8月29日に米軍に11番目の統合軍が発足。その任務は宇宙分野での活動に特化された「宇宙軍」だと報じられています。アメリカは何と戦い、何を守ろうとしているのでしょうか?メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんが米軍の狙いをわかりやすく解説。連動する形で変わっていくであろう自衛隊の動きからも目を離せないと結びます。
なぜ「宇宙軍」なのか
米国で11番目の統合軍が発足し、日本の防衛政策にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。
「米軍は29日、地域や機能別に設ける11番目の統合軍として、宇宙分野の任務を統括する組織となる『宇宙軍』を新たに発足させた。主に人工衛星の運用や宇宙での監視などにあたる。宇宙での軍事活動を強化している中国やロシアに対抗する狙いがある」(8月30日付日本経済新聞)
防衛省も同じ方向に動きを見せ始めています。
「防衛省は30日、総額5兆3223億円の令和2年度予算の概算要求を決めた。今年度当初予算比1・2%増で、過去最大規模となった。海上自衛隊の護衛艦『いずも』を戦闘機搭載可能な事実上の空母に改修する費用を計上。昨年策定した『防衛計画の大綱』で安全保障上重要な新領域に位置づけた『宇宙』における能力強化に向け、宇宙作戦隊新設費用も盛り込んだ。
航空自衛隊には宇宙作戦隊を新設し、自衛隊の活動に不可欠な日本の人工衛星を外国の妨害から守る。日本の人工衛星への電磁波妨害を地上から監視する装置の開発などに40億円、宇宙空間に設置する光学望遠鏡の開発に33億円を計上した。2年度は20人態勢で、必要に応じて増強する」(8月31日付産経新聞)
なぜ、宇宙軍なのでしょうか。宇宙で中国やロシアと戦争でも始めるつもりなのでしょうか。その疑問を解くキーワードは「NCW(ネットワーク中心の戦い)」です。
NCWは、高次の情報ネットワークによって情報を伝達・共有することで、意思決定を迅速化するとともに戦力運用を効率的に行うことを目的としており、作戦展開速度の向上、殺傷力の増大、残存性の増大が獲得できるとされています。
高度3万6000キロに位置する早期警戒衛星から始まり、F-35戦闘機、イージス艦、戦闘ヘリコプター、ハイテク化歩兵などのあらゆるプラットホームをネットワークでつなぎ、それを戦力化しようというものです。
そういうNCWです。ネットワークを守るためのサイバー面の能力も不断に向上しています。それぞれのプラットホームの防御力も進化しています。その中で、宇宙が最も注目されるのには理由があります。
地球を回る軌道上にある様々な軍事衛星は、早期警戒と偵察のほか通信とデータ中継などを担っており、米軍にとって目であり、耳であり、五感の全てといってよいほどの重要な位置づけにあります。米軍の優位性は宇宙と地上、海上、空中の戦力を結ぶNCWにかかっているといっても過言ではありません。
このNCWで米国に肩を並べられる国はありません。中国とロシアは、NCWで圧倒的に水を空けられているからこそ、自分たちの能力でもなんとかなりそうな衛星攻撃兵器などを開発し、米国に対抗しようとしてきたのです。
発足した米国の宇宙軍は、そうした中国やロシアの動きを封殺するための存在ですが、はたしてどのような動きを見せるのでしょうか。それに連動する形で自衛隊がどのように変わっていくのか、特にここ数年は目を離すことができません。(小川和久)
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