきましょう。日本の大戦略は、日米関係、日ロ関係、日韓関係を良好に保つことで、中国の反日統一共同戦線戦略を無力化することです。この基本は、米中覇権戦争が終わるまで不変です。これ、特に「韓国との関係を良好に保つ」点、「絶対無理!」と考える人が大半でしょう。私だって、こんなことは書きたくありません。しかし、「また敗戦」になりたくなければ、そうしなけれなりません。どんなにムカついても、習近平の手のひらの上で踊ったらダメなのです。
image by: 문재인 - Home | Facebook