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2兆円が回収不能。なぜ孫正義氏はWeWorkに「騙された」のか?

孫正義氏の「真っ赤っかの大赤字」との言が注目を集めた、ソフトバンクグループ中間決算報告。その大きな要因となったのが、米ベンチャー企業WeWorkへの投資の「失敗」でした。なぜソフトバンクは、よくよく調査してみれば「不動産の又貸し」でしかないWeWorkへの多額の資金注入を敢行したのでしょうか。そしてその資金回収は可能なのでしょうか。「Windows 95を設計した日本人」として知られる中島聡さんは今回、自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、ベンチャー企業と投資サイドの関係性を改めて記すとともに、ソフトバンクの「資金回収の見込み」について言及しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年11月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

私の目に止まった記事

The Spectacular Rise and Fall of WeWork

ソフトバンクが大量に資金を注入した挙句、上場に失敗して破綻寸前にまで追い込まれたWeWorkの盛衰を分かりやすくまとめた映像です(音が出ます)。英語の聞き取りの練習も兼ねて、何度か観てみるのも悪くないと思います。

WeWorkは、創業者のAdam Neumannは、「新しい働き方を提案する」という派手なビジョンの元にWeWorkを成長させ、そのビジョンに惚れ込んだ孫正義氏が、「勝ち馬に乗り大量の資金を投入することにより市場で圧倒的な力を持つ存在に成長させる」という投資戦略で、1兆円を超える資金を投入して育てて来たベンチャー企業です。

ベンチャー企業は、「成長のための運営資金」を必要としており、そこにリスク承知で資金を提供するのがVCベンチャー・キャピタルの役割です。

事業が始まったばかりの頃は、VCはベンチャー企業に対して数十万ドルから数百万ドル(数千万円から数億円)の資金を提供します。ベンチャー企業の経営者は、その資金で優秀な人材を集め、市場に製品やサービスを提供し、「そこに市場があることを証明した上でさらなる資金をVCから集めて成長を続けます

多くのベンチャー企業は、この期間、赤字で走り続けますが、赤字になる理由は「成長のための先行投資」が必要なためで、成長が鈍化して先行投資が不要になれば、利益を生み出すようなしっかりとしたビジネスモデルを持っている必要があります。

しかし、まだ誰もやったことのない事業に関して言えば、「そこにビジネスチャンスがあるのかどうか」を証明することすら難しく、資金集めに関しては、創業者のカリスマ性=現実歪曲空間を作り出す力)がとても重要なのです。

創業者のAdam Neumannは、そんな力を持っており、孫さんに「この会社に大きく投資すれば、大きなリターンが得られるに違いない」と思わせることに成功してしまったのです。

しかし、実際に上場の準備を始めた段階で、WeWorkのビジネスは、長期リースで借りたものを短期リースで貸し出す「不動産の又貸し」でしかないこと、長期リースの期間が必要以上に長いこと、Adam Neumannが自分が所有していたドメイン名を高額で会社に買い取らせるなどの奔放な経営がされていたことが明るみに出て、一気にメッキが剥がれてしまったのです。

WeWorkは、ソフトバンクから提供された潤沢な資金を使い、大量の人を雇い、多くのオフィスをリースしていたため、上場による資金注入が見込めないとなると、一気に資金ぐりが苦しくなり、(大株主である)ソフトバンクに救済を求める状況になってしまったのです。

ソフトバンクは、CEOのAdam Neumannを追放した上で、さらなる資金注入をして8割以上の株を取得した上で経営権を握ってWeWorkの事業を立て直すことにしましたが、この比率は、もはや「ベンチャー投資ではなく、「子会社化」です。

ソフトバンクは、トータルで2兆円近い資金を提供することになりますが、Regusブランドで貸しオフィスを提供し、すでに黒字化しているIWGの株価総額が4,000億円しかないことを考慮すれば、初期投資の回収はおろか救済のために提供した資金の回収すら難しいだろうと私は思います。

高校生の7割、中学生の6割、小学生の半分が月に1冊も雑誌を読まない状況はなぜ生まれたのか?

子供達の書籍離れがストップしたのにも関わらず、雑誌離れが加速しているのは、政府による書籍のサポートがあったから、雑誌関係者もロビー活動をして政府のサポートを得るべき、という記事です。

私から見ると、既に紙はメディアとしてスマホに完敗していることは明確で、今の時点で重要視すべきなのは、「どうやってより多くの良質なコンテンツに子供たちに触れてもらうか」でしかないと私は思います。

しかし、スマホというメディアには、Line、Twitter、Youtube、漫画、ゲームなどの様々なライバルがおり、その中で、子供たちにコンテンツを楽しんでもらうのは簡単ではありません。特にスマホは、紙の媒体と違って、「様々なコンテンツが楽しめる汎用デバイス」であるため、「今は読書の時間」のように親や教育者がコントロールするのが難しいという側面があるのが、とても悩ましいところです。

この問題に対しては、大きく分けて二つのアプローチが考えられます。

一つ目は、技術でコントロールする方法で、「読書の時間には読書アプリ以外のアプリにアクセスすると先生にすぐにバレてしまう仕組み」などを導入するなどして、ある程度強制的にコントロールするアプローチです。お金はかかりますが、専用デバイス(KioskモードにしたiPadなど)を親や学校側が提供する手もあります。

二つ目は、子供たちにコンテンツで真っ向から勝負するアプローチで、ゲームやYoutubeに負けない魅力を持ったコンテンツで、子供たちが自らそのコンテンツを選ぶように仕向けるのです。その意味では、文字にこだわらず、漫画や動画を使ったスマホに最適化されたコンテンツで勝負することも真剣に考える必要があると思います。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年11月12日号の一部抜粋です。

image by: glen photo / Shutterstock.com

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