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重度障がい者3人の「訪問講義」を取材。学びの意欲に応えるには?

文科省の取り組み「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」で、採択団体の一員として活動しているジャーナリストの引地達也さんが、3人の重度障がい者の訪問講義を取材し、自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で紹介しています。引地さんは、重度障がい者の学びの意欲をどう充足できるのか、また、学びの機会があることを知らずにいる障がい者に情報を届ける方法について模索しています。

重度障がい者の「学びたい」の声にどう応えていくか

重度障がい者向けの学びの機会を作るために何が必要か─。昨年から調査と実践を繰り返しているシャローム大学校の「訪問講義」は、今年は文部科学省の委託研究の枠組みの中で、これまで実践に取り組んできた東京都小平市のNPO法人、地域ケアさぽーと研究所と共同研究として講義を実施している。

この数日、同研究所から訪問する元特別支援学校教員らの授業を受けていた学生らを訪問し、その様子を見たり、私が実際に授業をしたり、現在の学びに対する思いをインタビューし、それぞれの学生の学びへの期待と希望に接した。

その言葉に、学びの可能性を実感しながら、現在の学びの展開や拡充、そして、まだ「学びの場を知らない人」への普及をどのようにしたらよいのか、ますます具体的に動かなければならない、と思案している。

東京都小平市の国立精神・神経医療研究センター病院(小平市)の男性は、東京五輪の聖火ランナーになりたい強い希望があり、選考結果を心待ちにしていた。

世界に関する勉強が好きで、希望する学習をたずねると、唇の動きが不自由だが、のどからの声をゆっくりと発出し「オリンピックの歴史、それから社会の地図、地理、世界とか日本とか全部、あとは宇宙、惑星とか、あとは、いろんなことば、英語、中国語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語、いろんな言葉を勉強して海外に行ってみたい。特にフランス、フランスは美術館とか、あとはいろんな人たち、いろんなスポーツ、わからないスポーツある。たとえばラグビー、テニス、バスケットボール、柔道、水泳、バレーボール。自分の体とか勉強したい」と明確に答えた。

学習ではフェイスブックで自分の身の回りであったことを公開することを通じて、自己発信の表現を学んでいる

東京都江東区の東部療育センターでは62歳の女性が、担当の元特別支援学校教諭の訪問を待っていた。最近、担当の看護師が異動となり落ち込んだ気分が続き授業が出来ない状態が続いたが、気分を回復させての久々の授業。

元教諭は授業で使う数々の道具を両手いっぱいに抱えていた。この受講生が好きな授業は英語。アイパッドの英語教材を使って学習を進める。簡単な文章や単語を4択から選んだり、文章を組み合わせていく授業だ。

さらに料理のレシピを考え、マニュアル作りにも挑戦し、最後はエプロンづくりを行うことを約束していて、この日はいくつかの布を用意し、いくつかのデザインの中から最もカラフルなフルーツをあしらったデザインを選んだ。

「これが一番明るい色ですね!」と言って、その布を体にあてがうと嬉しそうに微笑む。そして、彼女自らの手で電源をオンにできる装置を使って、ミシンを動かし、エプロンを縫い上げていく。

それは確実な「共同作業」。これらの道具はすべて元教諭の私物だが、その1つひとつに学びのための工夫が凝らされている。

東京都清瀬市では40代後半の女性が、私が来るのを緊張した様子で待っていたという。どのように自己紹介したらよいのかと思案し、結局は私が到着しても、その自己紹介文の構成中で「自分を知ってほしい」という思いが伝わった。

ヘルパーが会話の補助もしてくれていて、壁には韓国の俳優や歌手のさだまさしのポスター、となりのトトロのぬいぐるみ、そして「赤いバッグ」を買うのが趣味とのことで、横になった時の目線の先に見えるように、その赤いバッグが並べられている。

この日の授業は元特別支援学校教諭が用意した電子顕微鏡でハエやたまねぎの細胞を見る、との内容だ。科学の実験はドキドキ感があって面白い。見えた瞬間に私やヘルパーから歓声が上がり、ベッドに横たわるこの女性も笑顔がはじける。

今回紹介した3者はそれぞれ日常生活には介助が必要な重度の障がいがあるものの、「学ぶ」ことには意欲的で現在、学習支援のボランティアが行う2週間に1回程度の約120分授業よりもさらに授業を受けたいと望んでいる。

それは権利としても成り立つし、必要であると考えている。どんな形でそれがなしうるのか、ここからが知恵の出しどころだ。

image by: Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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