かつては東西陣営の盟主として、世界を支配してきた米ロ両国。しかし現在、その超大国が「それぞれの戦場」で苦戦を強いられているというのが実情です。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ウクライナ戦争と中東危機を巡る最新情報を多角的な視点で分析。その上で、国際交渉人としての自身の経験に基づく「勝敗を左右する要素」について解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:世界同時多発「消耗戦」の夏――ウクライナ、イラン、そしてアフリカの角
駆け引き・交渉・調停の違い&世界同時多発「消耗戦」の夏
【ウクライナ:優勢に見えて、実はだれも勝っていない】
7月7~8日、トルコ・アンカラで開かれたNATO首脳会議は思いのほか大きな出来事でした。
ゼレンスキー・トランプ両氏による1年半で10回目の首脳会談で、パトリオットの製造ライセンスをウクライナと欧州9カ国に供与する話がまとまり、トランプ氏は「一度製造方法を教えれば完成までそれほど時間はかからない」と珍しく前向きな発言をしています。
トランプ大統領が前向きな発言をした背景には戦況の変化があるのではないかと考えています。
フィンランド拠点のOSINT(オープンソース・インテリジェンス)団体「ブラック・バード・グループ(The Black Bird Group)」による戦況分析を元に米シンクタンク系メディア「Russia Matters」(7月8日付)などが伝えたところによれば、ロシア軍は6月、ウクライナ国内の占領地域を9平方キロメートル失いました。
それは今年に入って2度目の支配地域の“純減”とのことですが、その要因として考えられるのは、ウクライナ軍が採用する“偵察・ドローン・小規模部隊を組み合わせた浸透戦術”が功を奏し、ウクライナ軍が前線を押し返していることがうかがえます。
英国際戦略研究所(IISS)のナイジェル・グールド=デイヴィス上級研究員の分析では、プーチン氏が今の方針を続ける限り戦争はロシアにとって経済的に立ち行かなくなる可能性が高いとのことですが、実際のところはどうなのでしょうか?
ロシア経済はすでに生産能力の天井に達し、労働力不足は深刻な状態になっています。戦死傷者の急増と国外脱出で労働人口はかつてないレベルまで縮み、高額報酬で志願兵を集める今のモデルは、2025年末以降死傷者数が新規志願兵数を上回り始めたことで限界に近づいているといいます。
ナイジェル・グールド=デイヴィス氏によると「この先は資産の国有化や価格統制、出国制限といった“ソ連型の強制動員”に頼らざるを得なくなるだろう」とのことですが、以前、プーチン大統領が行なった動員に対する国民からのネガティブな反応を考えると、今後、ロシア国内における戦争支持が急激に低下するのではないかと懸念せざるを得ません。
そのためでしょうか。プーチン政権はロシア国民に対するネット監視の強化やVPN規制を実施していますが、それは国民の不満を先回りして抑え込む準備のように見えてきます。
歴史的にロシアは日露戦争、第一次大戦、冷戦での敗北のたびに国内エリートの分裂と政変を経験してきましたが、プーチン氏がその再現を恐れているというグールド=デイヴィス氏の指摘には、なるほどとうなっています。
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