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売れるカフェに外椅子がある訳。ビジネスに効く「テツガク」のススメ

GAFAの台頭に代表されるように、AirbnbUberSpotifyなど従来のビジネスモデルを覆すサービスが次々と生まれてきている昨今、従来の価値基準では理解しきれない事象が少なくありません。同時に正解のない問題も増え、私たちは常に苦渋の選択を迫られるケースが増えてきました。そんな現代で「思考」の座標軸となりうるのが、「哲学」です。『超図解「21世紀の哲学」がわかる本』の著者にして、8月から有料メルマガ『中野明のストリートで哲学を語ってみた』を創刊した作家・中野明氏に哲学を学ぶ意味と活かし方をうかがってきました。

レストランの店頭に置かれた椅子の2つの意味

――まずは今回、哲学、とりわけカタカナでの「テツガク」をテーマに選んだ理由を教えてください。

中野:レストランやカフェなど、店頭に椅子を並べているお店ってありますよね。実はあれ、哲学的な見方をすると、2つの意味があるんです。1つは行列ができたときに座って待てるという機能的な意味。そしてもう1つが、椅子があることでお客さんに対して「混雑時は中に座れないほど賑わうお店」だというシグナリングとしての意味です。詳しくは創刊号に書いていますが、世の中には、そういうことが実は溢れています。でもその多くは、素通りして、「これって当たり前だよね」と思考停止していることは意外と多いと思いませんか?それを立ち止まって、じっくり凝視していくと、その背景にいろんな「考え方」があるんです。時には「へぇ~そうなんや~」と意外な考え方だったりもします。まさにレストランの店頭の椅子の話もそうです。

――「常識を疑え」的な見方ですね。

中野:はい。そういう視点で、ものごとをいろいろ観察してみたら面白いんではないか?そういう思いもあって、今回の『中野明のストリートで哲学を語ってみた』というタイトルを付けました。“ストリート”という言葉を入れたのも、「哲学」という言葉でイメージされる“堅い”感じにもしたくなかったので、身近でカジュアルな場所で語っていくよという思いも込めています。そしてこのメルマガで語る「哲学」は、カタカナの「テツガク」。漢字の「哲学」より、もっとライトな“ものごとの背景にある考え方=テツガク”というイメージです。フッサールとかヘーゲルとか、そういう難しそうな思想だけが哲学ではなくて、町に何気なく存在するものにも「テツガク」があり、それもまた「哲学」であるという立ち位置でお伝えできればと思っています。

――なるほど。ここで中野さんの経歴について伺いたいのですが、社会人生活のスタート時は何をされていたんですか?

中野:大学を卒業して最初に入ったのはイベント会社でした。元々は漫画家になりたかったんですよ。子どもの頃ですけどね。しかし夢破れて。それで、自分で考えたものを形にしたいというのがあって、テレビ局とか、広告会社を受けたんですけど、全部落ちて、小さなイベント会社に入ったんです。そこでイベントの企画をして、その後、企画書を書くことが専門になっていきました。

――意外な経歴ですね。100冊以上のご著書を出されていると、最初から執筆業一筋の方かと思っていました。

中野:そう見えますか?(笑)。そこからちょっと会社を変わったりしていくうちに、コンピューターで企画書を書くようになったんです。それで使い始めたのがマック(Macintosh/アップル)でした。そこでハマったんです。使いやすいし、思ったことができるし。それでマックを使って企画書を書きまくっていくと、どんどんノウハウが貯まっていくじゃないですか。それを本にしようと思ったのが、今の仕事の始まりです。その結果、1996年1月に『マック企画大全』が出版されました。それを出したのが日経BPだったんですけど、当時、『日経MAC』という雑誌があって、そこに本の企画を持ちこんだら、当時の林伸夫編集長という方の目に止まって、短期連載をして、それから本を出そうとなりました。自分でも意外な展開でした。元々何かツテがあったワケでもないですし。

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――最初の書籍を出版され、しばらくはIT関連の書籍を中心に執筆されていきますが、ある時期からビジネスや思想、哲学といったテーマを扱い始めますよね。何かきっかけがあったんでしょうか?

中野:実は元々が文系の人間なんです。それがたまたまパソコンにハマったというだけなので、本来の形に戻ったというのが正直なところです。大学時代は哲学科で学んでいました。落ちこぼれの学生でしたが…。

――なぜ「哲学」を学ぼうと思ったんですか?

