MAG2 NEWS MENU

国旗の「公共性」から考えるインクルーシブな行動が自然な社会

さまざまな福祉活動に関わるジャーナリストの引地達也さんが、その活動の中で感じた課題や、得られた気づきについて伝えてくれる、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』。今回は、来年のオリンピック・パラリンピック開催を意識し万国旗の下で実施したイベントをきっかけに、国旗のもつ多様性と公共性について考察。インクルーシブな行動が自然にできる社会実現のための考えを述べています。

国旗の「公共性」から考えるインクルーシブな行動

シャローム大学校で行っている10月のオープンキャンパスは、本拠を置く埼玉県和光市が2020年のオリンピック・パラリンピックの射撃競技の会場の玄関口になることから、五輪を知ってもらい、玄関口の清掃作業をする「学び」のイベントを行った。

五輪のキーワードは多くの国が参加することの多様性であるから、学びの雰囲気を盛り上げるために、会場には万国旗が張られて、その色彩と模様の鮮やかさに、参加者も支援者も楽し気な気分になった。

会場が狭いために飾られた国旗はごくわずかではあったが、なかなか難題な国旗もあって、どこの国の国旗か想像するのも楽しい。以前、子供向けに国旗を通して世界を知ってもらうプログラムの開発や、「国旗おぼえうた」なるものを制作した経験から、国旗はその国の文化や地域性が分かると、国旗が示すそれらの色や形は識別の記号ではなく、その国が持つ物語となって鮮明になってくる。だから、面白い、との話を久しぶり語ってみた。

会場で掲げられた国旗は、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、イラン、イラク、アフガニスタン、カタール、バングラデシュ、タジキスタン。インドネシアはモナコと同じ国旗なので、それはモナコかもしれないが、アジアの中にあることから、おそらくインドネシアであろう。そんな話もしながら、それぞれの色の意味についての話をしていくと、話している方も楽しくなってくる。障がい者向けの学びの場の中で色から始まる話は展開がしやすい

タジキスタンの国旗はいきなり見せられて分かるほど、日本での露出度は多くはない。国旗の認知度はそのまま日本での関わりあいの深さによって高低するものだが、どれにも等しく尊厳がある。尊厳という言葉は堅苦しいが、本来ならば国旗はそれぞれの国家が民主的な手続きでコンセンサスを得た「公共的なシンボル」であるのが理想と思いつつも、民主的ではない形で成立している国旗があることも事実だ。

公共への議論は多くの国が辿ってきた道である。日本の場合も1999年の国旗国歌法の成立をめぐっては、太平洋戦争の苦い経験から、戦時中と変わらず日の丸を国旗とするのは認めたくない人も存在したし、今も存在している。

私が若手の新聞記者時代にあった戦後50年でも、だんだん衰えつつあるものの戦中派も経験を口にすることで反戦運動はある程度のリアリティを維持しつつ、日の丸に絶対反対の集会も各地で行われていた。戦中を知る人の声は尊く、あの悲劇を繰り返してはならないとの声は力強かった。

しかし戦後は遠のき、現在は国際社会でも国内においても、日の丸が公共的なコンセンサスを、完全ではないことも含めて、一般に得られ、「公共」となってきた。だから、この公共である、ということを意識するところから、私たちが自分たちの国=社会の姿を考えるきっかけになれば、と思う。私たちは五輪を行って、日の丸を公共のものとして考える国民として、どんな社会を作っていくか、という問いである。

この議論の中で、私が考えるのは、偏狭な気持ちで不寛容な姿勢では、公共が隔絶された狭い世界に閉じ込められてしまい、他者を排除してしまう傾向になってしまうことだ。人とモノの移動が活発になり、国境を越えて情報交換が自由に行える現代において、どんな人も同じところで同じように事を行うインクルーシブを基本姿勢にするのは自然な流れである。

公共の議論はおそらく、インクルーシブであろうとする自然なエネルギーと一体であってほしいと思うのだが、日ごろ、障がい者雇用や障がい者の学びを実践する立場として直面するのは、インクルーシブに対する「心の抵抗」のような壁である。

いつも思うことは、何もかも自然に出来ないだろうか、ということ。障がいがあって「できないこと」は、「あら、そうなの」と言って、当事者本人の希望に沿うように体や頭を動かす。これを特別ではなく自然なこととして、その行動はわたしたちの「公共的」な姿勢として定着できないか。

その形の1つとして日の丸も公共の中の1つとして、誰もがインクルーシブに生きる社会のイメージとつながれば、それは行動も伴う公共財として位置付けられるのではないかと思う。

image by: Shutterstock.com 

引地達也この著者の記事一覧

特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスティックなやさしい未来 』

【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け