W杯カタール大会解説での年下の選手に対する「さん付け」が話題となっている本田圭佑氏。その姿勢は、すべての日本人が学ぶべきものであるようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、年齢差のある人や部下などを「さん」付けでリスペクトする重要性を解説。さらに本田氏も理解していると思われる、「日本語の危機」について考察しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年11月29日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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本田圭佑氏のサッカー解説と日本語の問題
W杯カタール大会が始まりました。日本A代表の1次リーグでの戦いは、全く予想外の展開となっています。ドイツ戦の勝利は、森保監督の起用が全て当たったように見えましたが、コスタリカ戦では非常に重苦しい試合となり、ワンチャンスで相手に決められてしまいました。
このコスタリカ戦ですが、要因としては主審の問題が大きいように見えました。この試合で笛を吹いていたのはマイケル・オリバー主審で、イングランドのプレミアのジャッジですが、ドイツ戦のバートル主審(エクアドル)がユルユルだったのと比較すると、かなり厳しい感じでイエローも両チーム合計で6枚出していました。
日本代表の攻撃が今ひとつ固かったのは、コスタリカの守備を評価する声がある一方で、特に前半でオリバー主審を警戒したことが影響したように見えました。仮にそうであれば、スペイン戦へ向けて応援する側も気持ちを切り替えて臨みたいところです。
ところで、今回大会で解説者として本格デビューしたのが、本田圭佑氏ですが、年下の現役選手に対して敬称の「さん」をつけて呼んでいる姿勢が話題になっています。
私は、アメリカですのでFOXのアメリカ向け中継しか見ていないのですが、日本での中継では本田氏は、ずっと年下の主力選手を、さん付けで呼んでいるそうです。
「堂安さん」「鎌田さん」「三笘さん」
という具合です。一方で、ともにA代表で戦ったなど、個人的な関係のある主力選手、具体的には吉田麻也選手、長友佑都選手、酒井宏樹選手などは
「マヤ」「ユウト」「ヒロキ」
というようにニックネームで呼んでいます。つまり、よく知っていて個人的な交流のある選手は、個人的関係の延長でニックネームが自然。一方で、面識の薄い若手は「さん」付けということです。
このように、年齢差のある人を、または組織の上での部下などを「さん」付けでリスペクトするというのは、非常に重要なことです。現在、ビジネスの世界では、まともな会社では長年の努力を続けた結果、定着しつつあると思います。
ですが、いわゆる「体育会系」の組織では、例えば大学や高校などの部活、体育会では「先輩は後輩を呼び捨て」という習慣が続いています。こうした昭和の遺風というのは、百害あって一利なしなのですから、とにかく改善が必要です。
もっと言えば、「さん」で呼ぶこと、そして上位のポジションになる「管理職や経営者の階層名」について、例えば「社長、部長、監督」といった名称は「機能であって敬称ではない」というカルチャーも定着させていかねばなりません。オール「さん付け」という文化を進めて、若い世代、あるいは管理者から見た現場をリスペクトすることで、メンタル面の負荷を減らし、ネガティブ情報を自然に上に上げられるようにする、これは停滞した日本経済を「まとも」にするためには必要なことです。
そのためにも、苦闘しているビジネスの現場だけでなく、スポーツや教育の現場でも「対等性」と「相互リスペクト」というのを、コミュニケーションのデフォルトにして行く改革が必要だと思います。
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