中野:「人生ってなんやろ」「人間ってなんやろ」そんなことを思う時ってあるじゃないですか。そういう答えを見つけたいなって哲学科に入りました。でも答えはぜんぜん見つからんかった(笑)。

インターネットの原点は18世紀に登場していた

――でも「テツガク」的な視点は持ち続けてきたということですね。

中野:そういう風に考えることが好きなんだと思います。例えば私の著書に『IT全史──情報技術の250年を読む』(祥伝社)という本があるんですが、そこで1794年にフランスで始まった腕木通信というものを紹介しています。これは電気を全く使わない通信手法で、3本の腕木の形状を変化させて、それぞれに意味づけして、情報のやり取りをします。実際には、腕木を設置する基地を10km間隔に置き、腕木の形状を監視する通信手がいて、常に隣の基地の腕木の形状を望遠鏡でチェックするんです。そして隣の基地に変化があれば自分のところの腕木の形状を変え、それをバケツリレー方式で、信号として送っていくんです。私はこれを近代的な通信手法のはじまりだと考えているわけです。

何でかといえば、従来の手紙や本のように手に持てるメディアに直接情報を書き込んで、それを郵送することで通信するという手法をとっていない。腕木通信は、手に持てないメディアに情報を載せて送っている訳です。その後に登場した電信の場合も、電気に情報を載せているので手に持てない。さらに無線電信、電話、ラジオ、テレビ、インターネットに至るまで、手に持てないメディアを介して情報が遠くまで早く伝達されている分けです。と、考えると今のインターネットの原点といえるのが腕木通信だと私は思うわけです。

――なるほど確かにそうですね。

中野:ちなみに腕木通信よりも以前にも手に持てないメディアを使った伝達手段に「のろし」がありましたが、これは歴史こそギリシア時代にまでさかのぼるものの、まったく発達しなかった。一方で、腕木通信は、語彙が8,000くらいあり、さらに通信スピードも、ごっつ早い。例えば、パリ~ブレスト間は551kmで、これは新幹線の新大阪~東京間に相当しますが、1つの信号を送るのに8分程度。秒速に直すと約1,200m/秒です。ちなみに今、こうして私たちがしている声によるコミュニケーションの伝達速度は、秒速330m。いかに腕木通信が早いかが分かると思います。このまま通信の話をして行くのもアリなんですけど、「テツガク」的な視点の話に戻りましょう(笑)。

――とても面白い話でしたが、そうしてください(笑)。

中野:19世紀の通信手法が腕木通信と電信だったことを考えた場合、これはデジタルな通信手法なんです。情報を腕木の形状や符号に変換して送っているでしょ。じゃあ20世紀はどうかというと、電話やラジオ、テレビなど音声や映像を波形(電波)に載せて送っていたので、アナログの時代だったと言えます。じゃあ21世紀はどうかというと、インターネットに代表されるようにデジタル通信の時代になってきている。実は、通信技術というのは、100年周期くらいで「デジタル」「アナログ」「デジタル」といった形で入れ替わってきているということが、「テツガク」的な視点で見ると分かってきます。

――「アナログ」全盛の時代に生まれ育っていると「デジタル=新しい」「アナログ=古い」と考えがちですが、中野さんの定義からすると適切ではないですね…。

中野:そうなんです。「デジタル」という概念はもっと前からあったわけで、「デジタル=新しい」で考えを止めていたら、気付けなかったことですよね。これが「テツガク」的な思考の醍醐味だといえるかと思います。また、SNSを「テツガク」的に考えると、別の位置付けができます。

SNSは「シナジー」を食い物にしたビジネスモデル!?

――詳しく教えてください。

中野:今、ビジネスの世界では「シナジー」って言葉をよく聞くと思います。今風の解釈なら「相乗効果」的な意味で使われていると思いますが、元々はちょっと別の意味で使われていたんです。ルース・ベネディクトって人類学者がいまして、『菊と刀』という日本文化についてまとめた有名な本を書いた著者ですね。その人が言い出した話なんですけど、彼女はフィールドワークでインディアンの部族を調べていたんです。とても心を開いてくれて優しい部族もいれば、閉鎖的で冷たい部族もある。この違いはどこから来るんだろう?と考えて出した結論が「シナジー」の程度が高いか、低いかによって、心を開く部族と開かない部族が出てくるんだと結論付けたんです。じゃあ「シナジー」とは何かといえば、“自分の利己的な行為が相手のためになる、自分の利他的な行為が自分のためになる”、そういう仕組みを「シナジー」だと彼女は言ったんです。

――利己的の振る舞いでも他者のためになり、利他的な振る舞いでも自分のためになるのが本来の意味での「シナジー」だと。

中野:身近な例えに言い直せば、息子の喜ぶ顔が見たいから仕事帰りにイチゴを買っていこう、そしてイチゴを買っていけば息子が結果として喜ぶ。息子が喜ぶ顔を見たら今度は自分がうれしくなる。この仕組みこそが「シナジー」なワケです。なので、「シナジー」が高い部族というのは、人のために何かをすることで、自分に何かが返ってくるので、とっても優しくなる。逆に「シナジー」が低い部族では、人のために何かをしても自分にプラスがないので、自分だけで利益を総取りしようとするので、冷たくなるわけです。

――それがSNSとどう繋がってくるのでしょうか?

