【中東:米軍もまた“弾切れ”の恐怖と向き合っている】
ここで舞台を中東に移します。こちらも“消耗戦”という言葉がしっくりくる展開です。
トランプ政権はイランとの覚書で「戦闘を止め、60日間で核問題などの調整を行なう」としていました。ところがイランはその後の協議に応じず、むしろホルムズ海峡の再閉鎖に言及したことに対しトランプ大統領は「制裁」として連日の攻撃を続け、事態次第では「見たことのない規模の攻撃」を仕掛けるとまで発言していますが、中身を見ていくと話はそう単純ではなさそうです。
まずアメリカがこれまでに費やした戦費が持続不可能なレベルにまで膨れ上がっていることへの懸念があります。
ここ数日、イラン戦争の総戦費が1,000億ドル(約16兆円)に達したという報道が流れていますが、これに破壊されたレーダー基地などの再建にはさらに300億ドルかかるとも言われており、トランプ政権は800億ドルの追加予算を連邦議会に要求していますが、「議会の承認なく戦争を始めた」ことへの不信感を抱く議会がすんなりと追加予算の要求を通すとは考えにくい状況です。
もっと深刻なのはアメリカ軍の兵器の枯渇をめぐる状況です。
CSIS(戦略国際問題研究所)の分析(5月7日付のMark F. Cancian氏・Chris H. Park氏による分析)と国防総省内部の評価によれば、約7週間の戦闘で米軍は精密打撃ミサイル在庫の少なくとも45%を消費しており、中でもTHAAD迎撃弾は最大80%とほぼ枯渇に近く、パトリオット迎撃ミサイルは約61%、長射程のSM-3・SM-6も最大61%、トマホークも30%以上を使い切ったとされています。
補充には4~5年かかると見られ、対中国という文脈まで含めると米軍の一部からは「アメリカの国家安全保障上、危険なまでに在庫が減っている」との懸念が広がっているそうです。
現在、日本や他の西側同盟国、ウクライナへの兵器供給が一時停止されているのもそのためで、複数の情報筋によると、ウクライナ軍のPAC3迎撃弾の在庫が枯渇したようです。
この危機的状況から分かるのは、ウクライナとイラン、二つの戦場が同じ兵器プールを奪い合っている構図なのですが、現時点では即時に行き詰まりを打開する妙案は見当たらないのが現実です。
交渉人の立場から見ると、兵器の残数そのものよりも重要なのは、「相手があとどれだけ戦争を継続する意思を持っているか」です。軍事的優位と交渉上の優位は必ずしも一致しません。むしろ、自らの選択肢を狭めてしまった側ほど、交渉では柔軟性を失うことがあります。この点は、過去に私が携わった紛争でも何度も目にした現象です。
また、迎撃能力の低下も見過ごせません。開戦当初7週間に及んだイラン軍の反撃で、親米湾岸アラブ諸国に配備した米軍レーダーサイトや統合司令部が破壊され、防衛能力は著しく落ち込み、回復の目途は立っていないのが現状です。イラン軍がヨルダンの米空軍基地を攻撃した際には、弾道ミサイルだけの攻撃だったにもかかわらず、少なくとも3発が防空網をすり抜けて着弾したとの報告もあり、状況の深刻さがうかがえます。
一方でイラン側の防空網や弾道ミサイル在庫は、実はそこまで痛んでいないという分析もあります。
先月リークされた情報(リーク先はThe New York TimesとThe Washington Postとのことですが、リーク元は明かされていません。ただ、アメリカのDIA- Defense Intelligence Agencyではないか?との見解が存在することを追記します)によれば、イラン軍の33ある防空システムのうち30がいまだ稼働状態にあり、弾道ミサイルの在庫水準も70%程度を維持しているとのことですが、これが仮に事実だとすれば、トランプ大統領の「イランは丸裸だ」という強気の発言は、かなり危うい楽観論だったことになります。
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