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中国の犬ジャッキー・チェンと真逆。香港の現状伝える歌手の覚悟

中国建国70周年を迎えた10月1日、デモに参加していた高校生が警官に実弾で撃たれるという事態が発生した香港。市民らは中国本土との対決姿勢をますます強めています。そんな祖国香港の現実を伝え続ける民主派歌手が受けた「嫌がらせ事件」を紹介しているのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんはメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』でその詳細を記すとともに、中国の卑劣な手口を批判しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年10月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

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香港で警官が実弾発砲、抗議行動の少年危篤 北京では建国70周年軍事パレード

10月1日、中国・北京の天安門では、建国70周年記念軍事パレードが盛大に行われました。軍事パレードでは、中国の最新兵器がズラリと並び、米国本土まで到達可能で複数の弾頭が搭載できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風(DF)41」も初公開されました。報道によれば、習近平は演説で、「全国の各民族は一層しっかりと団結しなければならない」と呼びかけ、香港については一国二制度を堅持して長期的な繁栄と安定を維持すると述べたそうです。

習近平氏「中国の地位揺るがぬ」と米を牽制 建国70年行事

しかし、同じ日に香港では、デモに参加した高校生に対して警察官が至近距離で実弾を発砲し、危篤に陥っているというニュースも流れました。

香港デモ隊に“発砲”報道 1人撃たれたか

今回の香港の騒動では、すでに4名が香港の未来を悲観し抗議の自殺をしています。また、デモに参加した多くの市民がケガをして流血してきました。すでにたくさんの血が流されているのです。この現実を世界に知ってもらおうと活動している数名の活動家の中には、香港の歌手である何韻詩デニス・ホーさんがいます。ホーさんは、中国語と英語を駆使して、様々なメディアで香港の現状を訴えています。その活動の一環として、台北でのデモに参加したとき、事件は起こりました。

ホーさんが、台北で行われた香港を支援するための街頭デモに参加した際、背後から何者かによって赤ペンキをかけられたのです。ペンキは彼女の後頭部にべったりとつき、首筋や肩のあたりにもつきました。ちょうど彼女が街頭インタビューを受けていたときに起こった事件であり、彼女の周囲には群衆がいたため、犯人は群衆にまぎれて接近したのです。

報道によれば、即座に犯人の男2人が現行犯逮捕され、そのうちの一人は統一派団体のメンバーだったそうです。この事件を受けて、蔡英文総統はフェイスブックで、犯人は法にのっとり厳罰に処されるべきとの考えを示し、「台湾の民主主義を守る意思と決心を厳粛に受け止めよ」とも記しました。

また、行政院長や国民党もこの事件についてコメントを発表しています。以下、報道を引用します。

蘇貞昌行政院長(首相)は30日、事件について記者から問われると、台湾でこのようなことが起きたのに非常に強い憤りを感じているとコメント。台湾は民主主義と法治の国家であるとし、暴力や違法な手段で人に危害を加えることは許されないと述べた。

 

野党・国民党は29日、報道資料で事件への遺憾を表明。加害者のやり方は他人の言論の自由を尊重するという民主主義の精神に反しており、民主主義の共通の敵だとの立場を示した。

香港の民主派歌手にペンキ 蔡総統「法にのっとり厳罰に」/台湾

台湾、香港、アメリカや日本などを含め、今、全世界が民主主義、言論の自由、人権、法治国家など、国家が正常に機能するためのキーワードをどのように捉え、どのように扱えばいいのかが改めて問われているように思います。

デニス・ホーさんは、2014年の香港の雨傘革命のときから民主派としての闘いに参加しているため、すでに歌手として商業的な活動は制限されてきました。商業的な活動というのは、例えば、企業の広告や中国でのコンサートなどです。しかし、彼女は「自分の感情や思想に正直に生きてきたことに対する悔いは全くない」と言っています。

中華圏の芸能人である以上、中国市場から排除されたら歌手生命は絶たれたも同然だというのが常識です。しかし、彼女はその常識を覆したのです。彼女は2012年に同性愛者であることをカミングアウトしています。もしかしたら、そのときから彼女には恐れるものはなかったのかもしれません。

ホーさんは、2019年7月、スイスのジュネーブで開催された国連人権理事会で演説しました。香港の政治的現状、デモの現状などを報告した後、中国を国連人権理事会から除外するように求めるスピーチをしたのです。たった2分間程度のものでしたが、その間、二度も中国がスピーチの中止を要請しました。

香港歌手デニス・ホー、国連でスピーチ「中国を人権理事会から外して」

デモについての明言を避け、保身に走る香港の大スター、ジャッキー・チェンとは正反対です。台北で背後からペンキをかけられたときも、彼女は非常に冷静で、「このような脅しや威嚇を香港の人々は日々うけているそれでも我々は屈しないし撤退しない」と述べて、街頭インタビューを締めくくりました。

彼女は、別のインタビューで次のようにも言っています。香港の芸能界で同志を見つけることは極めて難しいけれど、有名人として届けるべき声がある。自分の立場で自分にしかできないことがあるならば、その責務を果たしたい。そして、それは自分の気持ちに正直に行動することでもあると。

中国に立ち向かう香港の有名歌手

異なる意見を持つ人物に対して、背後から赤ペンキをかけるという卑劣な行為は、中国人の常套手段です。李登輝元総統もかつてある退役軍人から赤ペンキをかけられたことがありました。

インドネシアの華僑から、香港経由でアメリカに移住し、現在は台湾在住の林保華というジャーナリストがいます。彼は、ノーベル平和賞を受賞した中国の活動家で、度重なる逮捕で2017年に獄死した劉暁波氏と、あるメディアで対談したことがありました。そのとき、劉暁波氏は「中国は、300年間くらい西洋植民地として統治されなければ、民主化は不可能だ」と言っていました。林氏も、中国共産党に目をつけられているジャーナリストであり、二人は同じ思想の持ち主です。

しかし、林氏は劉氏が立ち上げた「08憲章」(2008年12月9日に劉暁波ら303名が連名でインターネット上で発表した、中国の政治・社会体制について、中国共産党の一党独裁の終結、三権分立、民主化推進、人権状況の改善などを求めた宣言文)に署名しませんでした

私は、台湾で林氏に会ったとき、このことを質してみたことがあります。すると彼は、「08憲章」の中に「民族自決の項目が追記されなければ署名はしないと断言したのです。しかし、かつて劉氏は「民族自決」の項目を入れてしまうと、皆が恐れて署名してくれないから加えるのは避けたとのことでした。

今の「中華民族」は、チベット人、ウイグル人、モンゴル人、香港人などの周辺民族によって「五独乱華」(五胡が中華を乱す)の状態です。考えてみれば、香港でデモをしている若者たちは、中華人民共和国の教育を受けた世代です。建国70周年を誇る中国が、人民を洗脳しようと必死になって行ってきた教育を受けた世代が、一方では中国共産党の犬となり一方では中国共産党に立ち向かおうとしています。この構図は、今後の中国の体制において重要な要素となっていくでしょう。

image by: coloursinmylife / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年10月2日号の一部抜粋です。

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