本田圭佑のW杯解説「年下選手に“さん”付け」が日本語を救う理由

 

その意味では、敬語の改善も大きな課題だと思います。相手をリスペクトする丁寧語、つまり「ですます」調はむしろ必要であり、これこそが標準の日本語であるべきです。

また、述語などの尊敬表現「いらっしゃる」「おっしゃる」などは、その延長として、日本語の品格を保つためにも残すべき局面はありそうです。ですが、問題は「公的空間における常体=だ、である調」であり、これが「上から下に」という方向性では許されている、これは問題です。

なぜかと言うと「だ、である」という日本語の常体は、「ね」「よ」などの助詞と容易に組み合わせることで、また短く鋭い語気を乗せることで、反論を許さない暴力的な表現に化けてしまうからです。

プライベートな空間では許されても、公的空間ではこれは許されないわけです。確かに現状では、だ、であるという常体を使っても、品格と公平性を保つ内容であれば、それはそれで許されるということになる場合もあります。

ですが、だ、であるに助詞が絡まって「だよね」「だぜ」「なのよ(女性形)」「でしょ」など、「投げ捨て文尾」になって、そこに語気を乗せるというのは、言ってみれば言語というより野蛮な暴力になるわけです。

この辺を本当にキチンと考えないと、このままでは日本語は行き詰まってしまうのではないかと思います。例えば、コンビニで100%完璧な日本語を話す店員だと、細かなニュアンスの中に自分が期待する敬意表現に「足りない」何かがあると「切れる」という身体的反応で、相手のメンタルに危害を与えてしまう人がいます。

同じような局面でも、相手がアジアの留学生など「準ネイティブ」だと、上下のニュアンスがニュートラルになって、客が「切れる」確率が下がるということもあるようです。この現象は、例えばコンビニ敬語という極端に防衛的な表現が定着し、ついには機械や指差し決済などで会話の極小化が図られるところまで、日本語を壊してしまっているわけです。

いずれにしても、上下関係の自動的な付与をやめ、品格と適切な距離のある日本語をデフォルトにして行く、このことを徹底しないと、最後には日本語は消えてしまうかもしれません。本田圭佑氏の「さん付け」は、そうした危機感を、このコミュニケーションのプロ中のプロはしっかり理解しているということを意味していると思います。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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