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映画より進化の速いスマホに比べ、人型ロボットが進化しない理由

少し古いSFにおいては、21世紀も20年も経つ頃には人間と変わらない二足歩行ロボットが登場し、友だちのように暮らすという設定のものが数多く見られました。しかし現実は…。一方、それらの作品で描かれている以上に進化を遂げているのが、スマホを始めとする情報通信端末だと、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは指摘します。この違いは何が原因で起こったことなのでしょうか?山崎さんの考察は、今回も意外な結論にたどり着きます。

スマホとロボットのこと

一昔前のSF映画を観ていると気付くことがある。それは今現在、我々が使用している情報通信端末(例えば、スマホやタブレット)の方がその映画の設定年代である近未来よりも進んでいるということである。これは当時のクリエイターの想像よりも遙かに速いスピードでその分野における技術開発が突出して進んだということを物語っている。

一方で明らかに遅れているのがロボットである。スマホが「一体何に使うんだ」といった子供から、これも「一体何に使うんだ」といった爺さん婆さんにまで行き渡っているのに対し、ロボットは床を這いずり回ってはコードに絡め捕られて往生するお掃除ロボットをたまに見かける程度である。

この差を生んだ大きな要因の一つは金である。資本主義と言い換えてもいい。儲かると分かれば当然そこには、優秀な人材、様々な物資、そして豊富な資金が集まる。今や世界的大企業と言えばフォードやゼネラルモーターズではなく、真っ先にアップルやマイクロソフト、グーグルの名が挙がるのではないだろうか。

そしてこれらの大企業のほとんどがガレージ同前の粗末な場所から始まり、短期間のうちに急成長を遂げることができたのは、その産業の性質にも因るところがある。情報通信産業は物理的な制約をほとんど受けない、アイデア本位の業種であるからだ。勿論、端末を作るにはそれなりに高度な技術や特殊な素材が必要であるということは疑いようもないが、他の機械、例えば車などと比べると遙かに単純で簡単である。スマホもタブレットも要は平べったい直方体である。こんなものに嬉々として十万円以上も出す現代人は一昔前の人から見れば物好き以外の何者でもないだろう。

これと真反対なのがロボットである。とにかく重力を始めとする、人間が受けているあらゆる物理的制約を同様に受け、そしてそれに逆らいつつ如何にバランスを取るかが第一の機能となる。考えれば二足歩行をさせるだけでもどれだけの時間がかかったことか。

そもそも何故人間の機能を機械に持たせる必要があるのか、言い換えれば何故人間に似せる必要があるのかというと、人間を取り巻くありとあらゆる物が人間に合わせてデザインされているからである。そして、その中でロボットが何らかの役に立つとするなら当然人間に似ていなければ不都合が生じるという訳である。考えてみれば、ドアノブを適切に扱えなければ部屋から出ることもできない。扉の前でウンウン唸って立ち往生しているロボットなどあまりに滑稽で見るに堪えない。

ここで皮肉な発想の転換が起こる。ロボットに物理的にドアを開けさせるよりは、ドアの開閉自体を電子的に制御した方が遙かに合理的であり利便性も高いということに気付くのである。この時点でロボットからドアを開けるための手が消える。これが人型ロボットがなかなか生まれて来ない理由である。

ロボットに物理的に人間の代わりの動作をさせるよりも道具などの対象物自体に自動制御機能を持たせる方が遙かに簡単ということである。分かり易い例を挙げると自動車がそうである。わざわざ人型ロボットを作ってハンドルやアクセルを操作させるくらいなら自動車自体に自動運転機能を付けた方が遙かに合理的であるから実際そうなっている訳である。

ロボットが人型に結実しないのは、この式で手が要らなくなり、足が要らなくなりするからである。逆に言えば、ロボットはその機能を分散して、そこら中に存在しているということになる。そう考えると、我々を取り巻く全ての物にロボットの機能が備わり、ロボットそのものはロボットとしての実体を持たない、というのが究極のロボット社会なのかもしれない。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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