中野:実は、SNSというのは、「シナジー」の仕組みを提供しているんです。どういうことかというと、私はInstagramをしていますが、写真をアップする目的が「いいね」を押してもらうというものであれば、それは利己的な行為。ただ、人から「いいね」を押してもらおうと思ったら、「きれいな写真」「カッコいい写真」をアップする必要が出てくるわけです。実際にいい写真なら、「いいね」を押されて、利己的な行動であっても、他人を喜ばせて、結果的に自分もうれしくなる。先ほど説明した「シナジー」の仕組みができ上がっているわけです。それゆえに“SNSは、「シナジー」の仕組みを提供している場所”と私は考えるわけです。ただ、「テツガク」的に見ていくと、「シナジー」の仕組みを提供して、誰が一番儲けているのか、利益を独り占めしているかといえば、それはSNSのプラットフォーマーだったりもします。プラットフォーマーのビジネスモデルとしては、全然シナジーじゃないということに気付くわけです。「ああ、シナジーを食い物にしているなぁ」と。

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――「テツガク」的な視点は、いろいろな情報があふれる現代社会だからこそ必要かもしれませんね。では、今回創刊された『中野明のストリートで哲学を語ってみた』は、どんな方に読んでもらいたいですか?

中野:最近は、本を読まない方が増えているので、そうした方々に読んでほしいですね。本を読まなくなったといっても、今の時代、皆さん、活字を読む量はすごく多いと思うのでメルマガを通じてそういう方々に届けばいいなぁと思っています。

僕の使命は「あっ!そうなんや」と感じてもらうこと

――実際に『中野明のストリートで哲学を語ってみた』を読んだらどんなことが起きるでしょうか?

中野:「あっ!そうなんや」と思ってもらえるようなちょっとした新しい発見を提供できるような話を書いていきたいと思います。これまで出版してきた本もすべてそういうスタンスで書いていますし、自分の物書きとしての使命は何かといえば、読者の方々に「あっ!そうなんや」と感じてもらうことなのかなと思っています。

――ある意味でものの見方を教えてくれるメルマガでもありますね。

中野:おっしゃる通りですね。SNSで可視化される人々の考え方というのが意外と偏りがちなのかを感じることが最近では多くなってきています。トランプ政権が最たるところですね。しかし、世の中にはもっと多様な見方があって、それを知ることで「ものごと」のとらえ方、解釈の仕方も変わってくるんだよということを伝えていきたいとも思います。

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――ちなみに創刊号を拝見すると幾つかのコーナーがありますが、そのコーナーに込めた思いを教えてください。

中野:主要なコンテンツは、今のところ3つですね。『哲ガクル・カフェ』はメインテーマであるものごとの背景にある考え方を掘り下げたコラム、『ボキャブラリー増強剤』がメインコラムに関連したキーワードを掘り下げたコラム、『テツガク人の書棚』は、メインコラムの関連した書籍を紹介するコーナーです。あとは『書斎の音楽』というオマケ的なコンテンツも作りました。私が執筆中に聞いている音楽について語るコーナーですね。

――エピソード、キーワード、書籍とそれぞれの切り口で毎週読めるのは、楽しみでもあり、学びが多くなりそうですね。オマケ的とおしゃっている『書斎の音楽』も100冊以上の著作を出してきた中野さんが、執筆中にどんな音楽を聞いているのかはなかなか興味深いところです。作業がはかどりそうな音楽に出会えそう。

中野:私は昔から音楽が好きだったんですが、レコードから入り、カセットテープでのエアチェック、CD、ダウンロード、サブスクリプションと音楽業界も大きく変わりました。昔は物理的に所有ができるものだったのが、ダウンロードになり、所有はできるけど物理的ではなくなり、今はサブスクリプションで共有・シェアする形に変わってきました。最近ではアーティスト自体がレーベルを持って、自分自身で世界に配信しているケースも増えました。その辺もテツガク的な思考ができそうな部分ですね。

――最後に読者の方々にメッセージをお願いします。

中野:『中野明のストリートで哲学を語ってみた』は、ものの見方を練習できる場にもなっていくかと思います。質問や感想なども随時お待ちしています。

――「テツガク」的なモノの見方というのは、価値観が多様化するこれからの時代を活きる子どもたちを育てるお父さん、お母さんにも役立ちそうな気がします。本日は、お忙しい中、お時間ありがとうございました。

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中野明(なかの・あきら)
ノンフィクション作家。同志社大学非常勤講師。立命館大学文学部哲学科卒。経済経営・情報技術・歴史民族・日本美術の分野で執筆する。主な著作に『流出した日本美術の至宝』(筑摩選書)、『IT全史』(祥伝社)、『超図解「21世紀の哲学」がわかる本』(学研プラス)、『世界漫遊家が歩いた明治ニッポン』『裸はいつから恥ずかしくなったか』(以上、筑摩文庫)、『物語 財閥の歴史』『幻の五大美術館と明治の実業家たち』『東京大学第二工学部』(以上、祥伝社新書)など100冊以上。また、翻訳本が中国、台湾、韓国、ベトナムで出版されておりその数は30点を超える。

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当メルマガのテーマは「哲学」です。しかし、小難しい話をしようとしているのではありません。「ゴルフの哲学」とか「私の人生哲学」とかと言うように、「哲学」とは「モノゴトの背景にある考え方」のことです。そして、私たちの身の回りにあるモノゴトには、普段あまり深く考えることのない意外な哲学が隠されているものです。それらにスポットを当てるのがこのメルマガのテーマです。私と一緒に軽い気分で哲ガクって、世界に対する知見を広げませんか。

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