日本人がデジタル的思考を持たぬままExcelに出会ってしまった悲劇。我が国が「神Excel」を生み出してしまった理由

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今や業種を問わず必要とされるデジタルツールのスキル。書店に足を運べばそれらの操作マニュアル本が多数並んでいますが、他のツールに比べ「Excel本」が多数目につくのが事実ではないでしょうか。その謎解きを試みているのは、文筆家の倉下忠憲さん。倉下さんは自身のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』で今回、Excel本が飛び抜けて多い背景と、現状の日本ではDX推進が上手く行くはずもない理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:Excelとデジタルツール的思考

「手軽に使えるレポート用紙」ワードや「楽につくれる紙芝居」パワポとは別格。なぜExcel操作本だけが図抜けて多いのか

書店のパソコンコーナーにいくと、WindowsやiPhoneの基本的操作の本に並んで、Excelの使い方の本が大量に並んでいるのを見かけます。WordやPowerPointの本もあるのですが、Excelの本は頭一つ抜けて種類が多い印象です。なぜExcelはそんなに特別なのでしょうか。

現代の高校生は「情報1」という素晴らしい科目があり、コンピュータやプログラミングを教えてもらっているようですが、私の世代だとせいぜい「技術」の授業で線で描かれたカメが進むのをプログラミングした程度。私より上となるとまったく触ったことがないまま大人になった、という人も多いでしょう。

しかしながら、現代で何かしら仕事をしようと思えば「Word、Excel」は最低限使えることが求められます(PowerPointがここに含まれない点が、日本のデスクワークを象徴している気もしますが、それはさておき)。WordやExcelの扱いは、労働における基礎スキルになっているわけです。

日本の義務教育というのは、社会に労働力を安定的に供給する役割を担っていたと考えられますが、少なくともある世代の人たちにとって、社会に出て働くようになってから急に「新しいスキル」が求められるようになったと言えるのでしょう。教育と需要にギャップがあるわけです。

書店に並ぶ数々のコンピュータ書は、そうしたギャップを埋めるものだと捉えられます。そして、その中でもExcel本の数が飛び抜けて多いのが面白いところです。

「Word、Excel、PowerPoint」は、どれもデジタルツールであり、ビジネスユースにおいて基本的な役割を担ってくれるものですが、この中でもExcelは一番「デジタル」っぽいのです。言い換えれば、「アナログ」っぽくない。

Wordは、究極的に言えば「手軽に使えるレポート用紙」として理解すれば問題はありません。細かい操作や設定を把握する必要はあっても、根本的な理解は既存の概念の流用でも可能です(実際は細かい齟齬がたくさん生まれるのですが、実用においては無視できます)。

PowerPointも同様で、「楽につくれる紙芝居」だと考えれば概念的把握は容易でしょう。アナログ的概念を使い回せるわけです。

しかし、Excelは違います。Excelは、「表計算ソフト」と呼ばれますが、アナログの表と同一の概念ではありません。見た目自体はたしかに「表」なのですが、Excelの力点はむしろ「計算」の方にあります。表を使って「計算」するソフトがExcelなのです。

ここで、コンピュータという単語が「計算機」を意味することに注意を向けてもいいでしょう。他の二つに較べて、コンピュータ性が高い(コンピュータ性を体現している)ツールがExcelだということです。

ある場所に数値を書いておくことで、他の場所でその数値を参照し、自動的に計算したり、グラフを作ったりする、というコンセプトはまったくもって「アナログ」的ではありません。非常にデジタルツール的な思考です。その意味で、アナログ的な感覚しか持たない状態では、うまく捉えられないのがExcelなのです。

だから最初はうまく使えないし、ガイドブックのようなものが必要になる。そういう構造があるのでしょう。

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